1. トップページ
  2. 純情グミ

W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

投稿済みの作品

0

純情グミ

19/05/23 コンテスト(テーマ):第169回 時空モノガタリ文学賞 【 純情 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:78

この作品を評価する

 田所靖といえば、これまで寝た女はそれこそ星の数ほどと豪語するまさに現代のカサノヴァともいえる男だった。ことその道にかけては彼の足下にもおよばない私からみれば、まったく羨ましいかぎりで、彼の女性遍歴をこうして酒場でグラスをくみかわしながらきかせてもらうのがせめてもの慰めだった。
 田所の、過去に関係した女の話を、微に入り細に入り、包み隠さずはなすのをきいていると、あたかも自分がその場にいたかのような心持ちになってきて、佳境にさしかかるとはからずも興奮しているじぶんに気づくこともこれまでよくあった。
 彼がウィスキーをすすりながら語る女はおおむね3人ぐらいで、アラビアンナイトではないがその遍歴のすべを語り終えるにはいったいどのぐらいの日数を要するだろう。
 田所自身、過去の女たちのことを、つまびらかに話しているときの様子は、なんとも楽しげで、まるで冒険家がこれまでの危険でスリルにとんだ体験を自慢げに人に語ってきかせているかのようなところがあった。
 その彼が、それまで立て板に水のごとく喋っていたとき、三人目の女性「アケミ」の名を口にしたとき、なぜか急にいいよどむのをみて、私はおやと思い、
「アケミって女が、どうしたんだね」
 いいながら私は、ああ、もしかして……と、あるうがった考えにとらわれていた。
 女をすべて遊び相手ととらえている彼にも、もしかして一度や二度、純情といえる恋があったのでは。その相手というのが、いま口にしかけたアケミでは……。
「なにニヤニヤしてるんだ」
「そのアケミっていう女、きみにとって特別の女ではないのか」
「いかにもきみの考えつきそうなことだな。あいにくとアケミは、ぜんぜんそんな女なんかじゃない。飲み屋でしりあった男なら相手かまわずホテルにいくような女だった」
「それじゃまるで、きみの女版じゃないか」
「おい、ずいぶんだな。アケミっていう女はね、いまもいったように、男とならだれとでも寝るような女だった。そんな彼女だから、こっちも遠慮なくあそばせてもらったよ。さすがに男の扱いはてなれたもので、私も味をしめてなんど関係をもったかな。それがある日のこと、街で彼女が知らない男と歩いているところを目撃したんだ。そのときのアケミの、なんというか純情可憐な様子に、おもわず目をみはった」
「すると彼女、ようやく探し求める相手にめぐりあえたというわけだね。もうおあそびは終わりというわけだ」
「そのときの私も、いまのきみとおなじことをおもった。これからはもはや夜の盛り場で彼女をみかけることはないだろうともね。ところがだ、彼女はそれからもなんども夜のまちにあらわれては、やっぱりいろんな男といっしょにホテル街に消えていくのを、多くのものが目にしているんだ」
「その純情な恋の相手に、ふられたんじゃないのか。だから、やけ気味になって、またぞろそんなふしだらな行為にふけるはめになったんだろ」
「いや。それからも私は、彼女が件の男とやっぱり純情路線を地でいくような面持ちで、一緒にいるところをみかけている」
「広い世間には、アケミのような妖怪変化のような女が存在するということか。もって教訓とすべきだね」
 田所はまだ続きがあるとばかりに口に指をたてて私を黙らせた。
「私がグミのことをアケミからきいたのは、夜のホテルの一室でだった」
「なんとまた、性懲りもなくきみは、彼女を誘ったのか」
 私はあきれながらも、彼の次の言葉をまった。
「のど飴でも入っていそうな缶をバッグからアケミがとりだしたのは、私が例の、街でみかけた純情可憐な彼女のことを話したあとのことだった。――腑に落ちないままでいるのが私にはたえられなかったのでね。彼女のほうも、わけを説明するからといって、あっさりホテルに同行してくれたよ。ところで、その缶にはグミがはいっていて、アケミのいうのにはそれは、真に純情な女からしぼりとった汗を煮詰めて濃縮させコラーゲンで包みこんだもので、知人からもらったらしいんだ。そしてこれを食べると、じぶんにも純情さがみちわたって、そのときはその気持ちに即した恋人とデートがたのしめるというんだ。だから私が再三街なかでみかけたアケミは、そのグミの効果でまったき純情な境地にあったというわけさ」
「まるでガマの油だ。そんなこと、本気で信じているのか」
「彼女は信じたんだろ。本来もっている純な性格が、そのグミの効き目をうのみにして、ふだんの蓮っ葉な自分から純情な自分に変貌をとげたんじゃないのかな」
「とてもじゃないが、信じられない」
 いつのまにか田所は手に、ちいさな缶をもっていた。
「これがその、純情グミだ。彼女からわけてもらったんだ。どうだい、ひとつ」
 缶のふたをあけて彼は、青春を色にしたようなみずみずしい若葉色のグミを、私の手のひらにおとした。。



コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン