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笹峰霧子さん

毎日一句俳句を詠んでいます。

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美少女愛里の純情

19/05/22 コンテスト(テーマ):第169回 時空モノガタリ文学賞 【 純情 】 コメント:1件 笹峰霧子 閲覧数:207

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 愛里は町はずれの中学を終えると市の高校へ入学した。高校は自宅から自転車で20分ほどの距離にあった。中学までの友達はそれぞれ進路別の高校を選び散り散りになったので同じ高校へ進んだ者は数名にすぎなかった。

 中学校までは一番で通した愛里もこの学校ではついて行くのが精一杯というほど良くできる生徒が集まっていた。
 一年生の時は友達もいなかったので、授業が終わるとすぐに帰宅してピアノの練習をし、夕食後は予習復習をするだけで早く就寝する毎日だった。近くに同じ学校の友達はいなかったが、ただ一つピアノレッスンに行く時だけは外部と触れ合う機会が持てた。

 高校三年になったとき、同じクラスの仲の良い友達ができて話をするようになり、お互いの家を訪ね合ったりした。彼女は可愛い顔をしていて性格も穏やかなので他の生徒からも人気があったが、愛里とも誠実に付き合ってくれた。
 ある時、何を思ったのかこんなことを言ったことがある。
 「愛里ちゃんは純情という言葉がびったりね」
 彼女の言葉を不審そうに受け止めている愛里に、「純情と単純とはちがうのよ」と彼女は慌てたように付け足した。愛里は言葉の意味をそれほど真剣には考えもしなかったが、大人になってからもずっとその言葉が頭に残っていた。

 人生も晩年になって愛里は、若いころ自分の気持ちを親にも友人にも話すことなく、ただ流されるままに生きていたことを悔しく思うのだった。
 愛里の母親が「この子は自分では恋人など作れない」と他人に話したということが愛里の耳に入った。でも愛理の心中は実際には様々な感情が溢れていて、愛憎や追慕やらが渦巻いていたのだった。

 言葉で伝えるすべを知らない愛里は20歳をはるかに超えて配偶者に恵まれるまでその状態は続いた。
 母親が愛里の結婚相手として考えていた人へ手紙を書いたのを知ったのは母親が亡くなって数十年後のことだった。
手紙を受け取ったその人は愛里を誘って一度映画に連れて行った。家にも数回立ち寄ったことがある。そのとき母親はすぐ近くで耳をそばだてて聴いている気配がした。そのような思春期を過ごした愛里ではあったが、母親の意思通りには行かずその人は去って行った。
 
 愛里は裏山でその人と二人きりで話したことがあった。その人は言った。
「願えるものなら・・」と。
愛里はその言葉が何を意味していたのかずっと思い出していた。

 のちに愛里は母親が選んだ人ではなく自分の意思で配偶者を見つけ、娘ふたりを産んだ。夫との仲は紆余曲折があったものの最後まで看取った。

 夫の死の直後、遠い日に去って行った人から愛里に電話があった。人伝てに愛里が独りになったことを知ったのだ。
愛里は意を決して病院へ見舞いに行った。心臓病で入院していたその人は見るかげもなく痩せ衰えていたが、喉から発する低音のソフトな声は昔のままだった。

 愛里は記憶の中の若いその人の面影を引き戻そうと必死だった。当時、愛里が夫婦喧嘩をした夜にはその人が夢に現れて優しい顔で微笑みかけてくれた。他の女性と結婚し幸せに暮らしているであろうその人は、愛里にとっては遠い人だった。

 夢の中だけで会える人として愛里の心に住み着いた偶像であった。

 現実生活では子供の問題行動であくせくしたり、晩年の十数年は夫の病気で大変な年月を過ごした愛里だった。愛里は夫以外のひとと個人的に親しく話すこともなく、可もなく不可もない平凡な暮らしを生きてきた、ただ夢の中で会える遠い面影を抱いて生きた人生でもあった。

高校時代の親友があの時言った「あなたは純情という言葉がぴったりね」その言葉通りの人生を生きて、愛里は今一人暮らしをしている。


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19/05/22 笹峰霧子

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