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naokitiさん

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笑った

19/04/05 コンテスト(テーマ):第167回 時空モノガタリ文学賞 【 実家 】 コメント:2件 naokiti 閲覧数:100

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「そっちはどうなの? ちゃんとしてくれてる?」
 電話の奥から、探りを入れるような母の声がする。私より祖父母の様子が気になるのだろう。
「よくしてくれてるけど、なるべく早く出ようと思う。おばあちゃんも年だしね」
「どうして? 孫なんだからいいじゃない」
「ずっと二人暮らしだったから、私の食事、作るの大変そうで」
「まあ、そんなこと言われたの!」
 尖った声だ。しまった。別におばあちゃんは悪くないし、出て行けとも言われていない。ただ大変そうだと思ったのだ。
「言われてないよ。あのね、肉まんが冷えるから、もう切るね」
「肉まん! こんな時間に肉まんなんて食べたら、晩ごはんが食べられないじゃない!」
「大丈夫だよ。じゃあ、また」
 何を言っても無駄な気がした。台所にもどると、おばあちゃんが肉まんを温めている。
「蒸した方がおいしいから、もう少し待ってね」
 春から祖父母の家で暮らしている。父の実家だ。といっても、私が11歳の時、両親が離婚してからは、ほとんど会っていなかった。離婚する前はよく遊びに来ていた。おばあちゃんのご飯はおいしいし、おじいちゃんと将棋をさすのも楽しみだった。進学にあたって、滑り止めにこの近くの大学を受けたのは、偶然ではない。
 ただ実際いっしょに住んでみると、祖父母は明らかに年を取っていた。特に私のために、毎日献立の数を増やすのは大変そうだ。いい部屋が見つかったら引越して、ときどき遊びに来るくらいが、お互いよさそうに思えた。
「ななちゃん、肉まん温まったよ。ここのはおいしいよ。たくさんあるからね」
 今日も私のために、好物の肉まんを買ってきてくれた。私は食べるのが好きで、おかげで若干、いや結構ぽっちゃりしている。母は私の体型を気にして、肉まんやケーキは買ってくれなかった。母も太っていて、カロリー控えめとか、食物繊維の多い商品を、言い訳のように買っては、私にも勧めていた。
「ななちゃんはあいかわらず、おいしそうに食べてくれるねえ」
 おばあちゃんは嬉しそうに言う。否定されずに食べられることが、幸せなことだと、ここに来て初めて気がついた。
「女も働いて、ちゃんと生きないと」
 母はそう言いながら、楽しそうではなかった。育ててくれたこと、大学まで行かせてくれたことは感謝している。でも私のために、辛い仕事をしなくてはならないのだろうか。なんなら好きな人を見つけて再婚してくれてもいいのに。それは世間知らずの甘い考えだろうか。
 どうすれば母の言うちゃんとした女性になれるのか、どうしたら母のように楽しくない仕事をしなくてすむのか。ここにいると、そんなことはどうでもいいと思えてくる。おいしく食べられて、機嫌よく生きられたら幸せ。機嫌よく生きるには、どうしたらいいのだろう?
「おお、今日の晩ごはんは肉まんか」
「おじいちゃん、これはおやつだよ」
「おじいちゃんはこれでいいよ。ななちゃん、大学はどうかね?」
「うーん、まだよくわかんない」
「そう。まあゆっくり慣れたらいい」
 ゆっくりでいいらしい。
「おばあちゃん、私も晩ごはんは肉まんでいいよ」
「今日は、ごはんのしたくが楽だねえ」
 おばあちゃんが笑った。


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このストーリーに関するコメント

19/04/08 路地裏

naokitiさん、拝読しました。
何気ない会話が優しくて、素敵です。

19/04/08 naokiti

路地裏さま

読んで頂いてありがとうございます。
素敵という感想はうれしいです。

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