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郷海 希さん

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作ってあげるよ

19/05/11 コンテスト(テーマ):第168回 時空モノガタリ文学賞 【 レシピ 】 コメント:0件 郷海 希 閲覧数:101

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「あの味を再現したいんだよね」
 土曜昼下がりのリビングでパパが言った。
 パパが指さしているのはテレビ。昨日借りてきたDVDはちょっと古いアニメ映画。主人公が食べているサンドイッチが確かにおいしそうだ。
「仕方ないなぁ。作ってあげますか」
 ちょうど暇だし、小腹も空いてる。いつもならパパに買ってきてよって言うところだけど、今日は作ってあげるよ、特別にね。
 よっこらしょとソファーから降りてキッチンへ向かう。パパが朝とお昼の洗い物をさぼったおかげでシンクは汚れた食器でいっぱい。ここでちょっとやる気が萎える。どうにか作業スペースを作ると、食パン、ハム、チーズ、卵、バターそれに牛乳を取り出して並べる。
 ここで大事なのは楽しく作ることだ。ママがいつも言ってた。お料理は楽しい気持ちで作らなきゃ美味しくないって。
 スマートフォンをタップしてお気に入りミュージックのリストを再生。ポットにお水を入れてスイッチオン。
 さぁ、準備はオッケー。おっと、手を洗わなくちゃ。
 卵を割りほぐして牛乳と粉チーズを混ぜ、塩コショウ。その液に食パンを浸す。パンに液を染み込ませている間に、シンクの中で埋もれてるお皿とカップを救出。ちゃっちゃと洗って水切りカゴにふせておく。濡れた食器を見てちょっと考える。渇くのには時間がかかるし、また洗うのも面倒よね。
 そうしているうちにポットでお湯が沸騰。二人分のコーヒーをドリップ。合間にパンをひっくり返してっと。
 リビングのパパの様子をうかがうと、何回見たか分かんないのに真剣に見入っている。
 ちょうど曲が変わってノリのいいダンス曲になった。自然に体がリズムをとって動き出す。ウキウキとした気分でパンにハムとチーズを挟んでフライパンで焼く。
 フライ返しを持ったまま踊ってるわたしはなかなかだわ。親孝行だし料理上手? とってもいい気分のところにふんわりバターの匂いが漂い始める。あ、換気扇つけるの忘れてた。
 そろそろいいかな?
 そっとフライ返しでパンの端を持ち上げてみるといい感じに焦げ目がついてる。
 ひっくり返したらあと少し。
 おいしそうに焼きあがったクロックムッシュ!
 アツアツのそれを半分に切ってアルミホイルに包んだ。


「パパー、ジョリィとお散歩に行くよー」
「いい匂いがするね。おやつは?」
「お散歩に行ったら食べられるよ」
 パパがジョリイにリードを付けている間に、わたしは出来上がったおやつと水筒に入れたコーヒーをトートバッグに入れて準備オッケー。
 近くの公園まで行くと、つつじの花が満開だった。
 ベンチに座ってパパにアルミホイルの包みを差し出す。水筒の蓋にコーヒーを注いで、ようやくおやつタイム。

「パパが食べたいのがこの味だってよく分かったね」
「この前作った時は微妙な顔してたじゃん」
「そんなことないよ。でも……」
 パパは遠くジャングルジムのてっぺんより向こうの空を見上げて言った。
「これはね、ちがうんだ。家の中で食べるのと外でたべるのとではちがうんだよ」
 空気もスパイスになるのかなぁなんて、笑ってるけどママが亡くなってもう十年だよ。
「美織はママに似てきたね」
 パパがママのいる空からわたしに視線を動かしたのが分かったけど、わたしは前を向いたままクロックムッシュにかじりついた。
 いつも使ってる材料も作る手順も同じなのに、ママは作る時の気分が大事って言うし。パパは食べる場所で美味しさが違うなんて言う。でもわたしだってあるよ。
「誰と食べるかがが大事なの!」
 それとお腹がすいてるかどうかもね。


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