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要諦の山さん

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純情だったかもしれない

19/06/17 コンテスト(テーマ):第169回 時空モノガタリ文学賞 【 純情 】 コメント:2件 要諦の山 閲覧数:92

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 恋愛ゲームのような展開にあこがれたことはないだろうか。
 例えば、幼なじみの女の子とひょんなことから一緒に暮らすようになったとか。
「そんなこと、現実にはほとんどありえない」と思う人もいるだろう。
 それでも、そういう展開にひそかにあこがれている、という人も中にはいるのではないだろうか。
 実を言うと、僕もそんなことを夢想していた時期はあった。
 けれども、あこがれていたことが現実になったからといって、単純に喜ぶことができるかと問われると、それは違うと思う。
 あこがれはあこがれのままの方がいい、ということもある。
 僕の場合はそうだった。
 ほんの短い期間にすぎなかったが、僕は幼なじみの同い年の女の子と一緒に暮らしたことがある。
 
 彼女の名前は由香という。幼なじみとは言っても、彼女とは少しだけ血のつながりがある。血縁関係でいうところの7親等だか8親等だかにあたるのが由香らしい。そこまで離れてしまうと、あまり親戚という気はしないが。
「出張に行くので、戻ってくるまでの間、娘をそちらの家にあずかって欲しい」と彼女の母親が頼んできた。
 母子家庭なので、娘が一人になってしまう。
 出張からはすぐに戻ってくるというから、それだったらと、うちの両親はあっさり頷いてしまった。
 一応、年ごろの息子もいっしょに住んでいるというのに、それでいいのかと思った。
 拍子抜けはしたが、由香の方はとくに気にしていないようだったので、僕はなにもいうことができなかった。
「いっしょに住む」と聞いて、僕がいだいた感情は困惑だった。
 仮に姉や妹でもいたのなら、違ったのだろうか。
 最初の数日、彼女となるべく顔を合わせないようにしていた。
 思い返してみると、われながら初心だと思う。
「もしかして、私のこと避けてる?」
 あるとき、由香がそう訊いてきた。
「そんなことないよ、別に」
 おそらく彼女には、僕の考えていることなんて見抜かれていたと思う。悪戯っぽい表情を浮かべて、由香はいった。
「純情だね〜、君は」
 顔が真っ赤になるのを感じた。
 たしかにその通りかもしれなかった。あのときの僕は、純情だったのかもしれない。
「由香はどうなんだ? 一つ屋根の下で男女が暮らしているのに、なんとも思わないのか?」
 その言葉が意外だったのだろうか。由香は一瞬、目を丸くした。直後、声をあげて笑いだした。
「もしかして、君が私になにかするの? 君って、そんなタイプだったっけ?」
「なにもしないよ。なにもしないけど……」
 そう問われると、なんと返していいのか分からなかった。
「最近さ、あんまり君と話してなかったから。今回を機会に、いろいろ話せたらなぁ、って思ったんだけど」
 中学生くらいのころまでは、ひんぱんに由香と話をしていたような気がする。
 喧嘩をしたとか、気まずくなるきっかけがあったとか、そういう訳じゃない。ただ、なんとなく疎遠になってしまったのだ。
「君は高校を卒業したら、やりたいことってないの?」
「大学へは進学するつもりだよ」
「その後は?」
 そう訊かれて、返答に困った。大学へ行って、なにをやりたいのか。僕は、はっきりと明確な目標をいだいていなかったから。
「考えてないかな」
 結局、正直に答えた。
「私はね、東京の大学に行きたいんだ。○○大学の経済学部」
「えっ? そこって、すごく偏差値高くなかった?」
「うん……。でも、そこの学校に進学したい理由があるんだよね」
「どんな理由?」
「あこがれている先輩が、去年そこの大学に入ったんだ」
「あこがれている先輩?」
「同じ部活の先輩だった人なんだけど……」
 由香はてれ臭そうだった。
 なにをいいたいのか悟った。
 その表情を見て、分かってしまったのだ。
 そこから先の話はよく覚えていない。とりとめのない話を由香と話したような気がするが、話が頭に入ってこなくなっていた。
「受験、上手くいくといいね」
 最後にこの一言を口に出したのは、覚えている。由香はニッコリ笑って「ありがとう」と返してきた。
 自室に戻ったとき、気が付いた。
 自分が泣いているということに。
 ああ、そうだ。由香が好きだったのだ。
 きっと、由香にとっては、少しだけ血のつながりのある、たんなる幼なじみにすぎなかったのだろう。それでも、僕にとってはそうではなかったのだ。
 その関係を壊そうという気にはなれなかった。
 いっそうのこと、こんな感情は気がつかないままならよかったのに。それなら、こんなにつらくなることはなかったのに……。
 
 次の年、由香は希望していた大学へ受かり、地元を離れていった。その先輩とどうなったのかは、分からない。
 由香が上手くいっていること。それを切に願っている。


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このストーリーに関するコメント

19/07/07 タック

拝読しました。
彼女が主人公の家に泊まることがなければ、気持ちに気づくことはなかったのかもしれませんね。
自身の持つ感情を知ってしまった主人公の心情が切ないです。
大変面白かったです。読ませていただき、ありがとうございました。

19/07/08 要諦の山

タックさま

コメントありがとうございます。
「純情」って、どんなふうに表現したらいいのかな、と悩みました。
時間があるときに、また別のテーマで作品をつくってみようと思います。

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