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若早称平さん

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性別 男性
将来の夢 小説で食べていければそれが最高です。
座右の銘 春風秋雨

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おかあちゃんねる

19/03/26 コンテスト(テーマ):第167回 時空モノガタリ文学賞 【 実家 】 コメント:0件 若早称平 閲覧数:276

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 頬杖をついて見るバスの窓に映った自分の顔が思っていたよりもやつれていた。実家に帰るだけとはいえ、ちゃんと化粧してくれば良かった。こんな顔じゃ両親に心配をかけるかもしれない。
 大学を出て就職したのがいわゆるブラック企業だった。果てしない残業で死んでしまう前に私はなんとか逃げ出すことができた。母に電話で話すと、
「なんも心配せんと帰ってきーや。あんたの部屋はそのままやけ」
 私は声をあげて泣いた。

 三年振りの実家は以前と少し雰囲気が違って見えた。都会の生活に慣れすぎ、日が落ちた田舎の暗さを忘れてしまっていたのかもしれない。家の前にはいつ買い替えたのか新車が停まっていた。
「ただいまー」
 ガラガラと引き戸を開けると家の中は薄暗かった。奥の台所だけ灯りがついていて、母が夕飯の支度をしている音が聞こえる。そこから「おかえりー」と声だけがした。
「まだ時間かかるけ、部屋に荷物置いてきーや」
 姿を見せないままの母を不審に思ったものの、手を離せないんだろうなと解釈し、言われた通り二階の部屋へ上がる。電球が切れかけているのか、階段の灯りはチカチカと点滅している。昔より軋む廊下に時の流れを感じる。高校卒業まで過ごした部屋のドアを開け、灯りを点けた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!」
 私は家中に響き渡る悲鳴をあげ、その場に崩れ落ちた。部屋中に所狭しと置かれた日本人形が無数の視線を私に向けていたから。腰が抜けて動けない私は震える声で階下の母を呼んだ。私の悲鳴が聞こえたはずなのに、ゆっくりと階段を上がる足音が聞こえる。
「どうしたん?」
 のんきな母の声に振り返ると、能面を付けた女が立っていた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 私は再び悲鳴をあげた。パニックで狭まった視野でかろうじて能面の女が私に見せた看板が目に入った。
『ドッキリ大成功!』その文字が涙で滲む。
 まだ震えが止まらない私に面を外した母と、部屋の中に隠れていたのかカメラを構えた父が笑顔で近づいてきた。
「おかえり、志緒理」

 夕食は私の好物ばかりだった。が、それで許される問題ではない。
「実はお母ちゃんな、ユーチューバーになったんよ。あ、あんた顔出しても構わん?」
 父は今撮った動画を編集すると早々に部屋に戻った。さっき見せてもらったが、古い家に似つかわしくないデジタル機材が並んでいた。還暦を過ぎた二人があれを使いこなしてるなんて信じられない。ちなみに顔出しはNGにしてもらった。
 母は私にユーチューバーになったいきさつを話した。小学生が夢を語るような話だったが、それなりに登録者数がいて、それなりの収入があるらしい。部屋に戻り、ベッドに寝転びながらスマホを開くと本当に母のチャンネルが出てきた。『娘が出戻ってきたので心霊ドッキリで迎えてみた』というタイトルでさっきの動画ももうアップされている。顔にモザイクが入っているとはいえ知ってる人が観たらバレるんじゃないかと気が気じゃない。
 削除要請してやろうかと思っているとドアがノックされた。
「志緒理、起きてるだろ?」父だった。
「明日の朝、母さんにドッキリを仕掛けるから、お前ご飯作れ。それにこれを入れる」
 父が嬉しそうに私に見せたのはハバネロの十倍の辛さというジョロキアの缶だった。こんなものが常備されている家というのもどうなんだろう。そんな疑問と同時になぜだか胸が躍る。私自身こんな一面があったなんて驚きだ。
 私の部屋に長く居ると母が怪しむからと、軽く打ち合わせただけで父は出て行った。再びベッドに入った私は興奮で眠れず、結局明け方まで母の動画を観続けてしまった。『出戻りした娘にユーチューバーになったことを告白してみた』というタイトルで昨晩の私との会話も深夜アップされていた。編集する父も大変だろう。
 夜明けとともに台所に立ち、母のオムレツだけ激辛に仕上げた。眠そうに目を擦りながら起きてきた父が手慣れた様子でカメラを隠す。
 遅れてやってきた母がオムレツに手をつけるまで笑いを堪え、緊張を抑えるのに必死だった。そうか、私の生きる道はこれか。そんなことを考えていたら、母が悲鳴をあげてオムレツを吹き出した。

 実家に帰って一ヶ月経った。今では動画へ顔出しも果たし、私の考える企画が採用されることも多くなってきた。都会で社会の歯車みたいに働いていた頃には味わえなかった充実感がここにはある。『食器が全部接着剤でくっついてるドッキリ』で使う接着剤を買いにバスに駆け乗る。窓に映った顔は帰ってきたときと同じすっぴんなのに、我ながら生き生きとして見えた。

 ご視聴ありがとうございました。この話が面白かったよ、と思った方はチャンネル登録と、グッドボタンをよろしくお願いします。ばいばーい。


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