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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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私をおいしく食べる方法

19/04/16 コンテスト(テーマ):第168回 時空モノガタリ文学賞 【 レシピ 】 コメント:2件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:196

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 五人は眼前にそびえたつ大江山をみあげた。
「本当に鬼はいるのだろうか」
 忠吾は仲間をみまわしながら、不安そうにいった。
「本当は鬼ではなく、鬼と化した心をもつ人間がいるのだろう」
 と、年長者らしい分別をみせたのは、五平だった。それには他の面々も一様にうなずいた。誰しも、おのれの中に鬼を認めたことは一度や二度ではあるまい。
「相手が人なら、たとえ鬼の心をもった相手といえども、我らが力をあわせてかかれば、なんとかなる」
 館では主人の身を守るいわばSP的存在の一人である三郎太らしい発言がとびだした。今回の旅路に随行したのも、仲間の守護役がおもな役目だった。
 家来たちには優しいが、こと食べるものに関しては執着が深く、いったん食べたいと思うと、なにがなんでも口にしないことにはおさまらない性分の主が忠吾をよんで、京丹後に伝わる珍味の鮎の粕漬が食べたいといいだしたのは一週間前のことだった。とっさに忠吾は、それなら私でも作れますと忠言したが、腹の中ではああ、またかとため息をついていた。そういえば先日、主の友人が久しぶりに訪ねてきて、盛大な酒盛をひらいたが、その友というのがまた、各地の珍味を食べ歩くことを道楽にしており、おそらくそのときにでも主は、その友から京丹後の粕漬の話をきいたのだろう。そのうえ、当地のものは当地で食べるからうまいのだとでもふきかけられたのにちがいない。主は幼少時に落馬して以来、足に障害をもっていて、とても京丹後まではいけないので、それではと忠吾に、当地にまででむいて件の珍味をもってくるようにと命じた次第だった。ボディガードまでつけたのは、京丹後に行くにはどうしても大江山をこえなければならず、主の忠吾にたいする思いやりとみるべきか、それなら最初からそんな剣呑な場所に向かわせなければいいと思うのだが。
 とにかく、忠吾とその一行は、大江山に足をふみいれた。昼間とあって、妖怪変化が出現するにしては明るすぎることも、かれらに登攀を躊躇させなかった理由だった。
 だが、中腹まできたとき、にわかに繁みがざわついた。太刀を背にした三郎太が、油断なく周囲をみまわしたそのとき、
突然あらわれた巨大な腕が、彼をわしづかみにした。そして空中高くもちあげるなり、さっきまで岩にみえていたものが、ぐわっと口をひらいて、三郎太をまる呑みにしてしまった。
「鬼だ」
 鬼の心をもった人間などと考えていたじぶんたちのうつけた気持ちはたちまちふっとんで、忠吾たちは一散ににげまどった。が巨大な鬼は次々に仲間たちをのみこんでいき、ひとり残った忠吾もとうとうつかまってしまった。
 だが鬼は、忠吾を呑みこもうとした寸前、とてつもなく大きなゲップをした。
「さすがに腹がふくれた。おまえは後で食べることにする」
 そんなわけで忠吾は、鬼のすみかにつれていかれて、鬼がふたたび空腹をおぼえるまでのあいだだけ生き延びることができたのだった。
 鬼にくわれては大変とばかり忠吾は、さりとて目の前に居座る鬼からにげだすこともできず、一心に知恵をしぼったあげく、一計を案じた。
「鬼さん」
「なんだ」
「私をおいしく食べる方法を教えてあげましょうか」
「おまえを、おいしくだって」
「私はさる高貴なお方の下で、食事作りをしています。料理の味付けに関しては、天下ひろしといえども誰にもひけはとらない自信があります」
「ほう。それならおまえをおいしく食べる方法とは、なんだ」
「それには、まず、インドのギーという油で裏表をじっくり炒めてから、唐の国は雲南省昆明の土鍋を用意し、北海道産の昆布と九州のあごでつくった出汁で一昼夜煮込んでから、トルコのぱとうるじゃん・さたらすを盛った皿に……」
 最初は熱心に耳を傾けていた鬼だったが、いつまでも続きそうな忠吾のことばに、
「いちいちおぼえてられないから、おまえそれを、紙に書け」
 忠吾はさっそく矢立をとりだし、懐紙にすらすらしたためたものを、鬼に手渡した。
「まこと、ここに書かれているものをあつめれば、おいしいおまえが食べられるのだな」
「とびきりおいしい私めがです」
 鬼ははやくも口の端から涎をたらしながら、
「ではさっそく、これらのものをあつめてくる。おまえはここからでてもいい。どこにいても、神通力でみつけだせるからな――」
 いうなり鬼は、疾風のようにかけさっていった。その勢いからして、鬼は本気で世界中から忠吾の書いたものをあつめてくるつもりのようだった。
 しかし忠吾は、おちついた足取りで大江山をくだりはじめた。懐紙には百の数の食材などを書いておいた。その中の現実に存在する九十九のものは、本当に鬼はあつめるだろう。だが残りひとつのものを、はたしてもってくることができるだろうか。
 そのひとつとは、北斗七星のひしゃくだった。
 




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このストーリーに関するコメント

19/05/07 雪野 降太

拝読しました。
無理難題を提示して逃げる隙をうかがうのかと思いきや『神通力でみつけだせる』というのは恐怖ですね。素材が揃わないとわかった鬼がどう行動するのか気になる終幕でした。
読ませていただいてありがとうございました。

19/05/08 W・アーム・スープレックス

ありがとうございます。
人間必死になったらこのぐらいのことは考えつくものかと思いながら書きましたが、鬼がグルメであってくれたことがもっけの幸いでした。

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