1. トップページ
  2. 魔女とクッキー

文月みつかさん

すてきな本や物語にたくさん出会って、いろんな作品を楽しく書いていけたら幸せだなと思います。

性別 女性
将来の夢 ポジティブな人間になる
座右の銘 寝る子は育つ

投稿済みの作品

0

魔女とクッキー

19/05/07 コンテスト(テーマ):第168回 時空モノガタリ文学賞 【 レシピ 】 コメント:0件 文月みつか 閲覧数:135

この作品を評価する

 17歳の乙女には花も恥じらうという噂だが、花が恥じらっているのは一度も見たことがない。
 常々、女子力がないと言われてきた。幼少期に遊んだのは人形ではなくブロックやジグソーパズルの類。今でも服と髪型にこだわりなし。化粧はまだ未体験。そんなんだから友人にも何かと話のネタにされる。曰く、ゆらぎは一生彼氏ができない、女を捨てている、男子更衣室に入ってもバレない、将来は進化して男になる、料理もできない、ムリムリ、ジャガイモの皮もまともにむけないもの、云々。
 別に彼氏ができなくたって構わないが、あまりの言いように腹が立ち、そんなら今度手作りクッキーを持ってきてやるから心して待っているようにと啖呵を切ってしまった。食べ盛りの乙女たちにまんまとはめられてしまった格好だ。
 どうせならこの上なく美味しいクッキーを作って乙女たちをぎゃふんと言わせたい。ぎゃふんどころか歓声上げて喜ばれるだけかもしれないが、私は知人の中で最も料理が上手いと思われる人物に協力を求めた。残念ながら母ではない。近所のオーガニック食品店のオーナー、マキさんである。
「ゆらぎちゃんいらっしゃい! クッキーの作り方を教えてほしいなんて、ついに好きな子ができたの?」
 急なお願いにもかかわらず、マキさんはきらきらの笑顔で出迎えてくれた。
「いえそういうわけでは。私にはカップラーメンしか作れないと思っている友人たちを見返してやるのです」
 へえと楽しそうに笑っているマキさんは、衰え知らずの美貌から巷では魔女と呼ばれている。時々店で料理教室を開いていて、私の母はその常連である。
 さすがに自宅に上がるのは初めてなので緊張した。魔女と呼ばれているくらいだから不気味な骸骨なんかが飾ってあったらどうしようかと思ったが、センスのいいナチュラルスタイルだった。料理を教える立場だけあって、キッチンにはあらゆる食材や調味料の入ったキャニスターが巨大な棚を丸々占領している。なるほどこれは少し魔女っぽい。調理台やコンロは広々として使いやすそうだった。台にはすでに必要そうな道具が並べられている。
「教室のときは材料も準備しておくんだけど、今回は分量どおり量るのも勉強のうちってことで。これがレシピよ。とっても簡単だから!」
 探し物してくるから先に進めてて、と言うとマキさんは奥の部屋へ消えてしまった。戸惑いつつ渡されたレシピを読む。えーと、薄力粉200g、薄力粉はと……
 これが市販の袋のままならばわかりやすいのだが、粉類もすべてオシャレ容器に詰め替えられているようだ。マキさんに呼び掛けてみたが奥のほうからは何かをひっくり返すようなドスンバタンという音が聞こえてくるのみ。仕方なくそれらしい容器の中身を確かめては分量を量る。結果、砂糖やココア粉末など大方のものは集まったが、やはり薄力粉が見つからない。というよりそれっぽいものが多すぎてどれが正解なのかわからない。
 そのとき、下のほうにある茶色いつぼが目に留まった。これだけがオシャレ空間の中で異質である。試しに開けてみると、サラサラときめの細かい白い粉が入っていた。きっとこれに違いない。
 私は嬉々として白い粉をボールに入れ、きっちり200g量った。卵やバターは冷蔵庫で難なく発見。材料をそろえただけなのにやけに誇らしい気分だ。
 ちょうどそのときマキさんがやって来て、紺色にフリルのついたエプロンを私にあてがい、やっぱり似合うと思ったと満足げな笑みを浮かべる。趣味ではなかったが、せっかくなので借りることにした。
 そのあとの製作過程は語っても恥をさらすだけなので黙っておこう。生地をこねるときに危うく匙ごと混ぜこんでしまいそうになったときには、さすがのマキさんも笑顔が引きつっていた。唯一、成形だけは褒めてもらえた。
 オーブンで焼きあがるのを待つ間、「もしかして茶色いつぼの方使った?」と聞かれた。まずかったかと聞き返すと、「ううん、大丈夫」とこわばった笑みのマキさん。もしかして高価なものだったのかもしれない。悪いことをした。
 最後に、乙女たちが喜びそうなラッピングも施した。丁寧にお礼を述べると「いいのよ楽しかったから。それより悪くなるといけないから早めに食べてね、必ずよ」とやけに強く念押しされた。

 クッキーの評判は上々だった。曰く、本当にゆらぎが作ったの?信じられない、このパンダかわいすぎる!でも食うんだろ、ああ食うよ、ごめんね将来ひげ生えるとか言って、いやそこまでは言ってない、云々。多少なりとも名誉を回復できたようだ。
 ところで、自分用に作ったネコ型クッキーになかなか手を出せず、後生大事にとっておいたら誰かが盗み食いをしたのには閉口した。犯人は結局わからずじまい。夜中にカサコソとネコ型クッキーが逃げ出していったのは、あれは夢だと思うんだけど……


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン