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ササオカタクヤさん

文章でササオカタクヤの世界を伝えられたらいいなと考えてます。 キャラクターたちがイキイキとした物語を書いて、読んだあと何か残れるような作品にしていきます。

性別 男性
将来の夢 自分の作品を多くの人に読んでもらうこと
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家を売らないお父さん

19/04/13 コンテスト(テーマ):第167回 時空モノガタリ文学賞 【 実家 】 コメント:0件 ササオカタクヤ 閲覧数:91

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「絶対この家は売らないぞ」
何度も何度も都市計画のため行政が土地買収の話を持ちかけてくる。それでも一向にお父さんは売ろうとはしなかった。もうこの家も相当廃っているし、この際多額で持ちかけられているんだから売って新しい家でも買ったらいいのに。なんて娘の私は考えている。
「まったく、人が建てた家をあーだこーだ言ってきやがって。ふざけやがって」
「まぁ気持ちは分かるけど。でも私や和葉は結婚して出ちゃってるしさ。お父さん一人でこの家に住むのも大変じゃない?」
私がそう言うとお父さんは「お前までそう言うのか!」と怒ってしまう。これはいつものことだから気には留めなかったけど、どうしてそこまでこの家を売り払いたくないのだろう。
私が三歳の頃にこの家ができたと随分前にお母さんが教えてくれた。私も気づけば三十も半ばに差し掛かっている。そりゃこの家の思い出は相当ある。毎月のように和室の柱に私たちの背を刻んだ印、和葉と一緒に襖に落書きをした形跡、そして大好きだったお母さんがここに住んでいたということ。
お父さんはその思い出を壊したくないから守りたいのか?私の中で消えることはない思い出だから、家が売り払われたとしても忘れないよ?
いや仮に私の考えた通りだったら、普段から私たちにもっと優しくしてほしいと思ってしまう。いつも顔だしたってぶっきら棒だし、すぐに怒っちゃうし、生前お母さんのことだって大事にしてなかったし。思い出ばかり可愛がったって意味ないぞ!そう私は思ってしまう。

それからもお父さんは家を頑なに売り払おうとはしなかった。私たちもなんとなくこのままお父さんは家を売り払わないだろうと感じていた。行政のみなさん、父は頑固者で一回言い出したら曲げることはありません。都市計画の妨げになってしまい申し訳ございません。
そんな馬鹿げたことを考えていたある日、お父さんは友達と一緒に行った旅行先で倒れてしまった。たまたま友達と一緒に旅行だったからよかったけど、もし実家で一人の時だったら助からなかったかもしれない。私はますます家を売って私や和葉の家の近くに越してきてほしいと願うようになった。
「お父さん、よく聞いて。私たちはこの家を売って近くに引っ越してきてほしいの」
「お前たちまでそんなこと言うとは。あり得ない」
やっぱりお父さんは頑なに断った。それでもこの日の私たちはめげなかった。
「お父さんがこの家を大事にしてるのは分かるよ?でもいつかは壊れるし、新しい家に引っ越せばそこでも思い出ができる。今までの思い出は無くなったりしないよ?」
この言葉でお父さんは少し揺らいでくれると思ってた。しかしお父さんの怒りは収まらず一言「今日は帰れ」と言い放つ。こうなったら最後、日を改めて説得しなきゃいけない。
その日から私たちは仕事や家事で忙しくお父さんのところへ行くことができなかった。そんな私の元に一本の電話が鳴る。その相手は地元の病院からだった。
「お父様の容態が…」

私たちはすぐにお父さんのいる病院へ駆け付けた。私たちが知っている威厳のある姿ではなく、弱り果てた姿をしたお父さんがいた。
声を掛けても返事はない。この前まであれだけ元気だったのに。そんなお父さんを眺めていると看護師さんが私たちに話しかけてくる。
「あのお父さんがこれを渡してほしいと」
そう言うと看護師さんはお父さんに預かった手紙を渡してくれる。

娘たちへ
私は数年前からいつ死んでもおかしくないと病院で言われてた。それでもお前たちに心配かけたくないから伝えなかった。申し訳ない。
この前、私が家を売り払わない理由は思い出があるからと言ってたな。確かに母さんも住んでた家だ。思い出は数えきれないほどある。でも私が家を売らない理由は他にある。なんだか分かるか?
それはお前たち娘が帰ってこれる実家を壊したくなかった。お前たちが過ごしたこの町にいつでも戻ってこれるようにしたかったんだ。
ただ私が死んだらあの家は誰のものでもない。売ってもいいし、建て直してもいい。お前たち二人で話し合ってくれ。
二人とも家族を大事に、そして姉妹仲良くしてくれることを私は願うよ。
父さんより

お父さんは私たちが帰ってこれる実家を残したかったと書いてあった。その想いが分かった時には、もうお父さんは私たちの手が届かない世界へ行ってしまった。喧嘩したまま、そしてありがとうも言えないまま。
しばらくして私たちは行政に家を売り払わないことを伝えた。お父さんが最後に残してくれた実家を大事にしたいと話した。すると行政から意外な答えが返ってきた。
「都市計画は中止になったんです。どの方も頑なに退きたがらず、断念せざる終えなくなりました。ご迷惑をおかけしました。この町の人はみんなこの町が大好きなんですね」
私はこれからも実家がある幸せを噛み締めた。


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