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バルジリスさん

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受け継がれるちらし寿司

19/05/01 コンテスト(テーマ):第168回 時空モノガタリ文学賞 【 レシピ 】 コメント:0件 バルジリス 閲覧数:169

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 ふわり、ふわりと庭の桜の木から花びらが落ちる季節のこと。息子が、女性を連れて家に帰ってきました。
 私の息子は、都会の方で仕事をしています。何でも、輸入品関係の仕事だとか。良くは知らないのですが、とにかく、忙しく、難しい仕事をしているようです。そんなある日のことでした。電話で、彼女を連れて帰るよという連絡があったのは。
 あの子も、彼女さんを見付けて、連れてくる年になったんだなぁと思うと、感慨深いものがあります。そうだ、こういう日はちらし寿司にしましょう。あの子も好きな、ちらし寿司に。
 連れてきた女性は、キャリアウーマンというのでしょうか。眼鏡と、気の強そうな顔立ちをしています。どこか緊張しているようで、そわそわとしながら、玄関から入ってきました。
おかえりなさい、正宗。初めまして、彼女さん。

「久しぶり、ただいま母さん」
「お邪魔いたします」

 奥の畳部屋に向かい、正座で座る二人。崩して楽にしてと言って、私はちらし寿司を二人の前に、一皿ずつ用意しました。
 二人は箸を持ち、まずは一口、ちらし寿司を口に運びます。この子は、口に出して美味しいとは滅多に言いませんが、その表情はわかりやすいですね。綻んで、嬉しそうです。彼女さんの口にもあったようですね。少し驚いた顔をして、美味しいと言ってくれました。
 この女性は、櫻子さんというらしいです。二人は、真摯な表情で私に、結婚したいと言てきました。それを断る理由があるでしょうか。
 私は、ゆっくりと首を縦に振りました。



 あるヒマワリの映える良い天気の夏のこと。私は修水櫻子という名前から、彼の家族の苗字をもらい、竜崎櫻子という名前になった。彼はとても良い人だ。真摯で、真面目で、私が支えなくても何でもできるだろうけど、私に支えてほしいと言ってきた人。そんな真摯な彼のお義母さんはとても良い人だ。お義父さんは既に亡くなっているらしく、写真でだけしかお会いできなかったが、彼に似た顔立ちだ。彼をもう少し太らせたら、お義父さんみたいな顔になるだろうか。
 そんな彼のお義母さんに最初に教わったのは、ちらし寿司の作り方だった。彼の親戚さんや、地域の人の集まりでふるまわれるちらし寿司。それを覚えるのが私の最初の奥さんとしての仕事だった。お義母さんは料理に関していえば中々に妥協を許さない人で、甘い酢の作り方から、ご飯の炊き方、具の作り方。全てにこだわっていた。
 私も始めて食べた時には目を丸くするほどに美味しかったが、それにここまでの手間暇がかかっているとは思わなかった。最初の方は、砂糖を入れすぎたり、酢をきつくしすぎたり、紅ショウガを入れ過ぎちゃったりと、色々失敗しつつも少しずつ、その味のレシピを私の物にしていった。
 なんでも、お義母さんもこの家に嫁いだ時にこのちらし寿司のレシピを教えてもらったという。お婆さまはっても厳しかったわと朗らかに笑っていらした。

 そして、私がこのレシピを私の物にしたころには、既に私は30代も半ばになっていた。息子も生まれ、お義母さんも少し皺が増えてきて、一層優しく朗らかになって。彼は会社でそれなりに責任のある地位におさまった。
 彼は偶の祝い事の日、私とお母さんが作ったちらし寿司を食べて、ふっとほおを緩ませる。きっと、美味しいと思ってくれているのだろう。
 そしてさらに時が経った。私もいい年になり、息子は父と同じく、都会で一人暮らしを始めた。そんなある日のこと。
 お義母さんが亡くなったのだ。肺炎だった。最後は少し辛そうだったが、そんなことを悟らせまいと、健気に朗らかな笑みを浮かべていた。
 その通夜に、私はちらし寿司を作って、彼と親戚の方々にふるまった。母さんの味だ。そう言って、彼は涙を流した。
 お義母さん、あなたの味は、確かに受け継ぎました。

 そして、息子が25になった時、好きな女性ができたと言ってきた。その女性と家に来ると。
 ふわりと、庭の桜の木から桜の花弁が降る日のことだった。
 その女性と息子に、ちらし寿司をふるまおうと、創っていた時。ふと、お義母さんもこんな気持ちで私をもてなしてくれたんだと思った。
 もし、息子が連れてくる女性が良い娘だったら、その時は。このちらし寿司のレシピを継承してくれるだろうか。
 そして、その子も、その子の奥さんも受け継いでいってくれたら、それほど嬉しいことは無い。
 そう思い、私はお義母さんのレシピ通りのちらし寿司を作るのだった。


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