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つつい つつさん

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お日様

19/06/20 コンテスト(テーマ):第169回 時空モノガタリ文学賞 【 純情 】 コメント:2件 つつい つつ 閲覧数:110

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 学生時代の友人の理子とランチした。理子は大学を卒業してすぐ上京したから、会うのは2年ぶりだった。
「でも、美結が公務員なんてね。それもちゃんと続いてるんだから意外なもんね」
 食事の後、紅茶を飲みながら理子は私を不思議そうな目で見つめた。
「なんでよ。やり甲斐もあるし私には合ってるよ。で、そっちはどうなの?」
 理子は髪を右手でかきあげ、いかにも苦労してますって表情で言う。
「やっぱり、東京の人はみんなクセ強いよ。私も美結みたいな友達いなかったら圧倒されてたと思うわ。ほんと、ありがとう」
「どういう意味?」と、受け流しながらも内心驚いていた。理子にそんな風に思われていたなんて全然知らなかった。私にしたら理子ほどひどい人間なんていないってずっと軽蔑してたのに。
 理子と私は中学から大学までずっと一緒だった。中学の頃から理子は派手で無神経でいつもクラスの中心にいた。それに比べて私は中学三年で理子と仲良くなるまで教室の隅でひっそりと本を読んでいるような空気のような存在だった。

 時計はもう11時半を過ぎていた。午前中の受付ももうすぐ終わりだ。のんびりとした時間が流れる中、農協の斉藤さんがバタバタと役所には似合わない今にも殴りかかってきそうな剣幕で入ってきた。
「どうしてくれるんだよ。この書類今日中に送らないといけないんだぞ」
 10時頃斉藤さんの奥さんが来て、書類の不備で追い返していたから、予測はしていた。
「だから、相手方のハンコがないと受理出来ません」
 受付に身を乗り出し私を睨みつける。
「こんなお嬢ちゃんじゃなくて、責任者だせよ。早く!」
 斉藤さんは机を大げさに叩き、周りを見渡す。
「この件の責任者は私です。私が認めなければ受理しません」
 12時を過ぎても斉藤さんは喚き散らしたが、私が一歩も引かないので諦めて帰っていった。
「三浦さん、大丈夫?」
 斉藤さんが帰った後、直属の上司である高倉主任が不安そうにやってきた。
「主任、あれくらい平気です」
 私は笑みを浮かべた。
 主任はお年寄りには評判のいいおとなしくて温厚な人だけど、斉藤さんみたいな厄介な人には「はい」も「いいえ」も言えず、無駄な時間を費やすことになる。だから私は問題事は主任の前に自分で処理するようにしている。
 
 土曜日、町で一番立派なホテルにあるレストランに恋人に誘われた。
「主任、こんないいレストラン、どうしたんですか?」
 上司でもある高倉優司は「主任はやめてよ」と笑う。誘われた時点で気づいていたが緊張しながらもちゃんと「結婚して下さい」と彼らしいプロポーズをしてくれた。すぐにOKしたけど、たぶん理子に会わせたら「なんであんな魅力も何もない男と結婚するの?」って、驚かれるだろう。どうせ理子のことだから「ひょっとしてすごいお金持ち?」なんて言うのはわかっていたけど、彼は金持ちでも何でもなく、ただ優しいだけの人だった。

 中学の時、理子と仲良くなったきっかけはイジメだった。理子はただ自然に人をいじめた。中学の頃から大学を卒業するまでいつも誰かをいじめていた。
 中学3年の時のターゲットは笹山君だった。笹山君はスポーツも勉強も特に出来るわけでもなく、人から頼まれると嫌とは言えない平凡でおとなしい人だった。昼休みはお弁当を一人で食べた後、図書室に籠もるような私と同類の人間だった。そんな笹山君とは図書室で周りに誰もいないとき、好きな作家や本について時々語り合ったりしていた。
 教室を出る時、たまたま理子の前に笹山君がいて邪魔だったとかの理由だったと思う。理子は笹山君が動く度に「邪魔」とか「ノロマ」とか、「薄す気味悪い」とか罵るようになった。そして、笹山君がいたたまれなくなって逃げようとすると足を引っかけて笹山君を転ばした。それは瞬く間にクラス中に伝染し、誰もが笹山君が動く度に足を出して転ばした。そして、笹山君が私の席の真横で転んだ時、理子は私に言った。
「気色悪いよね、こいつ?」
「うん、すごく気持ち悪い」
 私がそう答えると、理子はゲラゲラと笑った。私の声を聞いた笹山君は絶望的な目で私を見ると、ヒンヒンとすすり泣いた。それを見た理子は堪えられずに教室をのたうち回って笑った。それからクラス全員ひとり残らずゲラゲラと大笑いした。
 次の日から笹山君は学校に来なくなった。そして、私は理子に気に入られ、いつも一緒にいるようになった。

 プロポーズの後、彼の部屋で一緒に過ごした。夜中に目が覚めるとスヤスヤと寝息を立てる彼がいた。そっと頭を撫でると小声で呟いた。
「心配しないで、優司は私が守るから。どんなに弱くても、壊れそうでも、私が誰にも傷つけさせたりしないから」
 彼の体に寄り添い、彼のにおいやぬくもりをいっぱいいっぱい吸い込んだ。お日様の香りがした。


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このストーリーに関するコメント

19/07/08 タック

拝読しました。
自身では気づいていないと思われる主人公の性質。その冷めた感じが恐ろしく、また自分としては魅力的にも映りました。
主人公の主任に対する好意は純粋なものなのか、そうでないのか...。
大変面白く読ませていただきました。ありがとうございました。

19/07/12 つつい つつ

タック 様、感想ありがとうございます。
本人にとっては自分が変わったことなど気づかず、変わらない感覚で生きていると思っているのだと思います。

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