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hayakawaさん

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若い感性で描かれた純情って何だよ

19/06/18 コンテスト(テーマ):第169回 時空モノガタリ文学賞 【 純情 】 コメント:1件 hayakawa 閲覧数:97

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 文芸部には部員は二人しかいない。僕である圭介と愛の高校三年生だ。秋の文化祭で出す小説の短編集を出すために僕らは毎日、小説を書いては顧問の先生に出しに行っていた。顧問の先生は頭の禿げた国語教師で、授業は退屈でおもしろくなく、「ハゲ」と陰口をたたかれている。そんな顧問の先生だが、昔から小説を書いて読んできたせいもあるせいなのか、人一倍、部活動には精を出している。
 僕ができた小説、原稿用紙十枚分の小説を先生は読んで、「ここはこうしたほうがいいな。味がでる」としみじみと言うのであった。
「先生は小説書かないんですか?」と僕は聞いた。
 僕自身先生の書いた小説を読んだことはない。
「私の小説はね。退屈な老人のぼやきのようなものなんだ。悲しいかな。僕には文才というものがなかった。でも僕は小説を書くことも読むことも、特に若い感性で描かれた純情な君らのような小説を読むのが好きだよ」
 申し訳なさそうに先生は頭に残った髪の毛を手で触る。
 部室に戻り、愛と向き合って座る。愛は小説を書いた後に受験勉強していた。
「どうだった?」
 愛は僕に先生に見せた小説の評価を聞く。
「いろいろ直せって言われたよ。あのハゲ。ちゃんと小説の価値わかってるのかな?」
「やめなさいよ。ハゲって言うの」
 愛は僕に向かって怒った。
「みんなあいつのことハゲって言ってるじゃないか。あいつの授業退屈だし」
「私、帰る。二度と先生の悪口言わないで」
 愛はバッグを持って部室から出て行った。
「待てよ」と僕は引き留めたが愛は無視して行ってしまった。
 僕はしぶしぶ諦めて、読書をした。小林功という戦後活躍した作家の本だった。彼の作品に出てくる登場人物、芸術作品全てが輝いて見えた。僕はそんな作家の本を耽読していた。
 帰り、先生に鍵を返しに行く。
「先生、部活終わりました」
「今日は向井さんの小説読んでないな」
「あー。愛ですか。途中で飽きて帰っちゃったみたいです」
「そうか」
 先生は鍵を受け取り、それ以上何も言わなかった。
 次の日も放課後、僕は部室に行った。愛は原稿用紙に小説を書いていた。
「昨日は悪かったよ」
「わかってくれたらいいのよ」
「愛は先生のこと好きなの?」
「私は先生のことを尊敬しているから」
「へえー。どうして?」
「私が不登校の時、担任が先生だったのよ。先生は私を説得して、文芸部を紹介してくれたの」
 僕は愛が一年生の後半から部活に来たことを思い出した。当時の文芸部は今より、人数が多かった。
 僕は原稿用紙に小説を書き始めた。先生のことは見下していたが、小説への熱意は誰よりもあった。僕は愛よりもずっと早く毎日の課題の原稿用紙十枚分の小説を書きあげ、先生に見せに行った。
 先生は自分のデスクで丸付けをしていた。
「もう書けたの?」
 先生は顔を上げた。
「書きましたよ。読んでください。僕は作家を目指しているんです」
 先生は原稿用紙を丁寧にめくり、赤でチェックを入れていく。
「よく書けていると思うよ。君は上達が早いみたいだ。これなら文化祭で出しても大丈夫だ」
「本当ですか?」
「うん。もう一作書いてみてよ」
 僕は少し嬉しくなり、部室に戻った。愛は原稿用紙に必死になって小説を書いていた。
「先生からオーケー貰った」
「よかったじゃない」
 愛は嬉しそうに喜んでくれた。
「もう一作書いてみるよ」
 僕は嬉しくなって原稿用紙に小説を書いた。

 文化祭の日、僕らの短編集を部室に置いておいた。それなりに好評だったのか、何十人かが持って行ってくれたらしく、短編集は全て机からなくなっていた。
 僕らは部活動を引退した。
「先生、ありがとうございました」
 僕は言った。
「この後はどうするの?」
「カルチャーセンターに通ってみようと思ってます。僕の好きな作家の小林功が講師をしているんです」
「そう」
 先生は少し嬉しそうにほほ笑んだ。
 週末僕は書いた原稿を封筒に入れて郵送した。
 次の週、僕の憧れの作家、小林功から講評を受けることになった。今の実力なら恥ずかしくないレベルまで行っただろう。それに小林功の顔はネットで見てもなかったので、どんな人か気になっていた。
 週末の日曜日、僕はいつもより早く起きて、カルチャーセンターまで向かった。はやる気持ちを抑えながら教室に入ると、そこにいたのは文芸部の顧問の先生だった。
「先生……」
「僕が小林功だよ」
 先生はいつものようにおどけて笑顔を見せた。


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このストーリーに関するコメント

19/07/07 タック

拝読しました。
意外な結末でした。先生は作家としても教師としても素晴らしい人物だったのですね。
面白かったです。読ませていただき、ありがとうございました。

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