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田辺 ふみさん

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レシピ釣り

19/05/20 コンテスト(テーマ):第168回 時空モノガタリ文学賞 【 レシピ 】 コメント:0件 田辺 ふみ 閲覧数:93

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 最近、メニューがマンネリ化してきたので、レシピを釣りに行くことにした。
 結婚前、母からこっそり教えてもらった池は自宅から一時間ほどだった。
 新居が決まっていたから、近い池を教えてくれたのかもしれない。
 釣りにふさわしい服装って何だろう。悩みながら、決めたのはTシャツにジーパン。帽子にサングラス。
 ふだんのわたしとはまるで、違う格好だから、知り合いに出会っても気づかれないかもしれない。
 いつもより歩幅が大きくなった。
 いい天気。
 青い空。
 池の周りは木が茂っていて、ちょうどいい影ができていた。
 焼き豚を作るときに使うタコ糸を菜箸に結びつける。タコ糸の先には餌を付ける。餌は箸置き。茄子の形の陶器だ。
 針は付けない。
 菜箸を振って、餌を池に投げ入れると、じっと待った。
 人の話し声は聞こえない。鳥の鳴き声や虫の声だけが聞こえる。
 少し眠くなってきたときに引きがあった。
 さっと引くと、白い物が勢い良く跳ね上がった。
 思わず抱きしめると、レシピは二、三度、ピクピクと動いてから、おとなしくなった。
 餌に張り付いているレシピをそっと、広げてみた。
『茄子とひき肉の味噌グラタン』
 餌が茄子の形だったから、茄子のレシピが釣れたのだろうか。
 グラタンに味噌を入れるのは試したことがないが、おいしそうだ。
 餌は変えずにそのまま、池に投げ入れた。
 もっと、大物を釣り上げたい。
 木にもたれるように腰をかけ、じっくりと構えたところへガサガサと音がした。
 茂みをかき分けて出てきたのは若い男性だった。
 何となく会釈すると、相手もぺこりと頭を下げ、笑顔を見せた。
「こんにちは。何か釣れましたか?」
 尋ねられて、レシピを見せた。
「まだ、これだけなんです。あの」
 相手に呼びかけようとして、何と呼びかけたらいいか、悩んだ。
「あ、柴田って言います。僕の方はこんな感じで」
 柴田は十枚程度のレシピを広げた。
「大漁ですね」
 思わず、覗き込んだ。
『スペアリブのビール煮込み』
「おいしそうですね。おもてなしに良さそう」
「よかったら、好きなレシピをどうぞ」
「え、いいんですか?」
 そう言ってから、自分が名乗ってもいないことに気づいた。
「倉田みゆきです」
 サングラスを外すと、柴田の表情が驚いたように変わったのが面白かった。
「みゆきさんですね。よろしく」
 苗字ではなく、名前で呼ばれるのがくすぐったい感じだ。
「よく、料理は作られるんですか?」
「よく、とは言えないですね。ふだんは外食ばかりで、友人を大勢、家に呼ぶときはがんばりますけど」
「じゃあ、スペアリブはぴったりですね」
 男性で料理ができるっていうのはいいなと思う。
「でも、いかにも家庭料理っていうものを作るのは苦手ですね。白和えとか」
「そんなに難しくないですよ。手抜きの方法があるんです」
「そのレシピ、この池で釣れますかね?」
「よかったら、お教えしますよ」
 気持ちが弾んでいた。
「いいんですか?」
「もちろん」
 わたしは柴田の手を借りて、立ち上がった。


「ただいま」
 夫が帰ってきた。
「お帰りなさい」
「ん、何かあったの? 機嫌がいいじゃない」
「え、わかった? 実は料理がうまくできてね。今日はスペアリブと白和えよ」
「変な組み合わせだな」
「でも、それがいいの」
 わたしはにっこりと笑った。


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