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本宮晃樹さん

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第二の故郷

19/04/01 コンテスト(テーマ):第167回 時空モノガタリ文学賞 【 実家 】 コメント:0件 本宮晃樹 閲覧数:163

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 例のごとくだしぬけにバーナード星方面軍に転属が決まったと思ったら即出撃、量子トンネルを潜ってさあやっつけるぞ、と意気込んだらこのざまだ。
「森下かすみ部隊長どの、聞きたいことがあります」兵員輸送船のスクリーンを通して見えるとんちんかんな星座にまごつきながら、「ここはいったいどこなんですか」
「あたしが知るわけないだろ」鉄火肌の部隊長は肩をすくめた。
 端末を起動して星図を確かめる。宇宙船が実体化する予定ポイントから二千光年ほどずれている。「どうも人跡未踏の地に飛ばされたらしいですよ」
「発散の間際に警報が鳴ってたろ。量子化されたところを狙われたんだろうな」
 量子トンネルはトンネル効果をマクロ事象に拡張する冗談みたいな装置である。量子化中にこいつが破壊されれば当然、宇宙船を観測して波動関数を収束させられない。迷子が一丁上がる。
「だいたいの位置がわかりました」パイロットがタコ部屋に顔を出した。「このあたりは第一次植民のころ人気だった宙域のようです」
「いまは不人気なんだろうな、きっと」かすみ姉さんはため息を吐いた。
「見捨てられてから半世紀は経ってますね」
「でも人間はいるんだろ」俺は念を押した。
 パイロットは席へ戻るところだったが、振り返りもしなかった。「そう祈っててください」

「かすみさんはなんで軍なんかに入ったんです」遭難して二週間が経っていた。することもないので部隊長にちょっかいを出しているのだ。「もっとましな仕事はいくらでもあったろうに」
「決まってるだろ。給料がいいからだ」
 宇宙軍の離職率は高い。しかも離職のほとんどが殉職である。したがって給料はいい。そういうものだ。
「なるほど。かすみさんはアルファ・ケンタウリ出身でしたっけ」首の凝りをほぐす。「あのへんはあんまり文明化されてないらしいですね」
「だから軍に入ったのさ。故郷を出奔するにはいちばん手っ取り早い方法だからな」姉さんはかたちのよい尻をもぞつかせた。「お前はどうなんだ」
「ぼくは地球出身ですけど、どうも人の多いのに嫌気が差しちゃって」
「ぜいたくな悩みだな。あたしの星は一キロ平方以内に人がいればいいほうだぞ」
「そりゃいいや。ぜひ移民したいもんです」
 儀礼的に笑い合っていると、パイロットが息を切らせながらやってきた。「二人とも、外を見てください」
 俺たちはそうした。くすんだグレーの星が浮かんでいる。
 怠惰な日々のせいで頭が働かない。「ええと、つまり?」
「助かったんですよ、ぼくたちは。第一次植民で開発されたエスペランザ星です」

     *     *     *

 三十年が経った。
 量子トンネルはすぐ復旧するかと思ったが、アンシブルによってもたらされる情報では戦況が思わしくなく、修理もままならないらしい。いつしか俺たちは救助される立場なのを忘れてしまい、第一次植民が遺した文明の残りカスに頼って今日まで生きてきた。
 苦難の日々だった。植民は早期に打ち切られたらしく、設備はどれも老朽化しており、どれひとつとしてまともに機能しなかった。核融合発電設備を修理し、食料生産プラントを復旧し、紫外線で劣化していたドームの屋根を補強する毎日。
 気づけば俺は部隊長と結婚し、子どもが三人もできた。かすみさんは俺の好みから数光年ほどもずれていたはずなのだが。パイロットは二十年ほど前、事故で亡くなっていた。いいやつだった。
「パパ起きて」いちばん下の娘に揺すられて目が覚めた。「アンシブルが鳴ってるよ」
 一瞬で目が覚めた。後生大事に保管してある超光速通信機に飛びつき、耳をすます。
「応答せよ。そちらはバーナード星方面軍第八分隊の生き残りか?」
「こちらバーナード星方面軍第八分隊日下部真琴。どうぞ」
 通信は宇宙軍からだった。彼らはようやく敵を押し戻し、近日中に量子トンネルの修理も終わるらしい。いまは各地に散った部隊の救助を大車輪で行っているという。
 長く苦しい日々が終わるのだ。地球に帰還できる。それも莫大な恩給つきで。
 そこでふと疑問が湧く。俺の故郷はどこなんだろうと。もちろん地球にある日本国だ。アンシブルから聞こえてくる声にじっと聞き入る娘を見る。では彼女にとっての実家はどこだ?
 もちろんエスペランザ星である。
 アンシブルの電源を落とし、クローゼットの奥深くへとしまい込んだ。
「パパ、いいの。まだアンシブル鳴ってたよ」
 そっと頭を撫でてやる「いいんだ」
 大あくびをしながら妻と上の子たちも起きてきた。妻は不審そうに、「お前さっき、誰かと話してなかったか」
「気のせいですよ、部隊長」下の娘を抱き上げてやる。「おちびちゃんのおうちはどこかな」
「ここだよ」おちびちゃんは元気よく両手を広げた。「あたしのおうちはエスペランザ星!」


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