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中村瑞帆さん

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実家詣

19/04/14 コンテスト(テーマ):第167回 時空モノガタリ文学賞 【 実家 】 コメント:0件 中村瑞帆 閲覧数:111

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 妻の実家に帰るのは、毎年のことながら憂鬱である。義父はいつも言う。
「君の顔を見ているとどことなく辛気臭い」
 自分でもそう思うが、そう言われても自分の顔は自分では選べないのだ。
義父が伸びをした拍子に首が伸びて天井にあたり、ゴキン、と音がした。
「あなた、気をつけないと。何度ぶつかったら気が済むの」
 義母がぺろぺろと床のゴミをなめながら言った。義母は、体中緑色でぬめぬめした肌をしている。辛気臭いことは否定しないが、あんたらに言われたくないよ。私は心の中で毒づいた。
「床をなめないでよ、汚い」
 河童の姿をした妻が言った。妻は頭の皿が渇くとよりイライラしてしまうのだ。

 私が死んでから二十年ぐらいだろうか。数えるのも面倒だ。死なないのだから、月日などあまり意味もないのだ。生きている間はあの世と呼んでいた場所に来たのだが、まさか死後の世界がこんなことになっているとは思わなかった。
ここに来たものは、全員が何らかの妖怪の姿になっている。生きていた頃の願望が妖怪の姿になるのだ、というものもいる。何かの罰だ、というものもいるが、全く真偽は分からない。数千年かかって分からないのだから、今更わかるまい。そもそも誰が天罰を与えているというのだろうか。死後の世界には神も悪魔も鬼も見当たらないのだ。
食事も睡眠も必要なく、金もいらない。従って、特に仕事もないので、実家への挨拶が唯一の仕事のようなものだ。しかし、何代も何代も前の実家までいかねばならないのだ。誰も死なないのだから、人の数は増える一方である。その面倒なことと言ったらたまったものではないが、これすらなくなってしまったら、と想像するとやはりすることの一つぐらいあってもいいのかな、という気にもなる。何もすることがないことも辛いものだ。
「あなたの顔って本当に辛気臭い」
 妻はいつものように不機嫌な様子で言った。
「俺だって好きで貧乏神になったんじゃない」
私は弱弱しい声でつぶやいた。


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