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kooriさん

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帰らない

19/04/07 コンテスト(テーマ):第167回 時空モノガタリ文学賞 【 実家 】 コメント:0件 koori 閲覧数:156

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「結婚したんだからそんなに帰ってくるものじゃないんだよ。もうここは五月の家じゃないんだからね」
見慣れた石油ストーブの前でのんびりと横になっていたら母から思いもよらない言葉が飛んできて耳を疑った。はっ?実家って帰ってきたらだめなんだっけ。
嫁いだ娘を諭しているのかと考え直してもみたが、母の顔を見た途端に違うなとすぐにこの考えは打ち消された。60過ぎの割には白髪は目立たず、艶のあるしっかりとした黒髪を持つ母親の両口角は意識したようにキュッとつり上がり一見すると笑ってるように見える。しかし2つの大きな瞳は私を見上げるように睨みつけ冷淡さしか伝わってこない。この人まだ根に持ってるんだ。元々何でも話せる仲良し親子ではなかった。付き合っている人がいると話をしても嫌悪感しか出してこないから、私も二度と話さなくなる。それで相談もほとんどせずさっさと結婚を決めてしまったのだが、どうやらそれが気に入らなかったようだ。後に父から母が随分と私の事を心配していたと聞かされたが、私には母自身の心配のように思えてならない。大事に育ててきた娘を他人に取られてしまう悲しみと不安。娘を自分の所有物とでも思ってきたのだろう。ウェディングドレス選びに母を誘った時も彼女はずっと不機嫌だった。「これ、どうかな?」「真っ白より生成色が可愛いよね。」楽しくてしかたないとばかりにはしゃぐ私を、俯瞰するように楽しいのは今だけだから勘違いしないでと釘を刺すように感情のない返事を返してくる母。「いいんじゃない。」私は本当にこの人から生まれてきたのだろうか。母親なんだから今が人生で1番幸せだと信じている娘に無理してでも優しく寄り添って欲しかった。そうか、私はずっとこの事を根に持って生きている。結婚して20年が経ち、母が父が認知症になった途端、頻繁に連絡をしてくるようになった。今度はいつ来るのだとか、隣の家が空き家になったから住めばいいのにだとか勝手な事ばかり電話してくる。
「お母さん、もうそこは五月の家じゃないから帰らないよ。」


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