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地主恵紀さん

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レシピの交換

19/05/02 コンテスト(テーマ):第168回 時空モノガタリ文学賞 【 レシピ 】 コメント:0件 地主恵紀 閲覧数:229

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「めぐちゃんのあのミカンのお菓子の作り方、おばあちゃんにも教えてちょうだいよ」
「あれね、オレンジよ。おばあちゃんあれ好きよね」
「名前はなんだったかな。友達にも作ってあげたい」
「オランジェット」
 祖母は、私が作るオランジェットが好きだ。初めて祖母にオランジェットをプレゼントしたのは、小学校六年生の頃のバレンタインデー。ほろ苦さが良いと、絶賛してくれた。あれから十年、バレンタインデーの度にオランジェットを作っている。
「じゃあ、代わりに何か料理を教えて」
「そういえば、めぐちゃんには何も料理を教えてないね。秘密にしてたからね。」
 祖母はいたずらな顔で笑ってみせる。
「そうよ。全然教えてくれないんだもの。何かひとつ、教えて」
「交換条件か」
「交換条件よ」
「まあ、良いでしょう。レシピの交換なんて、何だかどきどきするね」
 私は祖母に、鶏肉と野菜のスープの作り方を教えてもらうことにした。小さい頃よく作ってもらったからだ。

 買い出しのメモに書かれた通りに食材を揃えて家に帰ると、えんじ色のエプロンをつけた祖母がキッチンで待っていた。
「さあ、作りますか」
「はい、先生」
 玉ねぎ、人参、じゃがいも、セロリを細かく、全て同じ大きさに切って炒めたら、鶏の手羽元を入れてさらに炒めて。
「水を入れてちょうだい。煮立ったら、コンソメと、塩胡椒ね」
「あとは?」
「え?」
「他には何をするの?」
「あとは何もしないわよ。出来上がり」
「まさか」
「あとは愛情しか入れてないもの」
 祖母が笑って舌を出す。
「そんな。もっと手の込んだものだと思ってた。すごく美味しいのよ。私の特別」
「ありがとう。でも本当に、これだけなの」
「そうだったんだ……」
「がっかりした?」
 私は首を振る。簡単なのにあんなに美味しかったのは、愛情がたっぷり入っていたから。ノートに、〈愛情〉の二文字を書き足した。

 昼食を終えた私達は、オランジェットを作るためにオレンジを洗っていた。
「国産だし、特に防腐剤とは書いていないから大丈夫だと思うけれど、よく洗ってね」
「はい、先生」
 オレンジに竹串を刺して穴を開け、茹でこぼしをする。祖母は首を傾げた。
「ああ、これはね、アク抜きなの」
「オレンジをアク抜きするのね」
「丁寧な作り方だとね、するの。これを一時間水につけておくの。さっきやっておけば良かったね」
「まあ、良いじゃないの」
 一時間が経ち、アクを抜いたオレンジを薄くスライスしていく。包丁を握る祖母の手つきは綺麗で、あっという間にオレンジを切り終えていた。
 たっぷりの砂糖をフライパンに入れ、水を入れてふつふつと煮立たせたところにオレンジを並べていく。柑橘の香りがふわりとした。弱火で二十分ほど煮詰めたら、オーブンで表と裏を三十分ずつ焼いて、乾かす。
「なんて時間のかかるお菓子なの」
「おばあちゃんはせっかちだから、待つのがいやでしょう」
「そうね、オーブンを開けてしまいたいくらい」
「絶対、だめだからね」
「はいはい」
 両面を焼いて一時間。乾いたオレンジを冷ましたら、溶かしたチョコレートをオレンジの半分につける。
「オレンジ色が透明になって、きらきらしているね。チョコレートで飾って、お洒落だね」
「そうでしょ?」
「半分だけつけるっていうのもまた、粋だよ」
「喜んでもらえて良かった。固まったら、完成だよ」
「教えてくれてありがとう。」
 指についたチョコレートを舐めて、美味しいと言って祖母が笑った。子どものような仕草と笑顔が、可愛らしい。

「めぐちゃん」
「なあに?」
「次は何のレシピの交換しようか?」
「ふふ、どうしようね」
「私が元気なうちは、こうしてレシピの交換をしましょ」
「喜んで」


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