1. トップページ
  2. 魔法のレシピ

hayakawaさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

0

魔法のレシピ

19/04/30 コンテスト(テーマ):第168回 時空モノガタリ文学賞 【 レシピ 】 コメント:0件 hayakawa 閲覧数:146

この作品を評価する

 優斗という男は二十六歳で大学院を出た後、食品会社で研究職に就いた。大学は国立大学で、それなりにエリートだと自負していた。しかし、今まで彼女がいたことがない。内気な彼は女性と仲良くなることはできても、それ以上親密になることはできなかった。
「街コン行って彼女探すしかねえよ」
 大学の同期に週末の飲み会で言われた。彼は大学卒業後、商社に就職した。優斗とは違い、コミュニケーション能力が高く、女性経験は豊富だ。
「街コンかー。なんだか行く勇気がないなー」
「もう二十六だぜ。優斗、冷静になって考えてみろ。今のお前は今まで彼女がいたことないんだぞ。今更街コンに行くのを恥ずかしがっている場合か?」
「そんなこと言うけど、お前は街コン行ったことあるのか?」
「まぁ一度か二度は行ったような気がする」
 彼は目線をそらし、ぐいっとビールを飲み干す。
「本当か?」
 優斗はぼそっとつぶやく。そして焼き鳥を食べた。
 帰り道、辺りは真っ暗だった。空には大きな月が輝いている。
「じゃあまたな」
 彼はそう言って手を振る。
「ああ」
 優斗も軽く手を振り、電車に乗って自宅のマンションまで帰った。

 次の週の週末に彼はネットで街コンを予約し、日曜日に行くことになった。
 日曜日、彼はスーツを着て、街コンの会場まで向かった。鞄に入れていたミネラルウォーターを緊張で飲み干した。電車を乗り換えて会場の最寄り駅まで向かった。会場に着くと人の多さに驚いた。彼はチケットを見せて中に入る。
「お飲み物は?」
 並んでいた飲み物売り場でそう聞かれた。
「ビールをください」
 彼はプラスチックカップに入ったビールを飲み干した。街コンというからにはどこか街を散歩でもするのかと思っていたが、どちらかというとパーティー会場に似ていた。
 彼は一人で中の椅子に座っていたが、もうすでに男女で話し合っていた。彼は若干の焦りと困惑を抱えていた。ここで誰にも話しかけられなかったら、せっかく買ったチケットと時間が無駄になってしまう。
「あの……」
 彼は近くに一人で立っていた女性に話しかける。
「なんですか?」
 女性は彼の方を振り向く。
「あの、僕は食品会社で研究をしています。あの、今日は友達が欲しくてきました」
 彼は咄嗟に言った。
「そうなんですか。私も大学生で友達が行けなくなって代わりに私がチケットを貰って来たんです」
「へえー。そうなんですか」
「はい」
 彼は直感的に選び出した女性とすぐに打ち解けた。
「お名前は?」
「エリカです」
「僕は佐々木優斗という名前です」
「よろしく」
「はい!」
 彼は街コンの時間の間、ずっと彼女に話し続けた。彼の執着は凄いもので、エリカは他の男と話すことができなかった。
 時間が終わりに近づくと彼は連絡先を交換したいと思った。
「この後、時間ありますか?」と彼は聞いた。
「あるよ」
 エリカはそう言ってほほ笑む。
 優斗は彼女をレストランに連れて行った。
「なんでも頼んで」
「うれしい」
 彼女の元にパスタが運ばれてきた。
「あの」
「連絡先交換しよう」
 エリカはそう言った。

 次の週末、エリカとのデートの約束をした彼は朝から浮かれていた。新しく買ったシャツとジャケットを着こなし、待ち合わせの駅まで向かう。時計の針は十二時を指していた。エリカは駅前の時計台の側に立っていた。
「待った?」
 彼は言った。
「今来たとこ」
 二人は駅から歩き、カフェに行き、予約していた映画を見に行った。映画が終わると中華料理屋でラーメンを食べ、大きな公園を散歩した。
「この後、部屋行ってもいい?」
 エリカはそう言った。
「別にいいけど」
 優斗の心臓は高鳴った。
 夜、電車に乗って二人は優斗のマンションに向かった。途中彼女の指示通りに食材をスーパーで買った。
「あのね、ぜひ食べてもらいたい料理があるのよ」
「へえー」
 エリカは鞄からノートを取り出す。
「なにそれ?」
「魔法のレシピ」
 彼女は慣れた手つきで調理を始めた。
 出来上がったのは野菜のスープだった。彼女はスープと焼いたパンをテーブルの上に置いた。
「じゃあ食べましょ」
「うん」
 二人でビールを飲み、食事を始めた。優斗が一口料理を食べると、深淵な味が舌に広がった。
「とてもおいしい」
「私、高級レストランで働いてるの」
「大学生じゃないの?」
「嘘よ」
「なんでそんな嘘を?」
「だってこうして二人で食事するなんて最初は思ってなかったもの」
「そうだったんだ」
「私、お母さんを小さいころに亡くしているの。だから家族にずっと料理を作ってきた。大学に行きたかったけど、家族のために働き始めた」
「へえー」
「いくらでも私料理作るわ。だから私と一緒に家族になりましょ」
 彼はスープを飲み、頷いた。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン