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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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食わず嫌い

19/04/17 コンテスト(テーマ):第168回 時空モノガタリ文学賞 【 レシピ 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:179

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 タルクは銃をかまえて腹ばいになり、でこぼこした大地のうえを茂みの影まではっていった。
 正規軍兵士の影がちらとでもみえれば瞬時に、下を流れる渓流に飛び込む覚悟だった。仲間のゲリラがいれば、力をあわせて立ち向かうこともできたが、その仲間たちも次々に射殺されていくのをこの目でみているだけにタルクは、神経を針のようにとがらせながら、なおも匍匐前進をつづけた。
 と、灌木の向こうに、なにやら巨大なものが停止しているのがみえた。とっさに敵の戦車と判断した彼は、土に埋もれるぐらい顔をふせた。
 彼はそのまま、いつ立ち去るのか、戦車のキャタピラ音を逃すまいと、一心に耳をこらしていた。
 しかしいつまでたっても、期待した音はきこえてこなかった。こわごわ顔をあげたタルクは、やっぱり戦車はその場から一センチも動いていないのを確かめた。
 奇妙な形態の戦車だった。なめらかな胴体には、キャタピラなどはどこにもみあたらず、それどころかおどろいたことにそれは、地上五十センチの空中に浮かんでいたのだ。
 いつのまに正規軍がこんな超近代的な兵器を所有するようになったのだろう。これにくらべたら我々ゲリラの、旧態依然とした武器など、まるで子供の玩具だ。タルクは折れそうになる自分の心を、厳しく鞭打った。貧しい農民や村人たちをないがしろにしてやまない政府軍を打倒するために結成されたゲリラ組織に、自ら身を投じたタルクだった。政府の圧政を批判した父が暗殺されたときからすでに、その意志はかたまっていた。
 そんな自分が、政府軍の最新兵器をまのあたりにしたからといって、尻尾を巻いて逃げるわけにはいかない。
 彼は決意すると、背嚢から小型地雷をとりだした。そして戦車のまえまで突き進むと、車体の下部にそれを吸着させた。安全装置をはずして15秒後に爆発するまでの間に、もとの木の影まですばやくかけもどった彼は、爆風にそなえて両腕で顔面をまもった。
 きっちり15秒後に地雷は爆発した。これまでにも一台、おなじ方法で爆破した経験をもつタルクは、自信ありげに戦車のほうをみた。
 爆発で生じた黒煙はまだ辺りにたなびいていたものの、戦車は同じところにそよとも動かず浮かんでいた。
 あぜんとして彼が顔をあげたとき、戦車の背後の茂みがざわつき、何かが木々のあいだから姿をあらわした。
 身の丈2メートルを優にこす大男は、担いでいた鹿を地面に投げ出した。そして背にしていたリュックから、数種類の植物とキノコの類をとりだした。
 タルクが不可解な男の行動をみまもっているとき、空中に浮かぶ戦車の後部がふいに音もなくひらいたとおもうと、なかから数人の同じような背丈の巨人たちがあらわれ、最初の一人とあわせて七人が地面にたちはだかった。風貌といい、身につけているものといい、どうみてもかれらはこの世界の生き物ではなさそうだった。
 そのとき、いきなり戦車の前部がはずれ、そのはずれた椀状の部分が空中をひとりでに、七人のいるところに移動してくるのをまってみんなはそのまわりをとりかこんだ。
 最初の一人が鹿をもちあげて軽々とその椀状のなかに放り込むと、べつのひとりがさっきの植物とキノコをつぎつぎに投げ入れた。数分後、椀状のなかから蒸気がたちのぼり、たちまちそれはぼっと炎にかわった。肉の焼けるにおいが鼻先をかすめるのをしってタルクも、それがかれらの調理法だということがいまになってわかった。植物やキノコは味付けの材料なのだろう。
 実際、巨人たちは椀状のなかから焼けた鹿肉をつかみあげては、すさまじい食欲をみせてたべはじめた。一頭の鹿はたちまち食い尽くされた模様で、巨人たちはまだものたりなさそうな様子をかくそうともしなかった。
 すると一人がその巨体ににあわない敏捷さで森のなかにかけていき、まもなく一羽の雉と猪を一頭、わしづかみにしてもどってきた。さっそく、椀状の中で雉と猪は炙られ、それもまたあっというまに巨人たちの胃袋にきえた。それでもまだみたされないのか、物欲しげな態度で周囲を見回していたひとりの視線が、茂みからのぞいていたタルクの顔を、鋭くとらえた。
 しまった。とおもったときにはすでに、かけよってきた巨人の手にタルクは、がっちりつかまえられていた。
 タルクは、首をつままれた猫のような恰好で、みんなのいるところにつれていかれた。
 いつ椀状の中にほうりこまれるかと、びくびくしている彼の耳に、いっせいにみんなの濁音まじりの声がきこえたとおもうと、なぜかぽいと背後のくさむらにほうりなげられた。あとは、だれひとりとして、彼のほうをみむきもしなかった。
 どうやら俺はかれらの舌にはあわないようだ……。
 とにかく命拾いはしたことで、タルクはその場から死に物狂いににげだした。


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