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宮下 倖さん

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クックパッパの奇跡

19/05/20 コンテスト(テーマ):第168回 時空モノガタリ文学賞 【 レシピ 】 コメント:0件 宮下 倖 閲覧数:111

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 ナスカの話をしよう。
 本当の名前は明日香というのだけれど、小学五年生のとき給食で出たナスの揚げ出しにハマり、しばらく「ナス、ナス」とうるさくて、ついにはあだ名にまでなったナスカの話だ。
 彼女の趣味は食べること、そして、作ること。
 ナスカは両親と弟との四人家族なのだけど、彼女が食に興味をもつようになったのは母親のせいである。
 となれば、彼女の母親がいかに料理上手で、いかにナスカがその影響を受けたかという話になりそうなものだけど実際はまったく逆だ。
 料理上手どころか、おそろしく料理オンチな母親の食事で育った姉弟はずっとそれが当たり前だと思っていた。たまに食べるスーパーの総菜やファミレスの料理がひどく美味しいことは知っていたが、それは母親の「プロが作るのだから当然」という言葉で納得していた。
 学校の給食も、給食のプロが作るから美味しいのだと思っていた。母親はプロではないのだから美味しくなくても仕方ないと信じ込んでいたのである。
 ところが、あるときナスカはたまたま友だちの家で昼食をごちそうになる機会を得た。そこで炒飯を食べたナスカは雷に打たれたような衝撃を受けたのである。
「おばちゃんはプロなの?」
 友だちの母親はふつうのご飯をふつうに作るふつうの主婦で、ナスカはここで「プロではなくても美味しいご飯を作れること」を知ったのだ。
 そこからのナスカは猪突猛進だった。図書館の料理本を読み漁り、母親に代わって台所に立つ中学時代を送り、ついには調理科のある私立高校に進学したのである。
 そしてナスカは運命の出会いを果たす。親友リサとの出会いである。
 リサは商店街の端にある小さな食堂の娘だった。いずれ店を継ぐつもりで調理科を選んだリサと、美味しいものをひたすら求めるナスカは妙にウマが合いいつも一緒にいる仲になった。
 とくにリサはオリジナルのレシピを作ることに長け、ナスカはそれを忠実に仕上げては絶賛していた。
「リサ! きのう作ったナスの煮物も絶品だったよ! 調味料が黄金比!」
「やった! いつかうちの店にも出せるかなあ」
「すぐにだって出せるよ!」
 ふたりの高校生活は楽しく充実したものとなったが、その終わりは唐突に訪れた。
 何の前触れもなくリサが学校に来なくなり、担任は「転校した」と言うばかり。リサの家である食堂にも行ってみたが、急な閉店を詫びる張り紙が風に身を震わせているだけだった。
 店の経営が立ち行かなくなり夜逃げ同然に町を去ったという噂がまことしやかに囁かれたが真実はわからなかったし、ナスカにとってそんな理由はどうでもいいことで、リサが自分に何も告げずにいなくなったことがショックだった。
 連絡する手段は一方的にリサのほうから断たれていてどうすることもできない。それでも諦めきれずにリサ一家の行方を探していたナスカだったけれど、残されていた店舗が解体されるに至り泣く泣く断念するしかなくなった。
 その後のナスカの落ち込みようは見ている方が辛くなるくらいだった。手元に残っていたリサのレシピを眺める日々で、結局高校卒業後はコンビニのバイトへ行くだけの生活になった。
 そんなふうに一年ほどが過ぎた頃、思いがけないところからリサの手掛かりが現れた。クックパッパである。
 クックパッパとは料理レシピの投稿サイトで、パッパとかんたんに作れる時短レシピから、ちょっと引くくらいの本格レシピまで揃っているのが売りである。
「これ……リサのレシピだ……間違いない。わたしにはわかる!」
 膨大な数のレシピの中からその投稿者に目を留めたのもすごいが、それをリサだと断言するナスカが更にすごい。
 その投稿者がブログを開設していることを知ったナスカは積極的にコメントを入れ徐々に距離を縮め、そのやりとりの端々にリサを感じ、ついに正体を明かすに至った頃には相手もナスカに気づいていた。
 つまり、思い出のレシピを介し親友同士は再会を果たしたのである。
 さて、いろいろ語ってきたけれど、これが僕の姉である明日香と、今や僕の妻であるリサとの奇跡だ。
 あのときリサが家族で町を去ったのはほぼ噂通りで、うっかり知人の連帯保証人になってしまったがための借金トラブルだったらしい。
 苦しい生活の中でなんとか返済を終え、今はもともと店があった場所に新店舗を構えている。
 厨房にはリサとナスカが立ち、僕は経営に携わりつつホール係としてこき使われているが、成長期に姉のご飯で育った僕はナスカにまったく頭が上がらないし、彼女の縁で結婚までできたのだから文句のあろうはずもない。
「リサ! このレシピも完璧!」
「やった! まだまだ新作あるからね!」
 商店街の端に行列をつくる小さな食堂。
 ふたりの明るい笑顔と、季節ごとに変わる豊富なメニューはすこぶる評判がよい。


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