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メラさん

 主に純文学系を書いていますが、特にジャンルにこだわっているわけではありません。気ままに、マイペースに小説を書いてます。

性別 男性
将来の夢 世界平和
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ヒーロー

13/01/30 コンテスト(テーマ):第二十三回 時空モノガタリ文学賞【 バレンタインデー 】 コメント:2件 メラ 閲覧数:1757

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「来た来た来た、ゴリ子持っているよ。おい、鉄平、ぜってえあれ本命だって」
 友達が笑いながらオレをちゃかす。何人かがそれを見て一緒に笑う。オレはこの寒いのに冷や汗をかく思いで校門からいち早く立ち去ろうとした。
「ちょっと、鉄平、マリコが話しあるんだから、待ちなよ」
 オレの目の前を女子達が立ちふさがる。後ろからゴリ子が迫って来る。
 長尾マリコ。通称ゴリ子。オレ達の間で「スラムダンク」という、一昔前の漫画が流行っている。その登場人物にあだ名が「ゴリ」という、赤城キャプテンなる人物がいる。長尾マリコはそのゴリラっぽい顔面構造と、女子の間でのボスキャラ的な権力をもってして、ひそかにオレ達からは「ゴリ子」と呼ばれ、嫌われていた。
「鉄平」
 ゴリ子がついにオレの名を呼んだ。いつもだみ声で話している声しか知らないが、今日に限って妙にしおらしい声を出す。
「あの・・・、これ」
 と言って、ピンク色の紙に包まれた小箱を手渡してくるではないか。
 今日が何の日か知らない者はいない。そしてそれが義理ではなく、本命であるという事も分かりきっている。何故ならここ数ヶ月、ゴリ子がオレの事を半ストーカー的に付きまとっていたり、勝手に写メを撮っていたりしているのだから、周知の事実だ。
「ヒュー」と、仲間が囃したてる。
「ありえねえって」別の仲間が小声で言っているのが耳に入る。そう、ありえない。ゴリ子からチョコレートを受け取るなんて。

「貰うってことはさ」午前中、誠司がそんな事を言っていた。誠司は学年一のモテ男で、午前中だけで後輩も含め、五個のチョコレートをゲットしている。「一応その愛を受け取るっつう意味だよな」
「ああ、チョコ渡す=告るって事だし、受け取る=告白オッケーみたいな」
 別の誰かがそんな事を言う。
「じゃあ誠司はみんなの愛を受け取っているの?」
「もちろん。でも体は一つしかねえ。一度に愛せるのは一人」
 仲間内で唯一『脱・童貞』を達成している誠司の余裕の発言だ。
「じゃあさ、じゃあさ」聡が唾を飛ばしながら言う。「鉄平がゴリ子のチョコ受け取ったら、付き合うってこと?」
「んな訳ねーだろ」オレは聡の頭をグーで殴った。
「でも、女子の方はそう思うかもな」
 そんなバカな。じゃあお前はどうなる。
「いや、オレはまあ一応彼女いるの公認だしさ。それ知ってて皆渡してくるんだもん」
 この野朗、一度ぶん殴ってやろうかとよく思うが、今日ほど殴りたいと思った日はなかった。

「お願いします」
 ゴリ子は悲痛な声でチョコを差し出し、頭を下げる。おいおい、普通に渡せばじゃん。何で敬語なんだよ。告白モード全快じゃねえか。
 オレは仲間達を振り返る。せめて誰かツッコミを入れるなり、茶々を入れるなりして、この空気を払拭してくれないかと期待するが、皆ニヤニヤして事の成り行きを見守っている。
 究極の選択。ここでこのチョコを貰ったら実際付き合うって事はないにしろ、ゴリ子はかなり勘違いするだろうし、仲間には普段からリーダー格としての示しが付かない。もしオレがゴリ子と変な噂が立って、笑いものになってしまったら、今のオレの立場が危うい。いじられキャラに転落しかねない。
 しかし、このままいかにゴリラ面であろうとも、健気にチョコを差し出す女子を邪険にしてよいものだろうか?それに実はオレはこうして本命チョコを貰うのは、初めてなのだ。
 オレは手を伸ばしかける。
 仲間達の野次馬根性丸出しの視線が、かすかなどよめきと共にオレの手に集中する。ゴリ子の取り巻きの女子たちの視線も全身に突き刺さる。本当はオレはB組の久保ちゃんが好きなのに、久保ちゃんまで見てやがる。
 ああ、これを受け取るところを見られたら・・・、オレの中学生活は・・・。
 そこまでするつもりはなかった。しかし、ゴリ子は緊張していたのか、ピンクの小箱を弱々しく持っていたのだ。だからオレは断腸の思いで、その小箱をひょいと押しのけるくらいのつもりが、簡単に地面に落ちてしまった。それが周囲の目にどんな風に映ったのかは、次の発言で分かる。
「アイツ、叩き捨てやがった!」
 そして沈黙を破り、仲間達が次々と歓声を上げる。
 叩き捨てたつもりはない。オレは一瞬言い訳を考えた。しかし、もう手遅れだった。ゴリ子は落ちた小箱を見て、絶句している。
「すげえ、アイツすげえ!」
 驚きと羨望の入り混じったような声が、男子生徒の中から飛ぶ。女子達は凍りついたまま声を発さなかった。いかに女子からも嫌われていたゴリ子とはいえ、女子が団結するのは時間の問題だ。
 オレはさっと振り返り、仲間に「行くぞ」とクールに声を掛け、その中を颯爽と歩き去る。男子生徒からはヒーローだった。しかし、ヒーローは孤独だった。きっとこれからも、孤独な戦いは続くのだろう。
 


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このストーリーに関するコメント

13/01/30 草愛やし美

メラさん、拝読しました。

ヒーローは孤独なんだ〜〜、思わず笑ってしまいました。

この世代の少年の心境が、凄くわかりました。

13/02/06 泡沫恋歌

メラさん、拝読しました。

この場合、人に何んと言われようが・・・
チョコを受け取らなかった鉄平くんが正解です!

けど、その後の女子からの報復は覚悟してください(笑)

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