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青苔さん

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キラキラ星幻想曲

19/06/24 コンテスト(テーマ):第169回 時空モノガタリ文学賞 【 純情 】 コメント:1件 青苔 閲覧数:70

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 空を見上げるのが好きだった。
 幼い頃は祖父の膝の上で、空を見上げながら、よく昔話を聞かせてもらったものだ。そう遠くない、昔の話。祖父が子供だった頃の話。
 祖父は子供の頃、地球に住んでいた。
 地球というのは青い星で、水がたくさんあるから青いのだと、祖父は懐かしそうに空を見上げていた。空にはたくさんの星にまじって、祖父の住んでいた青い地球も見えていた。それは明るい水色に輝き、僕の住む火星からでもよく見えた。
「地球には、もう誰も住んでいないの」
 僕は祖父を見上げて、そう尋ねたものだった。あんなに美しい星から、祖父はなぜ火星へやって来たのか、と疑問だったのだ。僕ならずっと地球に住み続けることを選んだだろう。
「いや、まだ住んでいるよ。昔ほどたくさんの人ではないがね。もう、たくさんの人は住めないんだ」
「どうして?」
「氷が溶けて、海が広くなったからね」
「海?」
「たくさんの水のことだよ。たくさんの水が地面を隠してしまったから、人間の住める場所が少なくなったんだ」
 僕はその、海、というたくさんの水を見てみたかった。一つの星を覆いつくすほどの、たくさんの水。そんな星に今も住んでいる人たちがいる。この世界に楽園というものがあるならば、それはきっと地球のことだろう。僕はそんな場所に住んでいる人たちが、とても羨ましかった。

 いつか地球へ行くのが子供の頃からの僕の夢だったが、夢は叶いそうにない。
 火星から地球へ行く便は、もう運行されていないからだ。地球から火星へ来るだけの一方通行。地球へ行こうと思ったら、宇宙船のパイロットになるか、密航するかのどちらかになるだろう。パイロットは僕なんかには到底なれないほどの狭き門だし、密航は見つかればどうなるか分からない。僕は生まれてくるのが遅すぎたのだ。
 だから僕は、夜ごと望遠鏡で地球を眺める、アマチュア天文学者だ。
 本当は、天文学者なんておこがましい。ただ、地球を観察することが好きなだけの、どこにでもいる一般人。何かを発見したこともないし、論文を書いたこともない。そもそも地球については研究しつくされているし、もともと人類は地球に住んでいたのだからその頃の資料がたくさん残されている。それは、火星という離れた場所から観察するよりも、ずっと詳細な資料だ。
 だから僕は、夜ごと地球を眺めているだけの……。
 でも、その日の地球はいつもと少し違っていた。
 暗い宇宙に浮かぶ輝くばかりの青さは同じなのだが、地球の所々がキラキラと光っているのだ。地球にある海の青さは格別に美しいものだが、さらにその地球が光を反射する宝石のようにキラキラと光る姿は、また一段と美しいものだった。僕は時間を忘れてその光景に見入っていた。それまでの人生において、これほど美しいものを僕は見たことがなかった。
 その現象の理由を、僕は知らない。ただ、とても美しいものを見た、という記憶だけが残り、地球に対する憧れをいっそう強くした。

 もう火星へ行くことは叶わない。私は涙に滲む目で空を見上げながら、そう思った。
 人類が火星への移住を始めて百年ほどの時が経過し、地球に残った人類の格差は広がる一方だった。地球に残った人類は二つに大きく分けられる。自然環境の乏しい火星へ行くよりも美しい地球で生を全うしようとした資産家と、火星へ行くだけの資金が足りなくてやむを得ず地球に残った貧乏人だ。
 しかし地球は年々人類が住むには厳しい環境になってきており、この百年の間に土地もずいぶんと少なくなった。地球に見切りをつけてようやく火星への移住を決める資産家もいたが、それでもこの状況は変えられなかったようだ。
 ついに、土地をめぐって戦争が起こったのだ。
 剣や銃で応戦していた時代ならまだ良かった。しかし科学が進歩した今の時代、それでは済まない。核兵器や化学兵器を多用するようになり、それがより一層の地球環境の悪化を招いた。
 地球の中で人類の住める土地はますます狭くなり、戦争もますます激しさを増す、という悪循環。人類はそこから抜け出せずに、地球は近いうちに、昔の美しかった地球ではなくなってしまうだろう。
 そして、きっと私ももうすぐ死ぬ。こんなふうに死ぬくらいなら、私も密航を試みれば良かった。密航した人たちは無事に火星へたどり着けただろうか。それとも、途中で見つかって奴隷にされたか、宇宙に捨てられたか。それでも私よりは幸福だったのではないか。
 私は、もう動かない体を地面に横たえながら、空を見上げていた。
 火星から地球はどんなふうに見えているのだろうか。
 核兵器が放つあの強い光は、火星からでも見えるだろうか。
 見えていたら、地球の異変に気付いて、誰か助けに来てくれるだろうか。
 助けに来てくれたら、良いな。
 でもきっと、もう、間に合わない。


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このストーリーに関するコメント

19/07/14 タック

拝読しました。
遠くから見れば美しい光も、実際は人を殺めるための兵器に過ぎなかった...。とても皮肉な状況だと感じました。
中盤までの展開と後半のシーンの雰囲気の差に引き込まれました。
大変面白かったです。読ませていただき、ありがとうございました。

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