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南野モリコさん

長い休眠から覚め、再始動しました。 よろしくお願いします。 ツイッター https://twitter.com/hugo_6892

性別 女性
将来の夢 一生文章を書き続けること。
座右の銘 非凡な花を咲かせるには平凡な努力をしなくてはならない。

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地味弁

19/05/21 コンテスト(テーマ):第168回 時空モノガタリ文学賞 【 レシピ 】 コメント:0件 南野モリコ 閲覧数:203

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お弁当の日は嫌いだ。4年2組の教室では彩りよく詰められたお弁当を皆、誇らしげに机に乗せるのに比べ、うちのママのお弁当ときたら、海苔を敷いたご飯に大きなハンバーグをでんでんと並べただけ。ハンバーグは好きだけど、他の女の子のお弁当と比べると全然、可愛くないからだ。
「うっわー、レイナの弁当、地味だな」
私のお弁当を目ざとく見つけて叫ぶ声がした。勉強ができて顔もよく、女子にも人気のある山崎蒼汰だ。
「女子って普通、キャラ弁を作ってもらうもんじゃないのか?お前のはキャラ弁じゃなくて、地味弁だな」
蒼汰に釣られて周りの男子も私のお弁当のを指さして「地味弁」と囃し立てた。悔しさと恥ずかしさで顔が真っ赤になると、
「うわー、真っ赤になってやんの。お前、弁当は地味だけど、顔はリンゴだな」
今度は皆がリンゴ、リンゴと騒ぎ出す。もう嫌だ。その日の夜、私は意を決してママに蒼汰にバカにされた話をし、
「ママ、もうちょっとお弁当を可愛くしてくれない?」
と両手を合わせて「お願い!」と頼み込んだ。
「何を気にしているの。レイナがママのハンバーグ大好きだから、いつもお弁当に入れているんじゃない」
ママは能天気に笑った。ああ、ママったら全然、分かってない。
「お弁当は美味しいだけじゃなくて、見た目も可愛くないと女子としては困るの!」
「へえ、女子として、ねえ」
ママはからかうように言った。
「蒼汰君はレイナのことが好きなのよ」
ああ、もうやめてよ。私は怒ってテーブルを立つと勉強部屋に行った。パパとママがくすくす笑って大人同士の話をしているのを背中で聞きながら。
ママの料理は大雑把だから、ハンバーグに入れる玉ねぎのみじん切りも荒く、見た目もゴツゴツしている。これには何度も文句を言ったのだが、ママは一向に変える様子はない。ママが拘っているのはハンバーグの見た目ではなく味だという。
「ママのハンバーグは冷めても美味しいのよ」
その秘密はひき肉を捏ねる時に卵を入れることだと言う。
「学校のお弁当はレンジで温め直せないでしょう?だから冷めても美味しいハンバーグをいつも入れているのよ」
いつか得意そうに言っていたことがあったっけ。基本的にはママの作る料理は美味しい。ただ見た目を全然考えていないだけだ。
遠足の日になった。私たち4年生は学校からバスに乗り、目的地の兜山公園に到着すると自由行動となった。お昼になり、仲良しグループでお弁当を広げていると、またしても悪ガキグループを引き連れた山崎蒼汰が私のお弁当を覗きにやってきた。
「お前、また地味弁じゃないか。リンゴはついてないのか?」
そう言ってゲラゲラ笑った。
何よあんたなんか。私は蒼汰を無視することに決めた。聞こえない振りをしてハンバーグを箸で食べやすい大きさに割り、口に運んでいると、無視されたのが面白くない蒼汰は更に大きな声でまくしたてた。
「聞こえないの?やい地味弁、地味弁」
その声はどんどん私に近付いて来る。
「気にしちゃダメよ」
女の子たちがなだめてくれたが、蒼汰の声が耳元まで来た時、私はついに我慢ができなくなった。
「うるさい!」
私は2本の箸をハンバーグにブスッと指すと、玉ねぎばかりごろごろ入った部分を蒼汰の口に突っ込んだ。
「何よ、地味弁地味弁って。お弁当はね、愛情があって美味しければ見た目なんかはどうでもいいの」
蒼汰の口の中で肉汁が溢れ出たのだろう。モグモグと挽肉を噛み締め、蒼汰は言葉が出ないようだった。
「どう?地味弁の味は」
突然、玉ねぎの甘みと肉汁に抗えなかったのだろう。蒼汰は口に入れた挽肉を味わうように飲み込むと、罰の悪そうな顔になった。
「ママのハンバーグは地味だけど、冷めても美味しいんだからね」
いきましょ。私たち女の子のグループはお弁当箱に蓋をすると、蒼汰たちから離れた場所に移動をし、再びランチシートを広げた。風が紅葉の香りを運んできた。蒼汰たち男の子は、それ以上はいたずらをしてこなかった。
それから私はママから料理を習うようになり、お弁当も自分で作ることにした。友達のお弁当をお手本にして野菜やフルーツが入ったカラフルなお弁当箱を開くと「見せて見せて」と皆が寄って来た。料理上手だけど色のセンスのないママと、味よりきれいに並べることに拘る私はお弁当作りの最良のパートナーだった。
私は料理が大好きになり、学校を卒業して社会人になってもお弁当作りは続いた。
そして、今日から私は2人分のお弁当を作らなければいけなくなった。どういう訳か蒼汰のお弁当まで任されたからだ。小学4年生の遠足の出来事を彼は覚えているのだろうか?聞いても誤魔化されるだけだろうけど、ママのハンバーグが美味しかったことだけは確かだ。蒼汰に何が食べたいか聞くと、「お母さんのレシピで作ったハンバーグ」とリクエストされたからね。


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