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hanamamaさん

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ねじれ階段

19/04/10 コンテスト(テーマ):第167回 時空モノガタリ文学賞 【 実家 】 コメント:0件 hanamama 閲覧数:96

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 わたしが昔住んでいた家は、すこし変わった造りをしていた。
 度重なる増築で家じゅうのところどこに段差があり、また上階へ昇るための階段が二つあった。
 そして老朽化にともない改築を重ねた結果、一方の階段は新しいが二階部屋は古く、他方の階段は古いが二階部屋は新しい、何ともいびつな形状になっていたのである。前者が祖父母の寝室で、後者が息子夫婦つまり私たちのそれだった。
 きしむ古い階段の上にリフォームされた明るい洋室。頑丈な新しい階段の上に古ぼけた六畳間。
 どちらを通るたびに、まるで異空間に出入りするかのような違和感がした。子どもながらにこの家はなんて歪なのだろうと感じていた。
 さて。こういった入り組んだ構造の家でこそ楽しめる子どもの遊びといえば?
 そう、『かくれんぼ』である。
 年末年始に親戚が集まると決まって、従兄妹たちとこの児戯に興じた。
 数年後実家を建て直したときに、「花ちゃんの家つまらなくなったなぁ」と年の近い従姉妹にグチられたくらいだから、よっぽどだろう。
 大みそかの昼、例によって私たちはかくれんぼを始めた。
 小学五年生のハジメ、四年生のイチコ、三年生の私、二年生のニコ、一年生のジロとアミ、アミの弟で五歳のイツキーー七人のメンバーで。
 何巡目かハジメが鬼になったとき、ことは起こった。
 最年長のハジメは、やたらと細長い家で二つの階段を行き来し、あっという間に年下のいとこたちを見つけ出してしまった。
 残りはひとり、最年少のイツキだけだ。
「アミと一緒に隠れていなかったの?」
「ううん。気づいたら側にいなかったの」
 ひとりで隠れるのが怖いから、とイツキはいつも姉のアミと同じ場所に隠れていたのに。
 それから、私たちはイツキの名前を呼びながら家じゅうを探し回った。古いオルガンのかげ、勉強机の下、箪笥と本棚の隙間、押入れなかの布団をすべて引っ張り出してもイツキは見つからなかった。
 私たちは焦り出した。夕飯の時間が迫っていたからだ。 
 夕飯の席にイツキがいなければ、大人たちは私たちを問いつめるに違いない。かくれんぼを禁止にされてしまうかもしれない。イツキのことも心配だった。どこかで見つけてもらうのをじっと待っている小さな姿を思い浮かべると、きゅうっと胸が締め付けられた。
「どうしよう……」
 アミが涙をぽろりと零したときである。イツキが居間にふらりと現れたのは。
「イツキ! どこにいたの!?」
 あれだけ探しても見つからなかったのに。年上のいとこたちに詰めよられたイツキは怯えながらも、「二階にいたよ」と答えた。
「二階ってどっちの?」
「新しいほうの」
「じゃあ、古い階段を昇ったのか」
「ううん。新しい階段だよ」
「そんなわけあるかい」ハジメが中学生に劣らない大柄な身を乗り出す。「新しい方をのぼったらジイちゃんとバアちゃんの部屋だろが」
「ちがう……ドラちゃんがいる部屋だったもん」
 ドラちゃんのヌイルグミがあるのは、私と父母たちの寝室だ。
 結局イツキが記憶違いしていて、見つけらなかったのはヌイグルミの影に隠れていたからだろうと、と私たちは結論づけた。
 大人になった今でもあれは何だったのだろうか、と時折考える。
 まるで数時間だけ神隠しにあったかのようにイツキの気配はこつぜんと消えていた。そう感じたのは私が幼かったゆえの気の迷いだろうか。調べようにもあのいびつな形状の家はすでに跡形もないのだけど……。
 成長したイツキに何度か尋ねてみたことがある。本当はあのときどこに隠れていたの? と。
 そんなの忘れたよ憶えていない、と笑って答えをはぐらしていた彼が二十歳を過ぎて初めてのお酒でほろ酔いになったとき。薄い唇をねじれさせて、ぽつりと漏らした。
「思い出したらいけないんだ――戻ってこられなくなるから」


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