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松本エムザさん

性別 女性
将来の夢
座右の銘 Dont Dream Be it.

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実家アロマ

19/04/05 コンテスト(テーマ):第167回 時空モノガタリ文学賞 【 実家 】 コメント:2件 松本エムザ 閲覧数:347

時空モノガタリからの選評

匂いというのは五感の中でも特に記憶と密接に関連しているそうですが、確かにこんな商品があったら面白いかもしれませんね。なさそうでありそうな設定が面白かったです。特に実家の匂いが似た者同士の方が相性がいいというのは、納得するところがありました。結婚相手は条件や理屈抜きに五感を通して選ぶほうが案外うまくいくのかもしれません。テンポが良く読みやすいのも良かったですね。

時空モノガタリK

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 何をしても疲れが取れない。
 連日連夜に渡る激務。口煩い上司、調子のいい同僚、頭の硬すぎる後輩に囲まれて、四面楚歌の毎日。

 久々の休日、私は食料やトイレットペーパー等の生活用品をGETすべく、フラフラと街へ出た。本当は、何もかも忘れて一日中ベッドで眠りこけていたかったのだけれど、人として最低限の生活を維持する為に、渋々と。
 何しろ私の部屋ときたら「驚愕!片付けられない三十路女子の汚部屋の実態!」的な見出しで、テレビで特集されそうな有り様なので、不本意ではあるけれども、今日の休日は買物と掃除に充てようと決めていた。

 それにつけても「癒し」の欲しさよ。
 ショッピングモールを歩きながら、私は無意識に『癒しグッズ』を探し求めていた。
 モフモフのクッション、緑鮮やかな観葉植物、波の音のCD。店頭に並ぶ癒し系商品の数々の幾つかは既に私の部屋に存在していたが、それらの効力はもはや薄れつつある。観葉植物に至ってはあっという間に枯れ果てて、今ではただの植木鉢になっているし。
 新たな『癒しグッズ』を探す私の視界に、一枚のPOP広告が飛び込んできた。
『実家アロマ! 〜あなたに安らぎのひとときを〜』
 雑貨屋さんの一角に掲げられたそのPOPの側には、該当商品は見当たらずチラシだけが数枚並べられている。
『最近、いつ実家に帰りましたか?心安らぐあなたの実家の空間を、アロマの力で再現!』
 そんな文字が躍るチラシの説明書き曰く、この『実家アロマ』をオーダーする為には、まずはじめに製造会社から質問される実家に関する膨大な情報をネットで回答する。そしてそれに基づいて、オーダーした人それぞれの『実家の香り』を最新テクノロジーで調合してくれるのだと言う。
 そういえば、もう随分と実家に帰っていない。お正月もお盆もゴールデンウィークも、仕事に忙殺されていた。
 実家の玄関の匂い、リビングの匂い、洗濯物の匂い、自分のベッドの匂い、祖母の愛猫・サスケの匂い。
 確かに実家には、各々の家庭の独特の匂いが存在する。
 思い出して、懐かしさに少し泣きそうになった。母お手製の、出し巻き卵の匂い ――。

 実家恋しさのあまり、チラシをポケットに忍ばせ帰宅した私は、早速パソコンから掲載されているアドレスに飛んだ。
「うわぁ、こんなにあるのか」
 アロマ作成の為の質問事項が、画面いっぱいに並び、いくらスクロールしても終点が見えてこない。
 実家の所在地、家族構成、ペットの有無、一軒家かマンションかの一般的な質問はもちろん、バスタオルやシーツはどのくらいの頻度で洗うか、カレーのルーは何を使用しているか等といった、恐ろしく細かい所まで書かれている。全て回答するには、数時間を要しそうだった。
 50問目の質問、『実家でご使用になっているシャンプーの銘柄家族全員分お答えください』の途中で力尽きた私は、そこまでの回答を保存してベッドに潜り込んでしまった。
 そして再び、『実家アロマ』のサイトを開く事はないと思っていた。
 が、しかし ─

『ついに結婚する事になったの!』
 友人K美からの突然の報告の電話を受けたのは、それから半年ほど経った頃だった。
「えー、おめでとう! お相手とはどこで知り合ったのよ?」
 K美も私同様、ハードな職種でバリバリと働いていたので、結婚願望はありながらも「なかなか出逢いの機会がないよねぇ」等と共に嘆きあっていた仲なのに、興味半分羨ましさ半分で(本音を言えば、羨ましさ100%で)K美に尋ねると、
『あのね、『実家アロマ』のおかげなの』
 意外な言葉が、電話口の向こうから返ってきた。

 なんでも最近婚活業界では、『実家アロマ』を用いたマッチングパーティーが大流行していると言う。実家の匂いが近しい人同士は、性格や価値観も似通っていて、お付き合いも上手くいくし、両家の相性もばっちりなのだとか。
『厳密にはね、ウチの実家と彼の実家の匂いは違うのよ。でもね、すごく匂いの波長が合ったのよ。砂糖と醤油がマッチして『みたらし』になるような!』
 興奮して語るK美の言葉は意味不明だが、ニュアンスはしっかりと伝わってきた。

 電話を切った私は、半年ぶりに『実家アロマ』のサイトにアクセスした。
 残りの質問に根気よく答えて、私も『実家アロマ』の力にお世話になろうかと考えたのだ。
 が、『料金』のページを開いて腰を抜かした。『完全オーダー 税込100,000円』とある。
 たまげた事に、半年前よりひとけたゼロが増えている。婚活に効くと評判になったからなのか、超強気な値段設定できやがった。
「10万あったら、何回実家に帰れると思ってんのよ!」
 毒づきながらも、私は『実家アロマ』の申し込み手続きを進める。

 相性のイイ伴侶こそ、最高の癒しになると信じて。


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このストーリーに関するコメント

19/04/10 路地裏

松本エムザさん、拝読しました。
タイトルに惹かれ読ませて頂きましたが、圧巻の面白さでした。実家アロマ、私も是非購入したい
です。

19/05/22 待井小雨

拝読させていただきました。
冒頭からリズムの良い文体に引き込まれ、あっという間に読んでしまいました。実家アロマ、作るのが大変そうですが確かに癒されそうと思いましたし、匂いの相性の話にはなるほと大いに頷きました。
ラストまで大変面白く読ませていただき、ありがとうございました。

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