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路地裏さん

短編を書く人です。 少し不器用で、時に残酷で、愛しい人達の物語を綴っていきたいです。

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神様との会話

19/04/06 コンテスト(テーマ):第167回 時空モノガタリ文学賞 【 実家 】 コメント:4件 路地裏 閲覧数:217

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 実家に帰省して二日目の朝。今日の昼には東京に戻る。一階では母がバタバタと忙しなく家事をしている音が聞こえてくる。

 こっちの朝はまだまだ寒い。俺は布団に包まりながら、スマートフォンのホームボタンを押し録音アプリを起動する。そして再生ボタンを押した。

『久しぶり父さん』

「久しぶり。大学はどうだ?」

『ぼちぼち。そっちは?』

「父さんは仕事ばかりしているよ」

『そっちでも仕事ばっかしてんの』

「お互い相変わらずだな」

『この間ケイコちゃんを母さんに会わせたよ』

「母さんヤキモチ焼いてなかったか?」

『ケイコちゃんの前では上品な母親を演じてたよ』

「猫かぶってたか」

『超猫かぶってた』

「母さんらしいな」

『だね』

「バイトはどうだ?」

『それもぼちぼち。店長がくそうぜーの。女の子にだけ優しいところがムカつく』

「店長も猫かぶりなんだな」

『あれは悪い方の猫かぶり』

「だな」

『父さんは職場にムカつく人とかいないの?』

「いないな。そりゃあ理不尽な事言ってくる人はいるけど」

『父さん昔からあんまり怒らないもんね』

「お気に入りの曲が入ったカセットテープをお前が足で踏んづけた時は流石に怒ったけどな」

『ごめんて。それ毎回言ってくるね』

「父さんは怒らないけど根に持つタイプなんだ」

『タチ悪すぎでしょ』

「サツキがバンドマンの彼氏を紹介してきた時も怒った」

『心の中で怒ってたよね』

「顔に出すと相手に失礼だからな」

『姉ちゃんは悪い男ホイホイだよね』

「あいつありえないぞ。サツキの前で平気な顔して元恋人と電話したりするんだ』

『あれには母さんもびっくりしてたよね』

「でもちゃんと挨拶ができる子だったから見直した」

『靴も揃えられるところがポイント高かったよね』

「あともう少し髪が短かったら分かり合えそうだと思った」

『父さんの場合は髪が少なすぎるから』

「そうだな。ところでお前は東京で就職するのか?」

『そのつもり。こっちは色々不便だから』

「この間母さんがお前にこっちに帰ってきてほしいってサツキに愚痴をこぼしていたよ」

『寂しいって?』

「そう」

『就職してもなるべく帰るようにするよ』

「そうしてやってくれ」

『何か父さんと話してると、父さんと話してる感じがしない』

「どういう意味だ?」

『神と会話しているようだ』

「確かそういうのを中二病と言うんだろう」

『だってこの状況フツーに変じゃん』

「確かにな」

『父さん俺が中学生の時に死んだじゃん』

「そうだな」

『きまって命日に喋りに来るよね。しかも夜中に』

「夜更かしはいかんと言っていた身として恥ずかしい限りだな」

『この状況本当に面白い』

「そんなに面白いのか」

『母さんも姉ちゃんも信じてくれないんだよ』

「あの二人はオバケとか信じないからな」

『そこで俺は考えた。録音して証拠を二人に差し出そうと』

「賢いな」

『ビデオも写真も駄目だったけど、今回はイケる気がする』

「努力家な息子だ」

『この録音アプリは俺の声に反応して録音を始め、一時間無音だと勝手に録音を終了してくれる優れものなのです』

「やだ、私もこれ買っちゃおうかしら」

『父さんと喋ってる時俺の体は寝ているでしょ。体が動かせない分色々大変なんだよ』

「苦労かけてすまないな」

『母さんには寝言がうるさいって言われた事があるから、会話はしてる。父さんも見えてる。そこにいる。触れるのに、触れない。見えているのに、見えていない。何でなんだ。何なんだよ、ちくしょう』

「ごめんな」

『一年に一回なんてチャンスが無さすぎる。もし命日に帰ってこれなくなったら? また一年後会える保証なんてどこにも無いのに』

「ごめん」

『俺はただ父さんともっと一緒に居たいだけなのに。何で出来ないんだ』

「何を言っているんだ。父さんは見えていないだけで側にいるぞ」

『そんなテレビでよく聞く綺麗事なんか聞きたくない』

「いやぁ、テレビもあながち間違った事は言っていないんだと思い知ったよ。本当に側にいるんだよ。見えないだけなんだ。証拠なんてどこにも無いけど、証拠がなくても父さんには分かるんだ。誰にも信じてもらえなくても父さんとお前が知っていればいい。二人も知っているんだ。これは紛れもない事実で、真実だ」

『うん』

「常識では考えられない出来事‥‥‥そうこれが奇跡体験! アンビリ」

『録音意識して面白そうな事言うのやめろ』

 録音はそこで終了した。案の定録音アプリには俺の声しか入っていなかった。録音アプリ、無念の敗北。俺は思い出す限り父の言葉を声に出して、自分の音声と会話した。泣きながら、大口を開けて笑った。


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このストーリーに関するコメント

19/04/07 霜月秋旻

路地裏さん、拝読しました。
あちゃ〜残念!そのうち霊の声を記録できるメカが開発されるといいですね。
よくある親子間の通話が淡々と進むかと思いきや、いい意味で裏切られました。面白かったです。

19/04/07 路地裏

>霜月秋旻さん

無念、無念です。主人公が来年はどんな方法を思いつくのか、楽しみです。素敵なコメントをありがとうございます!

19/05/06 タック

拝読しました。
切なく、しかし湿っぽくなりすぎず、といった独自の雰囲気を持っている作品だと感じました。
大変面白かったです。素敵な作品をありがとうございました。

19/05/07 路地裏

>タックさん
いつも通りの会話が、きっと一番素敵なのでしょうね。
読んでくださり有難うございます!

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