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つつい つつさん

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実家に帰らせてもらいます

19/04/14 コンテスト(テーマ):第167回 時空モノガタリ文学賞 【 実家 】 コメント:0件 つつい つつ 閲覧数:117

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 今日は久しぶりに仕事が定時に終わったので急いで家に帰ることにした。いつも残業ばかりで少し年上の妻の麻衣さんと、この春から小学校に通う美桜と一緒に夕食を食べることも出来なかったから電車の中でも早く帰りたくて、ドアの前で足踏みなんてしたりもした。 
 最寄り駅から駆け足で歩いていると、ちょうどスーパーから出てきた麻衣さんと美桜を見つけて僕は思わず美桜に抱きつこうと駆け寄った。
「変態!」
 麻衣さんはいきなり振り向くと、右手ですばやく大根を買い物袋から抜き取り僕の喉元に突き出すと、殺し屋のような目で睨みつけた。
「なんだ、想太か……」
 麻衣さんが呆れた顔で僕を見ると、美桜が「あっ、パパ!」と、満面の笑みで僕に飛びついてきた。
「物騒な世の中なんだから、いきなり出て来たらびっくりするだろ」
 僕は麻衣さんに怒られて「ごめんなさい」と素直に謝った。それを見ていた美桜まで「パパ、そうだよ。びっくりするでしょ」って僕に注意するから、美桜にまで謝ることになった。
 夕食は三人でハンバーグを食べた。麻衣さんが朝出かける前に下準備していたから、三十分も待たずに食べれた。麻衣さんは仕事もインテリア関係の会社の企画部の主任としてしっかり働いているし、労働時間だけ長くて給料の安い僕と違って仕事も家事も完璧だった。
 ご飯を食べた後は、麻衣さんが片付けをしている間に美桜と一緒にアニメを見た。魔法で戦う可愛いヒロインが活躍するアニメで、美桜は必死でヒロインを応援していた。
「もう八時になるよ」
 キッチンから麻衣さんの声が聞こえてきた。
「美桜、そろそろお風呂入ろう。寝る準備しなきゃ」
 美桜がすがるような目で僕を見てくる。
「パパ、もうちょっとだけアニメ見ようよ。だって、パパともっと一緒にいたいもん」
「そっか……美桜とこうしてるのも久々だもんな」
「そうだよ、パパ。もうちょっと起きててもいいでしょ」
「美桜!」
 ふりむくと麻衣さんが腕まくりして恐い顔で仁王立ちしていた。
「やっぱりだめ、八時には寝る約束だろ。美桜、アニメは終わりだよ」
 そう言って僕がテレビを消すと、今度は美桜が立ち上がり僕を睨んだ。
「もう、パパなんて嫌い。実家に帰らせてもらいます」
 僕と麻衣さんは思わず顔を見合わせると大笑いした。
「美桜、実家ってどこに帰るの?」
 麻衣さんが笑いながら聞くと、美桜は得意げな顔をしながら言った。
「パパとケンカしたら実家に帰るんでしょ。昨日ミサちゃんとママが実家に帰ったって言ってたもん」
「残念ながら私に実家なんてないよ。想太にだったらあるけど。でも、想太とケンカして、想太の実家に帰るのもどうなんだろ?」
 そう言って麻衣さんが悩んでいると美桜もきょとんとした顔をしていた。美桜には、自分の親が住んでる家を実家って言うんだよと説明したけど、いまいちよくわかってないみたいだった。
 夜、ベットに入ると、麻衣さんが話しかけてきた。
「美桜が実家に帰りますなんてね」
「懐かしいね。麻衣さんも結婚した頃よく言ってたよね」
「想太は、私が帰るって言っても、帰れだの、実家なんてないだの、言わなかったね。気を使ってたの?」
「うーん、麻衣さんにはケンカしても勝てないから、言い返せなかっただけだよ」
 そう言うと、「ふーん」と言って麻衣さんは寝返りをうった。
 確かに気を使っていたのかもしれない。いつも完璧で隙を見せない麻衣さんは小さい頃養護施設にいて、親の顔も知らないらしい。だからって親がいないとか、親の愛を知らないとか言われても私は平気だよってよく言ってた。たぶん僕が親なんていないだろって言っても平気な顔するのはわかっていた。だけど本当に平気かどうかなんてわかりそうになかったから、そこには踏み込めずにいた。
 麻衣さんはまた寝返りをうつと、僕の肩を軽く揺すった。
「想太は、たまに実家帰りたくなる?」
「うーん、母さんがいろいろ構ってきて面倒だから、あんまり思わない」
「そっか」
「でも、いつか美桜が結婚して出て行ったら、しょっちゅう戻ってきそうだね」
 僕がそう言うと、麻衣さんは五分くらい肩を震わせ笑っていた。
「美桜はそうだな。私がどんなに帰ってくるなって言っても帰ってくるね」
「うん、ケンカしようがしまいが帰ってくるよ」
 その後、麻衣さんはしばらく遠くを見つめるように天井を眺めていた。
「そっか。私に実家なんて一生ないんだって思ってたけど、美桜にとってはここが実家なんだ」
 そう言ってまだ天井を見つめている麻衣さんを見ながら、頼りない僕だけどずっとここを守ろうって考えていた。


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