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千日さん

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謎肉弁当

19/04/21 コンテスト(テーマ):第168回 時空モノガタリ文学賞 【 レシピ 】 コメント:0件 千日 閲覧数:67

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 しとしとと細かい雨つぶが、傘をさしてもいろんな方向からとびついてくる。ぼくは雨がきらいだ。くわえて風邪をひきかけているらしい。息苦しくて、うだうだと寝がえりを何度もうったあと、あきらめて、レインコートを着込んで自転車に乗り、風邪薬とからあげ弁当を買いにいった。
 風邪薬はドラッグストアでそのとき安いものでいいけれど、からあげ弁当は二百五十円のと決めている。それも、自転車で十五分行って橋をふたつわたった街道沿いにある激安からあげチェーン店「からあげ世界一!」のものでなければならない。大きなからあげが五個はいったその「並弁当」はぼくの知るかぎりいちばん安くて大きくて、脂っこくてそしてくせになる味だ。あまりに安いのでコストを心配されてか、謎肉、とネットで言われたりすることもあるけれど、しばらく経つとまたすぐに食べたくなる味である。
 ところが。
「五十円のおつり。一、二、三、四、はい五枚」
 きんきんとひびく声とともにぴかぴかにみがかれた十円玉を五枚てのひらに落とされ顔をあげると、店員がいつもの愛想の悪いお兄さんではなく、ちんまりとしたカワセミになっていた。
「えっ共食い」
 思わず漏らした言葉をカワセミは耳ざとく聞きつけて、違います、と否定した。
「ここのからあげは、謎肉です」
 さらに、
「駆除した椋鳥をからあげに転用しているという噂も、嘘です」
 ときんきん声でつづけた。
 首をかしげなから雨のなかを自転車を走らせて帰り、からあげ弁当をレンジであたためて食べた。けれど、雨つぶがどこかからはいったのか、味はいつもとちがって妙になまぐさいような気がして、指についた脂はなんだか魚っぽいにおいがした。案の定というか、風邪のせいか、腹をこわし、三日ほどひどい目にあった。
 歩けるようになってから医者に行き、たぶんもういらない胃腸薬をもらって帰り、テレビをつけると、レポーターが見慣れた「からあげ世界一!」の店の前にいてびっくりした。
「カワセミ容疑者は、店の指示を無視して、勝手に食材を変えていたそうです」
 参考写真として、水面で羽ばたいているカワセミの写真がうつる。
「容疑者は自分で捕ったブルーギルを使い、からあげを作っていたそうですが、食べられる魚だし、捕りたてだからだいじょうぶだと思ったと話しているそうです」
画面が切り替わり、釣り具店の店長だという老人が川べりでブルーギルの釣り方の指南をはじめる。横でテーブルとコンロを持ち込み、待ち構えているのは料理研究家だ。
「このようにしっかり火を通せば、ブルーギルのからあげも美味しく食べられます」
 老人が釣り上げたブルーギルを手際よくからあげに仕立てていく。店の前のレポーターが試食し、うまい! と連呼した。さらにブルーギル料理のアレンジレシピが紹介される。
 だがちょっと待てよ、とぼくは画面を見て思った。たしかになまぐさいような気がしたけれど、果たしてぼくの食べたのは、本当に生焼けのブルーギルだったのだろうか。
「駆除した椋鳥をからあげに転用しているという噂は、嘘です」
 カワセミは、そう言っていなかっただろうか。いや待て、
「ここのからあげは、謎肉ですから」
 と初めから、言っていなかったか。
 からあげ世界一!はしばらく営業停止したのち、店員を変えてふたたび営業をはじめている。店頭に立っているのはなんと椋鳥だ。ゲーギャッ、とへんなげっぷのような鳴き声を交えながら「ここのからあげは謎肉です」と前置きして、弁当を売っているのがうけている。ぼくは店の前までは行ったのだが、行列の長さを見て、あきらめて帰ることにした。
 帰り道、水面におりるカワセミを見た。カワセミは水面に喧嘩でも売るみたいに一直線に突っ込み、じぶんほどの大きさの魚を見事とらえていた。ブルーギルかどうかは、わからなかった。


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