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たまさん

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令和元年5月1日のレシピ

19/05/13 コンテスト(テーマ):第168回 時空モノガタリ文学賞 【 レシピ 】 コメント:0件 たま 閲覧数:174

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 5時に目覚めた。やはり、痛む。
 連休前に宮本先生にもらった薬は4日分だった。今日は5月1日。連休のど真ん中だから宮本先生には診てもらえない。困った。まだ、痛む。どうしても薬がほしい。とりあえずダメ元で連休中の診療機関を検索してみた。
 救急センターは避けたい。患者が大勢いるだろうし、この私が急患かというと、急患でもない気がする。それに救急センターで、たまが痛くて……なんて、恥ずかしくて言えない。私が診てもらいたいのは泌尿器科の先生だけだ。しかし、そんなこと言っても我慢できる状態ではない。
 10分ばかり検索してみると、隣町の医療センターで、泌尿器科の診察のみ受け付けているみたいだった。え、ほんとに?……嘘みたいだなと思いつつ電話してみる。呼び出し音があって、休診を伝える機械的な案内音声があって、あ、やっぱし嘘か……と思ったら、野暮な男の声に切り替わった。どうやら医療センターの守衛らしい。泌尿器科の診察を受けたいと伝えると、八時半に先生が来ますから、もう一度電話してください……と言う。時計を見ると8時過ぎだった。
 お名前は?……と野暮な男が聴く。あ、はい、筒井です……。

 隣町まで車で30分ほどかかる。雨が降り出した。痛みの発生源は直径1センチ余りの部位だけど、その痛みが臀部に広がって、車の運転は苦痛としか言いようがない。ジクジクと痛む。目の前のワイパーの動きがその痛みをさらに助長する。信号で止まる度に尻を浮かせて痛みを放逐するが、そんなこと気休めに過ぎない。吐息が蒼い。
 医療センターは真新しくて立派な建物だった。当たり前だけど、がら空きの駐車場にラパンを止めて、傘はささずに正面玄関に向かう。玄関の左手に守衛室があって、けっこう年配の守衛さんがふたりいた。
 筒井です……。あ、中へどうぞ……。
 八時半過ぎにもう一度電話して、看護師に症状は伝えていたが、診察の受付はまだ済んでいない。その受付をどうやら守衛室の窓口でやるみたいだった。守衛さんに保険証を渡すと、狭い守衛室のパソコンに向かって、背の高い守衛さんが慣れない手つきで苦戦している。私の名前が変換できないらしい。ああ、あった、あった……。こんな日の守衛さんもたいへんだと思うけど、驚いたことに守衛さんは、私の診察券を発行してくれたのだった。あ、申し訳ない……と心から感謝するしかなかった。

 雨の日の廊下に灯りはなく泌尿器科の診察室まで、背の低い守衛さんが案内してくれる。総合病院と比べたら規模は小さいが、それでも診療科はほとんど揃っているのに、今日は泌尿器科だけが診察を受け付けているのだ。あとで知ったけど、明日は内科の診察があるらしい。十連休に対応するための日替わりなのだ。泌尿器科の診察室はふたつあった。廊下に椅子が並んで、ふたりというか、二組の患者が腰かけていた。地元の人だろうか。
 尻の痛い私は廊下に立って待っていると、椅子で待つ二組が呼ばれる前に私の名が呼ばれた。どうやら電話で受け付けた順番らしい。
 白衣の先生はかなり男前だった。テレビドラマで売り出し中の若手俳優みたいで、少なからずオーラを感じさせる。どうされました?……とその俳優が聴く。あ、はい……ちょっと、たまが……患者役の私は口ごもりながら、手短に症状を伝えると、看護師が診療ベッドに横になれと指さす。やはり、先生にたまを見せなければ薬はもらえないのだろう。

 どちらかと言うと左側が痛む。薄いゴム手袋をした先生が、たまを摘まんで、痛いですか?……と聴く。たまは痛くないけど、たまのあたりが……と私は曖昧に答える。小さいですね……と先生が言う。私のたまは左側が小さくて、右はふつうに大きい。原因はよくわからないが、30歳の頃におたふく風邪にかかって、左側がパンパンに腫れて、高熱でカサカサになったふぐりの皮が二枚も剥がれ落ちた。左が小さい原因があるとしたらそれしか思い浮かばない。でも、痛む原因はそれではないような気がする。たぶん、まだ若いこの先生にもわからないはずだから、私もそれについてはどうでもよくて、とにかく薬がほしい。宮本先生とこでもらった処方箋を見せて、これと同じ薬が欲しい……と伝える。

 診察が終わって守衛室に戻ると、今日は会計ができないので支払いは後日ということになった。支払いを約束する念書にサインする。日付欄は平成のままだから平成31年と書き込むと、守衛さんが、あ、それや……と言って困った顔をする。令和1年5月1日でなければいけないのだ。あとで訂正しときますから……あ、すみません……。
 医療センターを出る前にオシッコがしたかった。どうぞ、こちらです……なんとまあ親切な守衛さんだ。トイレまで案内してくれるなんて、と思ったら、背の低い守衛さんは、私と並んでオシッコをするのだった。



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