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ジューサーミキサー

19/05/20 コンテスト(テーマ):第168回 時空モノガタリ文学賞 【 レシピ 】 コメント:0件 青苔 閲覧数:74

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 そのレシピを発見した時、私は小躍りしたいほど喜んだ。
 どこで、どうやって、それを発見したのかについては誰にも話すまい。今この地球上で、その存在を知っている者は私一人だけなのだ。人の口に戸は立てられない。だから私は、私一人だけの秘密として胸にしまっておくつもりだ。
 私はそのレシピを実践するにあたって、何よりもまず、ジューサーミキサーを最初に用意しようと考えた。私には、これが第一の難関に思えたからだ。
 普通のジューサーミキサーならば、家電量販店にでも行けば簡単に手に入れることができるだろう。しかし私が必要としているものは、そんなありきたりの品物ではない。高さ二十メートルのジューサーミキサーなのだ。
 それは途方もないことだ。その途方もないことを実現するために必要なのは、足元を固めることだと私は知っている。私はジューサーミキサーの構造についての勉強を始めた。
 当然ながら、ジューサーミキサー製造会社に製作を依頼することはできない。そんなことをすれば、なぜそんなものが必要なのかと聞かれるだろう。だが、その質問に私は答えることができない。これは、知られてしまってはその瞬間に頓挫してしまう種類の計画なのだ。
 だから私はジューサーミキサーを自分で組み立てられるように、勉強した。巨大な各部品については、それらが作れそうな工場へ発注すればいい。まさか、それが高さ二十メートルのジューサーミキサーの部品だとは誰も思うまい。
 そして、十年かかってようやく、巨大なジューサーミキサーが完成した。
 うまく作動してくれた時には、なんとも言えない感慨深いものがあった。そして、第一の難関を無事に乗り越えられたことを喜んだ。
 第二の難関は、材料集めだ。
 これについては、ジューサーミキサーの製作に取り組みながら、方法を模索していた。
 必要なのは五百人の人間。しかし、一般的な方法でアルバイト募集の広告を出すことは危険だ。会社が設立されているわけでもなく、かなりの人数の募集でもあり、あまり大々的にはやりたくない。それに何と言っても、捜索願を出されないような人間がいい。
 そこで私が考えた方法は、こうだ。ホームレスたちを集めて村を作るのだ。寝る場所と食べるものを用意して、そこに住みつかせる。ホームレスたちだけでは足りなかったので、深夜に街を徘徊している帰る場所のない男女も集めてきた。
 あとは、作業を効率的に進めるために、幻覚作用のある植物の栽培も並行して行っていた。アルコールと併用すれば充分な効果が期待できるだろう。私はハーメルンの笛吹きのように、ただ笛を吹くだけでいい。
 道具と材料が揃い、あとは実践するのみという段階になって、私は地面に揺れを感じた。最初は地震かと思った。しかしそれは一定の間隔で、ドン、ドン、と続き、次第に大きな揺れになっていく。何か大きなものが近付いてくるような感覚に、私は不安を覚えた。私の集めた人間たちもテントの外へ出て来て、不安げに音のする方を見つめている。
 まわりは森だ。見まわしてみても、目に入るものは緑深い樹々のみだ。私は空を見上げた。よく晴れた青空に雲が浮かんでいる。ドン、ドン、という揺れは収まらない。
 その時、樹々の間から、青空を隠すようにして、大きな顔があらわれた。私の完成させたジューサーミキサーに見合うだけの巨大さだが、それは確かに人間の顔だった。そしてその巨大な人間の目が、私たちの方を見ている。
 その巨大な目と私の目が合った時、私は何もかもを理解した。私の見つけたレシピは、あの巨人のものだったのだ。私にすべての準備をさせるために、私に見つけさせるために、私のために、あのレシピは作成されたのだ。すべては、この時のために。
 そして、私は享受する側ではなく、私も材料の一人だったというわけだ。
 あとは実践あるのみだったのだ。あの巨大なジューサーミキサーに人間たちを放りこんですりつぶし、ジュースにする。
 なぜ五百人もの人間が必要だったのか、私は考えてみるべきだったのだろう。こんなにも時間を費やす前に、もっと疑ってかかるべきだったのだろう。しかし結果的に、私は良いように使われていただけだった。
 その巨人の手がのびてきて、私たちを鷲づかみにした時、私のポケットから後生大事にしていた紙切れが舞い落ちた。その一番上には不器用そうな字で、こう書かれていた。「不老長寿の薬の作り方」。


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