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おちゃめな母は魔法使い

19/04/14 コンテスト(テーマ):第167回 時空モノガタリ文学賞 【 実家 】 コメント:0件 海原 閲覧数:114

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「母さん夕方まで帰らないし、父さんも外出しているから鍵忘れないようにね。」
実家に帰る日の朝、母からこんなメールが届いていた。久しぶりに実家へ帰るのに、父も母も不在とは少し寂しいな…。そんな気持ちを抱えながら、京都から実家のある兵庫へと向かっていた。お土産に京都産のワインとチーズとお豆腐をリュックサックに詰め込んで。季節は5月を迎え、すっかり桜は散ってしまった。今年も仕事が多忙でゆっくりとお花見をする暇などなかった。生涯あと何回美しい桜を見ることができるのだろう?そんなことを考えてながらセンチメンタルな気分になっていた。
3時間弱ほどで実家に到着。玄関のドアを鍵で開けると部屋の中は真っ暗だった。まだお昼の12時だっていうのに、なんだか不気味な雰囲気が漂っている…。すると奥の部屋からかすかに音楽が流れていることに気がついた。美しいピアノのイントロ、柔らかな歌声。それはユーミンの「春よ来い」だった。
そんなことより気味が悪い…。父さんも母さんも外出しているんだよね?なのにどうして音楽が流れているの?真っ暗な部屋へ一歩足を踏み入れると足元がヒヤッとした。
「えっ!ちょっと待って?なんで床がびしょ濡れなの?!」靴下がびしょ濡れになってしまった。仕方なくその場で靴下を脱ぎ捨てた。これは異常だ。何かあった違いないよ。わたしの胸は心配と不安と恐怖ではち切れそうになっていた。とにかく部屋が真っ暗な状態だとどうにもならないので、急いで部屋中の電気のスイッチをつけてまわった。どうなっているのかさっぱりわからない。廊下とリビングは変わりなし。もしかして、CDプレイヤーつけっぱなしのまま外出してしまったのかな?
不安な気持ちを抱えたまま、ユーミンの音楽が漏れつつある部屋へ向かい部屋を開けると、「おかえりなさい〜!ずーっと待っていたのよ〜!」パ〜ン!と大きな音でクラッカーが鳴った。
「ちょっと〜!びっくりさせないでよ!めちゃくちゃ心配したし不安だったんだから!」
「なによ、久しぶりに再会したのにそんなに怒らないでよ!あんた、靴下脱いでいるでしょ?さあさあ、いますぐこの足湯に浸かりなさい!長旅疲れたでしょう。」
わたしの心配や怒りなどをよそに、母は足湯を勧めてきた。よく見てみると、足湯の機械が置いてある。
「もしかして、すぐに足湯に入らせるためにわざと床を濡らしてあったの?」
「そうよ、大正解〜!普通に靴下脱ぐようじゃ、なんかつまらないでしょう?それに見て、季節外れだけどね桜の花びらを足湯の中にいれているのよ、あんたの見逃した春を感じて欲しくてね。桜の花びらを拾って冷凍保存しておいたのよ!」
バックミュージックはユーミンの春よ来い、そして温かな足湯の中にはほんのり薄ピンク色の桜の花びらがくるくると渦を巻いている。全く、ユニークな母のやることには脱帽する。
「あんた、今年は花見できなかったんでしょう?春を満喫できないなんて寂しいじゃない。それならせめて、実家で春を感じてもらいたいと思ったのよ。」
そう言いながら母はあったかい玉露とお花見だんごを差し出してくれた。
「はぁ、実家っていいな〜。わたしは幸せだわ。母さん本当にありがとう。」
遊園地のどんなアトラクションよりも、目の眩むような美しい桜の花よりも、母の用意してくれるこの空間が一番刺激的で楽しくて、安らぎを感じる事ができる。この感情は他では絶対に得る事ができない。なんだろう、不思議だな。自然と全身からエネルギーが湧いてくる。そうだ、母はおちゃめな魔法使いなんだ。
これまでも母はユニークなアイデアでわたしのことを笑わせてくれた。エイプリルフールの日になると、自宅に植えてある梅の木にリンゴやバナナ、ニンジンやキュウリなどをぶらさげた写真を送ってくるのだ。そして「今年もたくさん、果物が実りました。今日はキュウリを収穫していただきます!」というようなメッセージが添えられている。
どれだけ仕事で心身が疲弊していてもクスっと笑える時間を与えてくれる。実家には心を豊かにしてくれる魔法使いがいる。わたしは自分が母親になったとき、こんなにもユーモアのある魔法をかけることができるだろうか?疲れたなと思った時に自然と足が向かうのはやっぱり実家だ。そして一番に、両親の顔が見たいと思っている。人に愛情を与えること、真心を伝える事、笑顔になってほしいという気持ち。そうした情熱は母からもらったのだと改めて感じている。おちゃめな魔法使いから与えてもらった素敵な刺激を、わたしはこれからたくさんの人に伝えていきたいと思う。家族はもちろんだけれど、友人や職場の人にも伝える事ができればいいなと思っている。
わたしの実家にはおちゃめな魔法使いがいる。わたしもその血を引き継いでいるわけだから、きっとこれから先おちゃめな魔法使いになるのだろうなぁ。


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