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hayakawaさん

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数え切れない優しさがあることを覚えていてよ

19/06/19 コンテスト(テーマ):第169回 時空モノガタリ文学賞 【 純情 】 コメント:1件 hayakawa 閲覧数:85

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 大学時代に僕と玲奈は出会った。ゼミが一緒だったのだ。僕は適当に発表していたが、彼女は違った。引用文献をこちらが圧倒されるほど調べあげ、教授顔負けの発表をした。彼女はその時彼氏がいて、僕は男友達の一人だった。なんとなく男友達というのは切ないものだ。本当は僕も彼女と付き合いたかった。
 卒業後、彼女は大手の化粧品メーカーに勤め、僕は小さな学習塾に内定を貰うことができた。
 その学習塾は個別指導だったが、生徒と接しているうちに、楽しくなってきた。仕事は深夜まで続いたが、翌日には元気に出社した。
 二年後、二十四の誕生日を迎えた僕は玲奈に連絡してみた。「誕生日だから祝ってくれよ」という連絡だったが、彼女の彼氏がそれを許すかも疑問だったし、何よりも彼女が僕のことを覚えているのかも定かではなかった。
 翌日の朝、携帯電話を開くと彼女から、「いいよ」と連絡が来た。
 僕は週末の誕生日に彼女を表参道のレストランに呼び出した。
 彼女は白いドレスを着て現れた。僕はシャツにジーンズを着ていた。
「やあ、久しぶりね」
 彼女はほんのりと笑った。
「久しぶり」と僕は返事をした。
「何よ。疲れた顔して」
 彼女は僕にそう言ったが彼女の顔の方がこわばっていた。というより彼女は以前より痩せていた。
 僕らはレストランに入ったが、彼女はメニューを眺め白ワインだけ注文した。
「食べないの?」と僕は言った。
「さっきコンビニでおにぎり食べちゃった」
 彼女はおどけて笑ったが、僕には笑いごとではなかった。
「おい。ふざけんなよ」
 僕は少しおどけて言ったが、彼女は涙を流した。
「ここ数日食事が喉を通らないのよ」
「仕事は?」
「今、休職してるの?」
「病気?」
「まぁ。そんなところね」
 僕らは馬鹿みたいに白ワインを飲んだ。
 帰り道はふらふらだった。
「私、彼氏と別れたのよ。今は彼氏募集中ね」
「じゃあ、僕と付き合ってよ」
 一呼吸置いた後、「嫌よ」と彼女は言った。
「どうして?」
「あなたとは友達でいたいのよ。一年で一回くらい会う仲のね」
「じゃあ、来年、僕は結婚指輪を持ってくる」
「酔いすぎよ」

 朝目覚めると彼女は僕の部屋のソファですうすうと寝ていた。
「おはよう」と僕は言った。
「今日は何曜日?」
「日曜日だよ」
 僕らは寝ぐせを治し、歯を磨いて、キッチンで料理をした。
「ああ、駄目ね。こんな時でも死にたくなるわ」
 彼女はぼそっと言った。
「そんな重症なの?」
「ええ。もう体が痺れてるみたいにね」
「死ぬなよ」と僕は言った。
「なんでよ? 私なんか死んだっていいのよ」
「君のために、数え切れない人たちの優しさがあったことを思い出せよ。君は恵まれているんだよ」
「そうね。考えとくわ」
 ごろんとフローリングの床に寝転んだ僕らは猫みたいだった。
 彼女はしばらくするとすうすうと息をしていた。
 僕はぼんやりと彼女のことを眺めていた。
「ねえ」と目を閉じながら、彼女は言った。
「あなたは純粋ね」
 




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このストーリーに関するコメント

19/07/08 タック

拝読しました。
二年の歳月は彼女に何を与え、如何なる災難をもたらしたのでしょうか...。
はっきりと描かれていない分、想像が膨らみました。主人公のある意味での純粋さを、彼女はどう思ったのかも気になるところです。
大変面白かったです。ありがとうございました。

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