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待井小雨さん

待井久仁子というペンネームで「小説&まんが投稿屋」というサイトで、童話やホラーやよくわからない物語を投稿しています。 ご興味を持っていただけたら、よろしくお願い致します。

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あなたの家の

19/04/13 コンテスト(テーマ):第167回 時空モノガタリ文学賞 【 実家 】 コメント:4件 待井小雨 閲覧数:263

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 結婚の挨拶をするために、彼女の両親に会いに行くことになった。付き合い始めてから数年になるが、彼女の実家に行くのは初めてだった。
 
「家に連れていくのは、少し不安で」
「不安?」
 地方の寂しい駅を降り、バスを待つ。
「前に付き合ってた人がうちに来たことがあるんだけど、その時に……何て言うか、その家だけの文化みたいなのってあるでしょう? それが合わなかったみたいで、別れることになってしまって。だから『この人ならうちに合う』って思える人でなければ、連れてこないよう決めていたの」
 前の恋人の話なんて気分良くないよね、と彼女は謝る。
「良いよ。僕なら大丈夫って信じてもらえてるってことだろ?」
 育った環境が違えば色々な事が違っていて当然だ。地域によって味噌も違うだろうし、家によっておかずの盛り付け方も違うだろう。
「何がそんなに合わなかったんだろう?」
「父親の立場……かなぁ」
「尻に敷かれてるとか?」
 彼女は少し笑った。「そう。父親がそういう扱いを受けてるのは信じられないんですって」
「じゃあ、お母さんが家の支配者というわけだ」
 言い方、と彼女がわざとらしく顔をしかめる。
「お父さんが私たちを大切に見守ってくれているって、ちゃんとわかってるわ。尊敬しているの」
 それなら良かった、と僕。「君の尻に敷かれてしまってはたまらない」と言うと「駄目なの?」ときょとんと返されてしまった。

 バスを降りて数分歩くと、彼女の実家はすぐだった。途端に緊張で体が固まる。
「さあ、潔くチャイムを押しなさい!」
 ぐいと手を引かれてチャイムを押すと、軽やかな足音がして笑顔の女性が出てきた。
「いらっしゃい! どうぞ上がって」
 にこにこと促され、あれよあれよと言う間に室内に招かれて座布団の上に座らされていた。
「堅苦しい挨拶なんて要らないし、緊張もすることないのよ。この子の旦那さんになってくれるなら、もう家族だもの」
「は、はあ……」
 すっかり気圧されてしまう。卓の上にはごつごつとした湯飲みが置かれ、勧められてそのお茶を一口すする。所在なく部屋の中を見渡すと、ふとひとつのランプが目に留まった。
「さあ、どうぞどうぞ」
 はっとして視線を戻すと、食卓には驚くべき速さで母娘が運んできた料理が並んでいた。手伝うどころか挨拶さえまともに出来ていない。定番の「娘さんを僕に下さい」はいつ言えば良いのだろう……とはたと気づく。
「お義父さんはどちらに?」
 座布団から離れ、畳に手をつく。
「ご挨拶をさせて下さい」
「そんなに畏まらないで」
 お義母さんはころころと笑った。
「夫もあなたのこと気に入っているわ。とても嬉しそうだもの」
 部屋を見渡すがお義父さんの姿が見えず戸惑う。「えっと……どちらにいらっしゃるのでしょう……?」
 すると先ほど僕が目を止めたランプを彼女が笑顔で持ってきた。温かみのある電球が灯っているそれをくるりと回す。――と、そこには人の顔があった。
 ランプシェードは人の顔の皮で出来ていた。
「いつもこうして私たちを照らして見守ってくれているのよ」と彼女。シェードとなった彼女の父の顔はぎゅうと縮こまっている。
「これもね」とお義母さん。クッションのカバーを見せて「夫の皮で作ったの」と言う。
 僕は畳に手をついたままランプとカバーを見る。「は……」とだけ声が出た。痙攣するように頭が動き、卓にぶつかる。その拍子に湯飲みが目の前に転がった。よく見ると、湯飲みには指が埋め込まれていた。
「この子と結婚して子供が生まれたら、どうかあなたもこうして家族に寄り添い照らす、そんな存在になってね」
「は……」とまた息のような声が漏れる。
「大好きなお父さんがいつもそばにいてくれるなら、家族は幸せでいられるわ」
 彼女が僕にふわりと腕を絡める。僕に信頼を寄せる瞳。
 ――僕は我を忘れて彼女を突き飛ばすと、叫びをあげて家を飛び出した。

 長い時間をかけて自宅に到着した。震えと吐き気が酷かった。
(父親をあんな風に……)
 バラバラにし、更にはそれを加工して日常で使用するなんて。
「……ただいま」
 声をかけて部屋に入る。おかえり、と両親が返事をした。
「……ひどく、怖い目にあったよ」
 二人の腰掛ける椅子に向かう。近づきながら、二人の服をそろそろ春物に変えた方がいいな、と考える。
「結婚は駄目になったよ、ごめん」
 落ち込まないで、と母。次があるさ、と父。
 両親を前にすると心が安らいだ。母は完璧で父も完璧で、どこも損ねるべきではない。
 あるべき姿をバラバラに壊すなどあり得ない。尊敬し親しんだ家族の形が変わるなど耐えられない。
 ――おいで。
「うん」
 処置を施して指の先まで美しい死体となった両親の前に跪くと、僕は子どものように二人の手に頬を寄せた。


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このストーリーに関するコメント

19/04/15 秋 ひのこ

衝撃的でした……!! 
ホラーは苦手なのですが、こういう発想力、表現力に脱帽いたしました。
オチが単純に「彼氏も死体と暮らしていた」で終わるのではなく、「彼女とお母さんの父親に対する扱い方」を「自分のやり方と比べる彼氏」まで突っ込んで描いている点、死体をどう扱うかで人と柄が出る、性格が出るという、「人間」そのものを滲み出している点が素晴らしいと思いました。
そして、「親の死体と暮らすこと」はこの話の中では奇異ではない。読者だけが「そこ、全員スルーなんだ(笑)」とひそかに感想を抱ける構成も、好きです。

19/04/23 待井小雨

秋ひのこ 様

お読みいただきありがとうございます。
「死体と暮らすこと」に恐怖を感じているかと思いきや、「死体の扱い方」に恐怖を感じている、というオチにしてみました。彼女の「この人なら大丈夫」という感覚はあながち間違いではなかったのだ、という感じです。主人公の方が死体の扱いについては若干繊細、という差がありますが(笑)
今回はアイデア勝負みたいな感じで書きましたので、発想をほめていただき嬉しいです!

19/05/30 光石七

拝読しました。
彼女の実家の状況も衝撃的でしたが、さらにオチが……!
面白かったです。

19/06/06 待井小雨

光石 七様

お読みいただきありがとうございます。
1つ目のオチだけでは普通すぎるな、と思い、2つのオチを用意してみました。
面白いと感じていただけたなら幸いです!

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