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小高まあなさん

鳥と怪異と特撮ヒーローが好き。 ひねくれつつも清々しい物語がモットー。

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帰る実家はありません。

19/04/15 コンテスト(テーマ):第167回 時空モノガタリ文学賞 【 実家 】 コメント:0件 小高まあな 閲覧数:111

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「実家に帰らせていただきます!」
 そう宣言して家を飛び出した。が、飛び出したところで、私に帰る実家などなかった。
 とりあえず手元にあった鞄を持ってでてきたが、中には碌なものが入っていない。お金だってあまりない。
 どうしたものかな、と思いながら近所の公園に向かう。夕方が近づいてきて、人はどんどん帰っていくところだった。寂しい。
 とぼとぼとブランコに座る。
 友達の家に泊めてもらうことも考えたが、そうした段階で家に連絡されてしまうだろう。そしたら連れ戻されるだけ。
 どうにかしてお金を稼いで、一人で生きていけないだろうか。そんなことをつらつら考えていると、ぽつぽつと雨が降ってきた。傘なんて持っていない。仕方なく、滑り台の下に入り込む。雨は避けられるけれども、わびしい。どんどん寒くもなっていくし……。
 鞄を椅子にして座ると、大きなため息が口からもれた。
 なんだってこんなことになったんだろう。いつもの喧嘩だったのに、今日はどうにも許せなかった。多分、そこに理由なんてない。虫の居所が悪かった、というやつだ。
 家に帰ればいいのかな。そうは思うけれども、それはそれで腹が立つ。あと、雨が強すぎる。
 とりあえず、雨が止むまではじっとしてよう。そう思った。
 
 雨が上がるのを待っている間に、うとうとしてしまっていたらしい。
 気づいたら空は真っ暗になっていた。雨は上がっている。今、何時だろう。
 滑り台の下から抜け出すと、
「あれー、お嬢ちゃん、こんな時間に一人で何してんのー?」
 声をかけた。視線を向けると、ブランコの方にちゃらちゃらした明るい髪の男が三人。制服を着ているから、高校生。
「危ないよー」
 まだ距離はある。それでも思わず、数歩後ずさる。
 そういえば、柄の悪い高校生が夜はたまり場にしてるって、先生が言っていた。
「迷子? だったら一緒に警察に……」
 一人がブランコを下りる。近づいてくる。後ずさった私の足が、びちゃり、と水たまりを踏んだ。
「大丈夫です」
 小さい声で言って首を横に振る。
 怖い。
 男が近づいてくる。
 泣きそうになったところを、
「ごめん、うちの子だから大丈夫」
 聞きなれた声がして、ぽんと頭に手を置かれた。
「お父さん……」
 振り返る。いつものスーツ姿のお父さんがそこにはいた。
「おっさん、マジで父親? なんか証明するものある?」
 男が睨みながら、そういうと、
「最近の子はしっかりしてるなー」
 苦笑しながらお父さんがケータイを取り出す。この前のお父さんの誕生日に、私が作ったケーキを前に自撮りした写真。二人で写っている。
「なんだ、よかった」
 安心したように男たちが笑った。
「だめよー、おっさん。小学生をこんな時間に一人で外に出しちゃ」
「ああ、うん、ごめんね。ありがとう」
「俺たち、不審者扱いされて捕まりたくないしなー」
「君たちは家に帰らないの?」
「予備校までちょっとここで時間をつぶしてんの」
「なるほど」
 お父さんは男たちとそんな話をしている。
 それから、私の肩を押すと、
「帰ろうか」
 促してきた。
 手を繋いで、家に向かう。
「さっきはさ、ごめんな」
 並んで歩きながら、お父さんが言う。
「ううん、ごめんなさい……」
 遠足でお父さんが作ってくれたお弁当に文句を言ったのは、きっかけを作ったのは、悪いのは私の方だ。
「がんばるからさ、お父さん。お母さんの分も」
 だから、とお父さんは続けた。
「家出はもうなしな。すっごい探したから。ずっと公園にいたわけ? 一回見たのに」
 お父さんは傘を二本持っている。雨が降っている時から、探してくれていたのだろう。
「滑り台の下にいたから」
「そこは見なかったなー」
 お母さんが死んでから、お父さんは仕事を早く帰ってくるようになった。その分ずっと、家で仕事しているけど。そんなに無理しなくていいのに。お弁当だって、無理して作らなくていいのに。二人の家族なんだから協力すればいいのに。私は、それがむかついている。
「お父さん、お母さんの分もがんばらなくていいよ」
「え?」
「お父さんの分だけがんばってくれたらそれでいいよ。私だって、大きいんだから。ケーキ、作ったでしょ?」
 いうと、お父さんはちょっとだけ泣きそうな顔をして、そうだね、と笑った。
 家にたどり着く。
「実家に帰りますって、どこで覚えた言葉か知らないけどさ」
 玄関のドアを開けながら、お父さんが笑う。
「ここが莉理の実家だからね? 今は住んでいる家だけど、いずれ一人暮らしとかしたら帰ってくる実家になるんだ。その時はさ、いつでも帰っておいでね」
 それだけ言うと、ただいまーとお父さんは家の中に入っていく。
 私もその後に続いた。
 私の住む家、帰る場所。
「ただいま」


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