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犬飼根古太さん

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性別 男性
将来の夢 どれだけ掛かっても作家になることです。
座右の銘 井の中の蛙 大海を知らず されど、空の深さを知る

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実践! 料理部

19/04/16 コンテスト(テーマ):第168回 時空モノガタリ文学賞 【 レシピ 】 コメント:3件 犬飼根古太 閲覧数:162

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「実践」を掲げる料理部であること。
 それがこの料理部が、一般的な料理部と違うところだ。
 かつて廃部寸前だった部を立て直した部長が「実践的に料理を学べる部にしよう」と言い出し、見事に再建したのだった。
 その方法とは…………。

 冷蔵庫の前に部員十名が集まっている。
 期待と緊張に満ちた視線が冷蔵庫に集まる中、部員の一人が扉を開ける。
 冷蔵庫の食材を一通り確認した部員たちからは、「あぁ……!」とか「これは……っ」などという声が次々に上がる。
 今日のレシピはカレー。
 曲がりなりにも料理部に所属している以上、入部間もない新入生であっても、レシピなしでカレーくらい作れるだろう。
 だが、この部では、レシピは重要なのだ。
 いかにレシピ通りの料理の味を再現できるかが評価のポイントになる。
「部長……レシピには、ジャガイモやニンジンなどが記載されてるんですが……」
 現在料理部にあるジャガイモとニンジンなどの材料は明らかに足りない。物によっては一人分程度しかない。
 部長と副部長の私、部員たちを含めれば十二人いる。当然一人前ではなく、十二人分作る必要があった。
 先程質問した部員は困惑顔を浮かべている。
(まぁ新入部員だから仕方ない)
 別の新入部員も困ったように声を上げる。彼女は棚の中にあるカレールーを確認していたはずだ。
「レシピには中辛って書いてあるのに……辛口と甘口しかないんですけど、しかも……」
 彼女が掲げているパッケージを見ると、どうやら甘口はほとんどなく、辛口が多いらしい。
(そういや去年大安売りしてた時に辛口しかなくて、仕方なく買い込んだっけ……)
 部長と買い出しに行った時のことを思い出した。
 部長も私も特別辛い物が好きということもなく、カレーはせいぜい中辛が限界。結果ずっと使われずに残っていたのだろう。
「甘口と辛口を混ぜれば、中辛になるんじゃ……!」
 誰かが意見を出したが、ルーを持った女子が否定する。
「無理よ。辛口の方が多いんだもん!」
 果たしてレシピと材料を確認した段階だけで、ここまで議論が白熱する料理部が他にあるだろうか。もしかしたらあるかもしれないが、あまり一般的ではないだろう。
「――さすが実践的な料理部!」
 新入生の一人が感動している。
 私は目にゴミが入った振りをして、顔を拭って下を向く。思わず笑いそうになってしまったのだ。
「その通り!」
 部長が声を張り上げる。
「うちの部は、レシピ通りの味を、足りない材料で再現する! そこがポイントなの」
 私を笑い死にさせるつもりか。
 副部長として恥ずかしくないようにしっかりと顔を作ってから私は顔を上げた。
「……一般家庭の冷蔵庫にレシピ通りの材料が常に揃っているとは限らないからですね。実践的に学びましょう」
「はい!」と元気のいい返事が返ってくる。
 うん。言えた。がんばった、私!
 議論に戻った部員たちは、嬉々として話し合っている。結局、甘口はもちろん使うが、辛口も使い、水の代わりに牛乳を使用するということで決まったらしい。
(なるほど、確かに牛乳を入れればマイルドになる)
 ついでに余っていたリンゴをすり下ろし、瓶の底に残っていたハチミツも使用するそうだ。
 具材の方は、具が少ないので、ナスも入れることにしたらしい。
 そういえば麻婆茄子を作る際に、ちょうど特売だったため多めに買い込んでおいたのだ。
 完成したカレーは、なかなか独創的な香りと色彩になっていた。牛乳で白っぽくなったルーには、ハチミツで艶が出ている。湯気と共に立ち上る香りを嗅ぐ限りでは、辛口らしい刺激的な匂いはほとんどしない。
 具材は、白やオレンジに交じって、紫色の物が浮かんでいる。言うまでもなく、ジャガイモとニンジン、そしてナスだ。
「いただきまーす!」
 熱々のカレーを部員みんなで食べてみる。
 食事の際の意見交換も積極的だ。
「やっぱナスは歯ごたえが……」
「ナスが悪いっていうよりも、ジャガイモとニンジンが少なすぎたのがいけないんだよ」
「味は及第点よね? ――ですよね、部長、副部長?」
 話を振られた私と部長は、いかにもわざとこれらの食材を揃えたという表情を作って、重々しく頷く。
「美味しいわ」
「うん。サイコー!」
 部長と私の返事に、部員たちの顔がほころぶ。

 一度は廃部寸前まで行った部。
 残念ながらまだ部費は少ないのだ。 
 そのためレシピ通りに材料を揃えるのは難しく、以前の料理で余った食材や安売りで買い込んだ食材を使うしかない。
 そんなことに思いを巡らし、私は部長に視線を送る。
 部長は澄まし顔でスプーンですくったカレーを口元に運び、微笑んで囁きかけてきた。
「家計の収入だって潤沢とは限らないわ……実践的でしょ?」


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このストーリーに関するコメント

19/04/16 浅月庵

設定もユニークで、最後の一文でなぜ「実践」を重んじているのかが明らかになってとても面白く読めました!

19/05/07 雪野 降太

拝読しました。
12人前の料理を用意するには確かに費用が嵩むことでしょう。漠々たる活動方針ながらも謎解きのような議論に熱中できる料理部員達の意欲的な態度が清々しく感じられました。
読ませていただいてありがとうございました。

19/05/21 犬飼根古太

浅月庵さま、コメントありがとうございます。

>設定もユニーク
設定をユニークと評価していただけて良かったです。

>最後の一文でなぜ「実践」を重んじているのかが明らかになってとても面白く読めました!
ありがとうございます! オチから考えた物語だったので、そこを高く評価していただけて嬉しいです。



雪野 降太さま、コメントありがとうございます。

>謎解きのような議論に熱中できる料理部員達の意欲的な態度が清々しく感じられました。
ご感想をお聞かせいただいて、そこも重要なポイントだったと気づけました。

>読ませていただいてありがとうございました。
こちらこそご感想をいただき、ありがとうございました。

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