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小峰綾子さん

性別 女性
将来の夢
座右の銘 笑う門には福来る

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失われたものを、取り戻す旅

19/05/19 コンテスト(テーマ):第168回 時空モノガタリ文学賞 【 レシピ 】 コメント:0件 小峰綾子 閲覧数:98

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「ちょっとカオル何してんの?手伝ってよ」
ママのお使いを手伝いたいと言うので海辺まで連れてきたのに、弟は砂浜で見つけた何かに夢中になっている。まだ5歳だから仕方がないか、とため息をつき、私は作業を進める。今日のお使いは、砂浜に打ち上げられた黒くて長い海藻を集めることだった。

ママとパパ曰く、それはコンブという海藻で、それをカサカサになるまで何日も天日干しにしたあとによく煮るとおいしいスープになるそうだ。元々濡れているものを乾かして、また煮るなんておかしな話だ。でも、干すことでコンブはもっとおいしくなるという話をこの大陸の人たちは言うのだそうだ。

空が暗くなりかけた頃、まだ遊んでいたいとゴネるカオルの手を引いて私は家に向かった。反対の手にはコンブが入っている布袋を持っているので重たい。

「二人ともお帰り。たくさん採ってきてくれたのね。」
「ママ、見て」
カオルは自分の袋に入れていたものをママに見せている。
「こいつ、全然手伝わないで遊んでばっかりだったんだから!」
ママに叱ってもらおうと思って私は言いつけた。でも、ママはカオルの手の中にあるものを見つめて言った。
「これもしかして、あれかしら。ねえパパ?」
台所で作業をしていたパパが手を止めて見に来た。
「ああ、アサリかもしれないね。昨日イソガイさんが言っていた。」

イソガイさんというのはこの町に住んでいる、料理に詳しい人だ。パパは何度もイソガイさんのところに通っている。この近くで手に入る食材で作れる料理について聞くためだ。

「アサリは、暖めると殻がパカッと開いて、中の身を食べられるらしいんだ。」
「ダメ!食べちゃダメ。これ面白いんだ。死んでるのかの思ったら生きてるんだ。砂の上に置いとくと勝手に潜るんだ」
カオルはどうやらこの貝を食べるのではなく飼うつもりだったようだ。

結局、カオルはべそをかきながらパパと一緒にアサリを海に返しに行った。アサリは家の中では飼えないんだよ、何もしなければすぐ死んでしまうんだとパパは説明していた。

「今日サラが採ってきてくれたコンブを乾かしてカサカサになったら、アサリを採りにいって一緒に煮て食べましょう」
とママは私にだけ教えてくれた。カオルはまた怒るかもしれない。でも、生き物の大事な命を頂くこと、その痛みを知っていることはとても大事なのだとママは言う。

すっかり疲れて私は布団にくるまる。明日は山の方にキノコを採りに行かなくてはいけない。

この世界は、すごく昔はもっとたくさんの人がいて、たくさんの建物が立っていて、とにかくいろんなことが進んでいたらしい。でもたくさんの戦争や自然災害で町が壊れていき、たくさんの人が死んだ。

生き残った人たちがまず始めたことは、昔あったものを取り戻すことだった。

どこからともなく、ウタが聞こえる。3軒先のおうちに住んでいる人は昔のウタを研究しているのだ。

夜寝るときに聞くのにちょうどいい、ゆっくりしたきれいなウタだった。

そう、その人はウタを研究して、昔のウタをみんなでウタウために毎日努力している。私のパパとママはレシピを作っている。世界をできるだけ回って、その場所で昔みんなに愛されていた料理をその土地の人に聞く。できるだけ忠実に再現する。おいしくできたら、記録する。レシピがあれば、おいしい料理をたくさんの人が同じ味で作ることができるからだ。

そこから何週間か経った日、ママは私が採ってきたコンブを乾かしたものをグツグツ煮ていた。やわらかくなったコンブは取り出す。そして鳥の卵を割って混ぜたものに少し入れて、内側を四角くくりぬかれた石板に流して焼き始めた。今まで使っていた石板は丸くくりぬかれていたが、町の人から聞き取りを進めた結果今回の料理は四角いほうが見た目良く出来上がるのだそうだ。

卵がふつふつと温まってきたところで、注意深くママは卵を丸めていく。

パパは、余ったコンブのスープでアサリを煮ている。ネギマルさんから分けてもらったちょっと癖のある野菜を刻んで加える。スープから取り出したコンブはどうするのか聞いたらママは、これはまた別の野菜と煮込んで食べると言っていた。食べられるものはできるだけ無駄にしない。それがパパとママが大事にしていることなのだ。

卵を焼いたものは、思っていたよりも甘くて、よく噛むとコンブのスープがじわっと口の中に広がる。卵を焼いたものは、前に住んでいたところで食べたことがある。なんであれにスープをわざわざ入れるんだろうと思っていたが、似ているけど全然違う料理になったので納得した。

「ねえ、ママ、これはなんていうメニューなの?」

「サラ、これはね、ダシマキタマゴ、っていうのよ」

パパとママのレシピに、新たな1品が追加された。


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