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とよきちさん

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ミラクルツイン

19/06/08 コンテスト(テーマ):第169回 時空モノガタリ文学賞 【 純情 】 コメント:0件 とよきち 閲覧数:144

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 足は一本、翼はひとつ。おまけに頭も嘴も半分しかない奇妙なひよこ。
 子どもの頃に読んだ童話に出てくるそのひよこは、まるで僕たちだった。
 というのも、高校で『ミラクルツイン』と呼ばれる僕たち双子は成績が優秀で特別視されてはいたけれど、いみじくも、その呼び名にはもう一つ意味があったからだ。
 僕と弟の理央は、別々の身体でありながら、情報と感覚を共有している。
 理央が得た情報は僕の頭の中に流れてくるし、逆に僕が見聞きしたものは理央にも蓄積される。たとえば理央の読みかけの小説があったとしても、僕は平気で途中から読み進めることができたし、勉強も人の半分だけ努力すれば事足りた。スポーツをする時も僕と理央がタッグを組めば無敵だった。僕たちは肉体の感覚もある程度は共有しているから。普段の日常的な弱い刺激はあまり感じられないけれど、強い刺激は伝わりやすく、それを利用して秘密のサインを使っていた。
 手の平を爪で強く一度押せば注意、二回でイエス、三回でノーという具合だ。
 けれど大きな力を持つと、人は気も大きくなるものらしい。
 車を運転する時の父がそうだった。大きな車を父が乱暴に運転するように、僕たちはこの力を使って思いつく限りの悪戯を楽しんだ。
「これは遺伝なのかもなしれないな」
 と理央は言った。
「遺伝というよりは、人の本性でしょ」
 と僕は反論する。同じ情報を共有していても、双子であっても、考え方まで似るものではないらしい。
 けれど実際に父は以前、車で事故を起こした。前方不注意によるものらしく、道端を歩く綺麗な女性に余所見をしていたのだという。僕も理央もその時は笑ったけれど、やっぱり遺伝なのかもしれなかった。
 だって僕たちを破滅に追いやったのも、綺麗な女の子だったから。
「高梨くん」
 と風夏は理央に声をかけてくる。風鈴のように柔らかい。
 僕と理央が一緒にいても、彼女は構わず「高梨くん」と呼ぶ。けれど微妙に声のトーンが違う。理央が風鈴なら、僕のは自転車のベルだ。涼やかで親しげで、少し凜とした響きがある。
「ゴミ捨て、手伝ってくれる?」
 理央にそう言いながら風夏はさっと僕に目配せをしてくる。あとでね、と声には出さず彼女は言った。僕は軽く頷く。
 けれど理央と風夏が連れ立っていなくなった後、しばらくして僕の唇に異変があった。柔らかな何かが押し当てられたような感触がした。恋をしたことがなかった僕や理央にとって、それは強すぎる刺激だった。

 風夏は僕と理央の両方とつきあった。
 それとなく悟られないように彼女は振る舞ってはいたけれど、もちろん僕たちはお互いに承知していた。
「高梨くんは、二人で一人の人間という感じがするのよね」
 僕と遊んでいた時、風夏はそう言ったことがある。それで僕と理央はあの「半分のひよこ」の話をした。足も翼も半分の、あのメディオ・ポリートって名前のひよこはやっぱり俺たちみたいだよな、と理央は言った。
 半分と半分を無理やりくっつけて、一匹を装ったひよこが僕たちなら、風夏が両方とつきあうのも自然な流れだったのかもしれない。
 けれどある日、理央は何も言わずに外出をした。理央が風夏の家に泊まりに行くことを、もちろん僕も知っていたのに。本気だと僕は察した。同時に僕の中で何かが失われたような感覚に襲われて、強い不安に苛まれた。
 悪夢は夜に訪れた。
 ベッドで眠っていると、頬に誰かが触れた気がした。ハッと目が覚めて僕はすぐに理解した。その感触が体中に広がるのを見て、とっさに手の平に爪を立てて理央に注意する。それでも甘ったるい感触はやまなかった。その先の展開を想像して身の毛がよだった。必死にサインを送り続けるも、理央は無視し続けた。
 僕は自分の顔を自分で殴りつけた。直後、強い衝撃が僕の頬に走った。ふらりとよろめく。理央が殴り返してきたのだ。僕はもう一度自分を強く殴る。理央が応戦する。その後はもうよく覚えていなかった。意識を失うまで殴り続けた。
 結果、離れた場所にいたはずの二人は、示し合わせたかのようにほとんど同時に、同じ病院に運ばれることになった。

 僕と理央は、同じ病室で目が覚めた。
 起きた瞬間に何が起こったのかを知った。理央が手の平に爪を立てて合図を送るも、僕は首を振った。何も感じなかった。きっと情報の共有も失われている。
「ミラクルツインも解散だな」
 ぼろぼろの顔で理央は言った。僕たちの『特別』は消えたのだ。そうなれば僕たちには半分の足で、半分の翼で、それこそ小心翼々と過ごす日々が待っている。風夏と顔を会わせることもないだろう。
 けれど、やっぱり双子であっても考えは違うものらしい。
 切れた唇を持ち上げて僕はこう反論してみせた。
「解散というよりは、再スタートでしょ」
 理央が笑った。


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