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浅月庵さん

笑えるでも泣けるでも考えさせられるでも何でもいいから、面白い小説を書きたい。

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私は空っぽなただのカラス

19/05/21 コンテスト(テーマ):第169回 時空モノガタリ文学賞 【 純情 】 コメント:2件 浅月庵 閲覧数:137

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 昼休みにミサトと、私の終わった恋愛について話をしていると、彼女が核心をつく。
「リカってさ、才能ある男に弱いんだね」
 あはは。図星だ。高一の始まりから秋頃までに、すでに七人の男と付き合い、別れた。同じ高校のサッカー部やバスケ部の有望選手。後は軽音楽部のギターボーカルなんかと付き合った。私の目には例え顔がイマイチだったとしても、なにかしらの才能さえ感じられれば、彼らが宝石のように映った。
「じゃあ次は、折田くんのこと狙っちゃう?」
「うーん。それもアリかもね」
 折田ミキヤは中三のとき、大手出版社の小説賞に投稿した作品が大賞に選ばれた、天才少年だった。
 同じクラスだから、別れた後が気まずいと思ってアプローチを控えていたけど、そろそろ狙いたい男も少なくなってきた。

 私の中で恋愛なんてゲーム感覚だから、やると決めたその日からアクションは始まっていた。休み時間に本を読んでる折田くんに「なに読んでんの〜?」と話しかけたり、全然笑えないけど「折田くんの反応面白〜い」なんて言いながら、適度にボディタッチを織り交ぜた。いつもこんな感じだ。簡単すぎる。

 ーー二週間ほど経過して、私は折田くんに放課後、体育館裏に呼び出された。とうとう私への想いが爆発しちゃったか〜なんて考えていると、折田くんが怒る。
「僕に付きまとうのやめてくんない?」
「えっ?」
 過去の男にもこうやって、私に興味の無いフリをして主導権を握ろうとする人がいたのを思い出す。最初こそ頑なに拒むけど、そのうち関係性の天秤はあっさり傾いた。
「僕のことすぐ落とせそうだとか思ってんのかもしんないけど、迷惑だからやめて」
「気に障ったならごめんね。ほら、うちらって同じクラスなのにほとんど喋ったこと無かったからさ」
「じゃあ、どうして一年の後半に、急に接近してくるの?」
 折田くんは自身に訪れた突然のモテ期に戸惑い、疑心暗鬼に陥ってるのだろう。私が優しくケアしてあげなければ。
「私って結構気まぐれなとこあって。そういえば折田くんと今までほとんど関わり無かったよな〜ってぼんやり考えてたら。せっかく同じクラスなのに、相手のこと全然知らないまま卒業なんて、そんなの寂しすぎるじゃんって思ったの」
「僕は廣川さんのこと知ってるよ」
「え、なに?」
 私が上目遣いをして、ソワソワしながら折田くんの次の言葉を待つと、彼は溜息をつく。
「手当たり次第、男を取っ替え引っ替えしてる、だらしない女だってこと」
「え、ひどい……」
「本当のことでしょ」
 私は顔を俯かせ、鼻を啜る。
 男が女の涙に弱いっていうのは、この世界の共通認識だ。

 ーーだけど、折田くんは止まらない。

「いいよ、そういうの。駆け引きとか要らない。事実を言われて感情に訴えるのは、空っぽな奴のやることだから」
 私はその言葉が聞き捨てならなくて、思わず「空っぽ?」と聞き返してしまう。
「廣川さん、他人の心を弄びすぎ。きみは正直、顔も可愛いしスタイルも良い。廣川さんと付き合いたい男は、大勢いるだろう」
「……」
「もちろん不純な動機の奴だっている。でもその中にも真剣に、廣川さんを愛してくれる人だっていたんじゃないかな。純粋に、ね。だけど……」
「だけど?」
「……きみは相手のことなんか、人としてはこれっぽっちも好きじゃないんだ。廣川さんは才能そのものに弱い。その理由は、自分にはなにも無いから。他人の情熱に擦り寄って行って、飽きたらポイ。そりゃあそうだ。だって、なにかに熱心になってるのは“きみ自身”じゃないんだから。あくまで他人のものだ、それは」

 ……ミサトに続き、折田くんにまで胸中を見透かされてしまった。
 私が才能のある男を彼氏に選ぶ理由。自分にはなにも無いから。だから他人の情熱に縋り続けている。私はルックスだって良いし、恋愛テクも充分持ってるはずなのに……私は私を誇ることができていない。

「きみも心から夢中になれる物、見つけた方が良いと思うよ。他人の“光る物”に目ざといだなんて、廣川さんはまるでカラスみたいだ」

 ……小説書いてるからって、別に上手いこと言わなくていいのに。

 私は言いたいことを言い終えた折田ミキヤの背中に向かって「でも私、誰にもまだ処女捧げてないんだけど!」って、思わず叫びそうになった。

 ……だけどそんなの、負け惜しみにすらならない。軽い女では無いという証明にもならない。ていうかそんな弁明は、ここではなんの意味も持たなかった。

 ーーそれに、いくら私が喚いたって、真っ直ぐ前を向く折田くんには届かないだろう。彼にとって今の私の叫びは、鳴き声にしか聞こえない。だから鳴かない。空っぽなただのカラスにだって、プライドくらいはある。


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このストーリーに関するコメント

19/06/26 タック

拝読しました。
自身に欠落しているものを満たそうとする主人公、それを指摘された際の心境に切なさを感じました。
大変面白かったです。読ませていただき、ありがとうございました。

19/06/27 浅月庵

タックさん
自分が一番気にしているところを、あらぬ人に見透かされる恐怖みたいなものって、あると思うんですよね。切ないと思っていただけて嬉しいです。
感想ありがとうございました!

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