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R・ヒラサワさん

過去の投稿作品の創作プロセスを公開しています。 【 R・ヒラサワの〜Novelist‘s brain〜 】 https://rhirasawanb.hatenablog.com/ ★時空モノガタリ未発表作品もあり

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新生物

19/05/24 コンテスト(テーマ):第169回 時空モノガタリ文学賞 【 純情 】 コメント:0件 R・ヒラサワ 閲覧数:89

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「私にしてみれば、タチバナ君だって『新生物』の様なものだ」と、所長は心の中で思った。
 所長の居る研究所は、食品会社が百パーセント出資している子会社で、主に原料となる植物の研究をしており、品種改良による理想の苗を開発するのが目的だった。
 数名いる研究員の中で、一番若手のタチバナは、所長と親子ほど年齢が離れていて、その扱いに頭を悩ませていた。
 基本的に打たれ弱い。注意するにも気を使う。ネット世代の象徴か、知識だけは豊富に持っていて、常にプライドが高かった。
 タチバナの経験不足は直ぐに結果に表れた。現場で想定外の事に対応出来ない。しかし、それを乗り切るだけの言い訳は巧みだった。
 タチバナは使い物にならない……筈だった。だが、彼はとんでもない物を見つけてしまった。しかも偶然にだ。
「所長、これが例の新生物ですよ」
 彼はプラスチックを食べる新生物を発見したのだ。
「でも、どうやって見つけたんだい?」
「土を入れるケースが見当たらなかったんで、コンビニ弁当の袋に移したら穴が開いてて……」
「あの土は海外から取り寄せた貴重な培養土だぞ! 研究に影響するから無関係な物は持ち込むなと……」
「でも、それが良かった訳で。発明や発見の多くは偶然だって、所長が言ってたじゃないですか」
 所長は言葉を返す気力が無かった。
 過去に同様の生物が居て、ハチノスツヅリガの幼虫は、百匹で普通のレジ袋を一カ月弱で消化する。しかし、新生物はそれをはるかに上回るとタチバナは言う。
 もし、それが本当だとしたら、世界中のプラスチックゴミの問題を解決出来るかもしれないし、少なくともこの発見が注目を浴びる事は間違いなかった。
「しかしタチバナ君。いくらを早く食べたとしても、幼虫が成虫になった時、それをやめてしまうんじゃないかな?」
「大丈夫です。食べるのは幼虫じゃなく、成虫の方ですから」
「成虫が食べるのかい? でも、それだったら、どうして今まで誰も発見できなかったんだろうね?」
「それはこの虫が一生土の中にいる事と、食べる時期が限られているからですよ」
 タチバナの態度は明らかに大きくなっている。しかし、発見者は彼だ。我慢して話を聞くしかなかった。
「ど、どういう事かね?」
「この虫は特定の期間だけ食べるんですが……。ねえ所長、それっていつだと思います?」
 研究員の若造は、こともあろうか所長に向かってクイズを出してきた。
「い、いつだろうね。私にはさっぱりわからないよ」
 余裕のある大人が、あえて子供に答えさせようとする、そんな素振りをしてみたが、実は頭の中は空っぽだった。
「受精の為に産卵した後の栄養補給期間、メスだけがプラスチックを食べるんですよ」
「受精の為に産卵?」
「この虫はオスがメスに求愛して、OKならメスが腹部に卵を放出します。そこにオスが精子を放出して受精となります」
「それはすごい発見だ。少しカエルに似た受精だな。しかし、食べるペースを上げる方法は?」
「メスは一生に複数回産卵が可能です。だから人工的に受精を行うんですよ。ただし、卵が小さくて肉眼では確認出来ません。結果は翌日、メスの腹部に茶色っぽい卵が見える筈です」
「じゃあ、早速実験しようじゃないか」
「でも問題が一つあります。彼らはあまり動かないんです」
「どうして?」
「天敵が少ない様で、逃げたり過度に繁殖する必要がないんです。ただ、狭い場所を嫌うので、迷路のような所に入れると、本能的に抜け出そうとします。
「なるほど」
「優秀な個体はそのスピードが早いので、それを集めれば繁殖も早くなる筈です」
「そうか。上手くメスと出会う仕組みを作ればいいのだから」
「メス達も優秀なオスの求愛なら、きっと受け入れるでしょう」
 女性も口説けないタチバナの言葉は少し説得力に欠けた。
 所長たちは早速、メスを通過点に配置した迷路を作り、その中心にオスを十数匹離した。オスは迷う事なく出口へと向かって進んだ。
 卵を放出したメスは、明日からでもプラスチックを食べ始めるに違いない。
 タチバナの話では、通常六割とされる受精率が、九割近くになる計算のようだ。
 翌日、ケースの中の個体を確認してみると、受精したメスは一匹もいなかった。
 所長は思った。タチバナの考えは、やはり甘かった。机上論ばかりで経験不足だ。そんな事だから、いい年になっても結婚どころか彼女すらできないのだ。私達の時代はよく学びよく遊んだものだ。だから私は美しい妻と結ばれたのだ。
 所長は勝ち誇ったようにタチバナに尋ねる。
「タチバナ君。どうやら君の研究は間違っていたようだね」
「いいえ、そうではありません」
「どういう事だね?」
「所長。どうやら優秀なオスの個体はみんな奥手な様で、上手く求愛行動が出来なかっただけの様です」


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