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鮎風 遊さん

この世で最も面白い物語を見つけ出したい。 そのために、ひとり脳内で化学反応を起こし、投稿させてもらってます。 テーマに沿った個別物語の他に、いくつかのシリーズものをコツコツと書き続けさせてもらってます。 その主なシリーズものを紹介させてもらいます。  ☆❤☆❤☆ 新シリーズ 『ツイスミ不動産』 __ 2017.07.16よりスタートさせてもらいました。 カサリンとクワガタ野郎があなたが求める終の棲家を紹介いたします。  ☆❤☆❤☆ 『刑事 : 百目鬼 学(どうめき がく)』 __ 2017.05.21 ただ今、27話 __ 1話完結の2000文字推理小説です。この少ない文字数の中で、百目鬼刑事と部下の芹凛(せりりん)がいかに事件を解決していくか、その醍醐味を味わって頂ければ、光栄です。 これからも引き続き難しい事件に挑戦して参りますので、よろしくお願いします。  ☆❤☆❤☆ 『漢字一文字の旅』 __2017.04.04 ただ今、連載41__ 漢字にまつわるエッセイです。  ☆❤☆❤☆  『歴詩』 __歴史上の人物になりかわって、その波瀾万丈の生き様の思いを詩に綴らせてもらってます。 本作品については、フォト音(on)小説という形で、you tubeにもUPさせてもらってます。 詳細はこちらHPです。  ☆❤☆❤☆  http://ayukazeyuu.net/index.html  ☆❤☆❤☆                         よろしくお願いします。              

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真希と祐子

13/02/04 コンテスト(テーマ):第二十四回 時空モノガタリ文学賞【 受験 】 コメント:4件 鮎風 遊 閲覧数:2709

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「故郷のシュークリーム、もう一度食べてみたいと言ってたでしょ。だから、行ってきたら」
 なぜか突然、真希が悲しそうに囁いた。だがそれで直樹は背中を押されたのか、出掛けることにした。

 母子家庭で育った直樹、暮らしは貧しかった。それでも中学時代までは楽しかった。高校生活は味気なく、振り返りたくもない。なぜなら高校受験で直樹の心に刺が刺さってしまったからだ。
 それでも電車の揺れに身を任せていると、あの時のことが蘇ってくる。直樹はメランコリックな気分となるが、電車はそれでも駅へと到着した。
 ホームに降り立った直樹が目にした風景、それはまさにかってのままだった。
 そう言えば、あれは高校卒業と同時に、忸怩(じくじ)たる思いを抱きながら、このプラットホームから町へと向かう列車に乗った。それからずっと都会で暮らしてきた。
 そして今、恋人の真希がいる。そろそろ結婚をと思うが、ちょっと躊躇している。踏み切れない理由は自分でもよくわかっている。なぜならシュークリームの出来事が払拭できないからだ。

 直樹はしばらく散策し、商店街へとやってきた。昔は賑やかだった。だが今はシャッター通り化している。それでも目当てとしてきたケーキ屋はかろうじて店を開いていた。直樹は懐かしく、そして嬉しかった。勢いよくドアーを押し込み、ケーキウィンドウへと進む。
 直樹がもう一度食べてみたいと思っていたシュークリーム、焦げ目が付いた黄金色で並んでいた。ふんわりとした殻の中には、ひんやりとしたクリームが隠されていることに間違いないだろう。
「このシュークリーム、二つください」
 直樹は女性店員に注文した。すると女性店員からは意外な言葉が返ってくる。
「直樹さん、直樹だよね」
 こんな突然の呼び掛けに驚き、直樹は顔を上げる。同時に「あっ」と言葉を詰まらせ、身体が固まってしまう。そう、目の前にいたのだ、祐子が。

 祐子は直樹の初恋の人。いや、少年、少女でありながら、二人は将来を誓い合っていた。この町を離れてからも、ずっと心の奥底に祐子がいた。そして正直、今も好きだ。
 なぜあの時、あんな風になってしまったのだろうか、とずっと悔やんできた。

 中学生の直樹と祐子は同じ高校を目指し頑張っていた。そして祐子はいつも「これで元気付けようね」とシュークリームを二つ持ってきてくれた。二人仲良くそれを囓りながら受験勉強に励んだ。
 だが受験の朝、祐子は来なかった。結果、直樹は合格、祐子は不合格となった。入試日の朝、祐子は受験勉強の疲れで倒れてしまったのだ。
 後日、直樹はシュークリームを持って祐子を見舞った。祐子はよほど悔しかったのだろう、泣いていた。そして八つ当たりだった。シュークリームを直樹に投げ付けてきたのだ。それが直樹の顔に当たり、クリームが頬をつたった。
 直樹はまだ少年の域を超えていなかった。祐子の苦しさを包み込む包容力はなかった。投げ付けられたシュークリームをそのまま祐子に投げ返してしまったのだ。
 それ以来二人の間に深い溝ができ、もう会うこともなく時は流れて行った。

「直樹、やっと来てくれたのね。私、ここでずっと待ってたのよ」
 こう話す祐子の目から涙が零れ落ちる。直樹に、これに答える言葉が見つからない。
「あの時、私、直樹にシュークリーム投げ付けてしまったでしょ、だから謝りたかったの。だけど、あれからいろんなことがあったわ。結局、私の終着駅はここだったの。シングルマザーとなった私を、ここのご夫妻が養子縁組してくださってね」
「そうだったのか」と万感の思いの直樹に、祐子の話しが止まらない。
「直樹と描いた二人の未来予想図、それはまったく違ったものになってしまったわ。だけど……、会いたかったわ」
 これに直樹は感情が抑えられなくなった。そして言ってはならないことを。
「祐子、俺は一時たりとも祐子のことを忘れたことはなかった。ずっと好きだった。だからもう一度受験勉強してた頃に戻って、二人でやり直そう」
 これは本心か、それとも弾みか? 袋にシュークリームを詰めながら、祐子が泣いている。そしてやっと祐子が重く語る。
「直樹、ありがとう。この間ね、真希さんという方がシュークリームを買いにきてくれたんだよ。だから私、もういいの。直樹以上のもの、世界で一番美味しいシュークリームを作る、そんな天職を見つけたから」

 直樹は再び電車に乗り、都会へと戻ってくると、改札口に真希が立っていた。
 直樹と真希、二人は押し黙ったまま歩く。そしてやっと真希が……、だが声が震えている。
「私、これからどうしたら良いの?」
 直樹はこれに沈黙を続けた。しかし、その代わりに、真希を強く抱き寄せる。
 そして真希だけのための未来に向けて、コンコースを真っ直ぐに突き進むのだった。


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このストーリーに関するコメント

13/02/04 草愛やし美

鮎風遊さん、拝読しました。

シュークリームが取り持つ縁なんですね。真希さんの優しさ、いい人に恵まれた直樹君は幸せものですね。

初恋って忘れられないものなのに、こんな経緯あると泥沼状態になって抜け出せなくなるでしょうね。こんな私にも、初恋あったなと懐かしく思い出しました。

13/02/05 クナリ

主人公は直樹さんながら、気高く、勇気のある女性たちが際立っています。
直樹さんは、出会いに恵まれていますね。
人を見る目があるのでしょう。
シュークリームという気取らないアイテムも、良かったです。

13/02/05 鮎風 遊

草藍さん

まさにシュークリームが取り持つ縁ですな。
かっては高級洋菓子、あこがれてました。

この物語、さっぱりと行きましたが、
これが長編になるとドロドロの三角関係になるかな。

13/02/05 鮎風 遊

クナリさん

真希も祐子も、どちらも私の好きな女性でして、
喧嘩もせず、うまく行きました。

ほんと、直樹になりたいです。

こんな願望物語でした。

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