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待井小雨さん

待井久仁子というペンネームで「小説&まんが投稿屋」というサイトで、童話やホラーやよくわからない物語を投稿しています。 ご興味を持っていただけたら、よろしくお願い致します。

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二人の世界でレタスのサラダ

19/05/18 コンテスト(テーマ):第168回 時空モノガタリ文学賞 【 レシピ 】 コメント:0件 待井小雨 閲覧数:210

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 滅んだ世界に一人残されたあなたが可哀そうで、私は言葉を話すレタスになった。

「今朝のおすすめのレシピは?」
 そう言って温室に入ってきたあなたを、私は野菜にしては大きすぎる体で迎えた。
「サラダには私の葉を使っていただいて、向こうのトマトも良い色をのでそちらも入れて下さいな」
 そこまで言ってから、はたと気づいて少し冷たく言ってみる。
「他にも食べ頃の物はありますから、ご自分で考えてみては?」
 おや、とあなたは眉を上げる。取ってつけた不機嫌さなどお見通しの瞳。
「さては機嫌が悪いね?」
「ええ、まあ。我儘を言えばレタスだけのサラダにして、ずいぶんと増えてしまった私の葉をたくさん食べていただきたいものです」
「しばらく旅に出ることはないよ。拗ねるのはおやめ」
「あなたがいないと葉が増えるばかり……」
 温室と自宅の周囲を行動範囲とするあなただけれど、時折自分以外の人間を探して旅に出ることがあった。そのままもしも仲間を見つけていなくなってしまったら、管理者のない温室の中で私の葉は途方もなく広がり続け、他の野菜たちも死に絶えるのでしょう。
 けれどあなたは去ることはなく誰かを連れることもなく、代わりのように新しい種を見つけては温室にそれを撒くのだった。
『離れている間にだいぶ葉が広がってしまったね』
 力のない、けれど優しい笑顔を見せる。
『まるでドレスのようだ』
 人がどのように滅んだのか、私は知らない。一人きり取り残されたあなたが、悲しみに暮れるでもなく寂しさに嘆くでもなく、淡々と食物を摂り生きる姿に哀れを感じ、気付けば意思を持っていた。
(生きていて下さいな)
 言葉を交わせば情が湧いた。情を抱けば親愛となった。
 話し相手がいればきっと寂しくない。食事が楽しみになればきっと活力になる。
 だから私はあなたとおしゃべりをする。
「豆腐を入れればたんぱく質が摂れるようです。私の葉とトマトと海苔を乗せて召し上がってみては?」
 海は滅ばず、海藻は今でも獲れるという。いくつもに増やした温室や畑であなたは豆を作り、豆腐までをも作れるようになった。
「ずっと一人だからね。自分で作るしかないから」
 あら――私、伝わるように言ったかしら、と思う。
「それくらいわかるさ。色々作れて凄いと感心しているんだろう?」
「感心なんてしていません」
 交わし合う軽口に、不意に寂しさを滲ませた。
「……君の声はどこから聞こえるのだろうね」
 人ほどの大きさに変異した私だけれど、野菜のままだから口や目などはない。
「会話をしてるけれど、その声は空気を伝わってはいないだろう?」
「心に直接伝えているのかもしれませんわ」
「……そうか」
 と何故だか落ち込む風を見せ、怖いんだ、と言う。
「怖い?」
「君がほんとうなのかわからなくて、こわい」
 永い孤独の日々を私という存在で癒してきたあなた。
「――寂しさのあまりに僕が頭の中に作りだした存在じゃないかと思ってしまうんだ。本当は君はやはりただの野菜で、何も答えてくれなくて、僕は独り言を言い続けている――。……妄想と共に暮らしているのなら、結局僕はこの地上に一人きりだ」
 迷子のような顔をする。咄嗟に「逆、なのかもしれません」と私は言っていた。
「逆?」
 あぁ――そうだわ。
「地上に人がいなくなったことが寂しくて耐えられなくって、肥大して意識を持った植物が『人が存在している』という夢を見ている。そんな世界なのかもしれません。そうしたら寂しいのはあなたではなく、独りなのもあなたではないわ」
 私の説明に、あなたは仕方なさそうに笑ってくれた。
「それでは君が可哀そうだよ」
「そんなこと。これが妄想だとしてもあなたが私の世界に『いる』ことに変わりありませんもの」
 でも、どちらでもいいことなんです、と続ける。
「私が滅べば私の中のあなたが滅ぶ。あなたが死ねばあなたの意識の中の私が死ぬ。どちらの中にあろうと、ふたり一緒に消えるのは同じ。それなら、寂しくはないでしょう?」
「ああ――そうなのかな」
 あなたは噛みしめるように頷く。
「寂しくは、ないのかな」
 そして私の葉を撫で、温室を出て行った。

 あなたの意識の中で植物の夢の中で、私はあなたのためのレシピを考える。昼の食事は何にしましょう。力の湧くものがあればいいのに。
 誰も生きていない地上で、私はあなただけを慈しむ。あなたが温室に訪れてくれる時をただ待って、こうして日々を送れれば幸せ。
 そうして夜になればあなたは今日も律儀に私におやすみのあいさつをしに来てくれる。
「また、明日」
「また明日」
 おやすみなさい、いい夢を。

 あなたが眠りに落ちて私も意識を切って眠りに落ちれば、世界は誰にも見てもらえずに、きっとその間ひっそりと死に絶えているのでしょう。


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