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小高まあなさん

鳥と怪異と特撮ヒーローが好き。 ひねくれつつも清々しい物語がモットー。

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思い出の隠し味

19/05/20 コンテスト(テーマ):第168回 時空モノガタリ文学賞 【 レシピ 】 コメント:0件 小高まあな 閲覧数:132

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 ミートソースのパスタが食べたい。
 そう思った自分に驚いた。私にとってそれは、タブーだったから。
 六年前、事故で亡くなった私の婚約者。彼の得意料理だったから。どうしても、作る気にも食べる気にもならなかったのだ。
 何かが吹っ切れたのかな。嬉しいのか、悲しいのか。わからないまま、私はキッチンに立つ。
 料理人だった彼は、レシピを残さないタイプの人だった。だから、私の記憶だけが頼り。
 私だって料理の勉強をしていた。そうそう難しくはないだろう。そう思いながら、作っていく。具材の大きさ、切り方。バランス。味付けはきっとこれで……。
 自信があった。でも、出来上がったそれは彼のものとはどこかが違っていた。

「んー、どれも美味しいけどなー」
 結局何パターンも作ってしまった。大量になったそれを職場に持っていくと、同僚のミカが味見をして首をかしげた。
「んー、なんかね、ちょっとさわやかなコクが足りない?」
「なにそれ」
 美味しいのは美味しい。でも、彼のミートソースじゃないのだ。
「これ、貰っちゃっていいの?」
 持て余したミートソースのタッパーをミカに渡す。
「うん。冷凍しとくのがオススメ」
「あ、こんなんすぐ食べ終わるから」
「相変わらずたくさん食べるね……」
 しかし、何が足りないのか。スプーンにすくったミートソースを見て、悩んでいると、
「どれ」
 後ろから伸びた手が、私のスプーンを奪い取った。
「ヒロトっ」
 仕事のパートナーの口に、ミートソースは消える。しかし、1口といえど彼がご飯を食べるところ初めて見た。いつも栄養ゼリーで済ませる人なのに。
 びっくりしてヒロトを見つめていると、
「ワサビは?」
「は?」
「隠し味」
 と、それだけ言って去っていく。なんなの、あいつ……。
「ワサビねぇ……」

 普段栄養ゼリーしか食べない人間の言うことを聞くのも癪だったが、背に腹は変えられない。
 チューブのワサビを少し混ぜて作ってみると、
「……あれ、これだ」
 彼の味に近いミートソースが出来た。多分、チューブじゃなくてすりおろしたばかりのワサビを使えばもっと近くなる。
 ヒロトに言い当てられたのがなんだか悔しい。でも、それよりも……。
「コウくん……」
 懐かしい味に、涙がでてくる。ああ、私まだ、彼のことで泣けたんだ。
 胸元のネックレスにしたひしゃげた婚約指輪に触れると、自宅のキッチンにしゃがみ込んだ。
 あなたのミートソースが、また食べたい。私が真似して作ったものではなくて。

「へー、ワサビねー。よくわかんないけど、これも美味しいね」
 翌日、持って行ったミートソースを食べてミカが言う。話をしていると、
「おはようございます」
 ヒロトがやってきた。
「ヒロト! おかげでミートソース出来たの、ありがとう」
「ああ」
「でもなんでわかったの?」
「……リルハたちの出身はワサビが有名だろ」
 ああ、そうか。彼が事故に合った日、救護に来てくれたのがヒロトだ。だから、私たちの出身を知っているのか。
「そっか、ありがとう」
 あの事故以来、私も助ける側にきた。彼と店を開く夢は失ったけど、それでも今いる場所は彼の存在と地続きだ。そう思える。
「あ、そうだ。ヒロトも良かったらミートソースを……」
「いらん」
 被せ気味に断られた。昨日は食べたくせに。
「飯はこれで足りてる」
 と栄養ゼリーを片手で示す。
「ああ、はい、そうですよね!」
 いっつもこれだ。ヒロトは私のご飯を食べない。いつか食べさせてやるのが私の小さな野望だ。
 自分の席に着くと、ネックレスに触れる。ここで私は生きている。なんとかやってるから心配しないでね、コウくん。


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