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ササオカタクヤさん

文章でササオカタクヤの世界を伝えられたらいいなと考えてます。 キャラクターたちがイキイキとした物語を書いて、読んだあと何か残れるような作品にしていきます。

性別 男性
将来の夢 自分の作品を多くの人に読んでもらうこと
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盗まれたレシピ

19/05/18 コンテスト(テーマ):第168回 時空モノガタリ文学賞 【 レシピ 】 コメント:0件 ササオカタクヤ 閲覧数:168

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「店長!レシピがありません!」
私が営む洋食屋のレシピがある日、何者かに盗まれてしまった。ただ私はそこまでレシピが盗まれてしまったことに驚きもしなかったし、心配もしていないかった。
「店長。これってやっぱり警察に届け出だした方が」
「いい。いずれ返ってくるだろう」
私の考えは山勘に過ぎないが、なぜか自信に満ち溢れていた。長年の勘ほど当たるものはない。
私が営む洋食屋は父の代から続く老舗で、古くから通い続けてくれているお客さんも少なくない。中には創業当時から通い続けてくれている人もいるほどだ。父が作り上げた料理を受け継いでから30年、守り続けた。レシピ通りに作ることで出来上がる数々のメニューたち。そんなレシピが盗まれたとなれば、従業員は慌てないはずがない。
「店長。きっと同じ味を再現されてしまいますよ」
「そんなバカな話、あるわけないだろ」
私がここまで心配しない理由は盗んだ犯人に心当たりがあるだけじゃなかった。それはレシピ通り作っても同じ味には決してならないということ。レシピが盗まれて、作り方をマネされたとしても、うちにしかない秘伝の調味料がないと同じ味に作ることはできないのだ。
「なるほど!確かにあの調味料はどこにも売ってませんからね!」
「父が作り上げた調味料を何年も継ぎ足して作っているからな。あの味にするのは歴史が必要なんだ」
従業員はえらく納得した。私たちが誇るメニューの数々は誰にも作られることがないとわかったからだ。しかし従業員の彼には申し訳ないが、違う調味料を使ったとしても、多少味が変わる程度で、舌が肥えてない人なら気づかれない。だからレシピ通り作ったら、それなりにうちの味が再現できてしまうのだ。
「えー!じゃあ警察に届け出だしておきましょうよ!」
「いや、きっと大丈夫」
レシピが盗まれるということは、この店の経営が傾いてしまう可能性があるということ。つまり私を含め、従業員の生活が懸かっている。それでも私が思う犯人なら、うちのメニューを何度も食べてしまっているから、きっと納得できずに諦めてしまうだろうと推理する。
「本当に本当に大丈夫なんですか?」
「あぁ。きっと大丈夫だ」
そんな会話をしている時、店の入り口のベルがカランコロンと鳴り響く。店に入ってきた人物を見て私は
「やっぱりお前だったんだな」
と呟く。従業員は目を丸くしてその相手を見る。私もそして従業員もよく知っている人物。それは私の息子だ。

私の息子は高校を中退し家を飛び出していった。それから10年、連絡は全くなく生きているのか死んでいるのかさえ分からない状態だった。半ばもう一生、息子とは会えないのだろうと腹を括っていた。
そんなある日のこと。私はいつものように店を開けると深々とフードを被った男が来店した。その男はうちの店で一番人気のオムライスを注文した。男は黙々と食べ、すぐに会計をし立ち去った。見るからに怪しい立ち振る舞いに私は違和感を覚えた。そして男の食べ終わった皿を片付けた時、私はあることに気づいた。お皿の手前ではなく奥にスプーンを置き、使ったナフキンを四つ折りに小さくして畳んでいることに。その食べ終わった時の癖は息子の特徴だった。
「お皿が料理の主役だから、食べ終わったらスプーンとかは奥にするんだ!口拭いたナフキンもちゃんと畳まないと見栄えが悪い!」
子供の頃から息子は料理に関して口うるさく、自分独自のルールを作っていた。将来の夢は私のようなコックさん。そんなことを言ってくれていたのを今でも時々思い出す。

「どうして。どうして親父のようなメニューが作れないんだ」
息子はメニュー片手に私に質問をしてくる。その表情は子供の頃、料理のことを学ぼうとしていた時と同じ表情だった。私はとにかく嬉しい気持ちになる。10年、どこに行ったのかも分からない息子と感動の再会。一刻も早く抱きしめたい気持ちでいっぱいだ。それでも私は息子に大人としての対応をする。
「まずは勝手にレシピを盗んだこと、説明しなさい」
「…ごめん。どうしてもあの味が作りたくて」
「どっかに店でも構えるのか?」
「いや。今度、結婚するんだ。そんで親父の味を食べさせてやりたくて」
私は息子にとっても甘い父親なのかもしれない。勝手にレシピを盗んだことにもっと厳しくしなくてはいけないのかもしれない。それでも私は息子に優しい言葉を掛けてしまう。
「今度食べに来たらいいじゃないか。私もちゃんと挨拶しないといけないだろう」
「…許してくれるの?」
「これからちゃんと私の味を作ることができるなら。レシピを盗んだこと、そして10年以上連絡が取れなかったこと、許してあげてもいい」
息子は私の前で年甲斐もなく泣きじゃくった。そんな息子の姿を見て、私はこの店を誇らしく思った。


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