1. トップページ
  2. 偽物の義母

浅月庵さん

笑えるでも泣けるでも考えさせられるでも何でもいいから、面白い小説を書きたい。

性別 男性
将来の夢  
座右の銘  

投稿済みの作品

1

偽物の義母

19/03/20 コンテスト(テーマ):第167回 時空モノガタリ文学賞 【 実家 】 コメント:0件 浅月庵 閲覧数:88

この作品を評価する

 嫁の実家が苦手だーーというより、義母が苦手だ。
 彼女は会話の途中で、突然こちらの心をズガッと削る言葉を放ってくる。
 俺の働いてる職場に対し「そんな会社聞いたことないねぇ」とか「男は遊ぶのが仕事だと思ってるからねぇ」ってのが、神経質かもしれないけど俺的には結構苦痛だ。

 ただ帰省ってものは避けては通れない恒例行事で、今年のお盆も嫁の実家へ車で帰る。
 およそ三時間で家に辿り着き、嫁がピンポンを押す。出迎えてくれたのは義父だった。
「おかえり〜。和真くんもよく来たね」
「これお土産ね」そう言って嫁は、お義父さんにお菓子の詰め合わせを渡す。「あれ、お母さんは?」
「晩ご飯作っててちょっと手が離せないって」
「ごめん、かずくん。これ上に持って行ってくれる? 私も料理手伝うね」
 俺は嫁から鞄を受け取って二階へ上がり、うちら用の寝室に荷物を置く。
 それから一階に降りてリビングに入り、お義母さんに挨拶するためキッチンへ向かうとーーそこに立っていたのは見知らぬ女性だ。
「和真さん、いらっしゃい」
「あ、どうも」
 反射的に挨拶してしまったけど、この人は一体誰だ。
 その疑問をさらに困惑させるように、嫁が女性に言う。
「お母さん、このニンジン短冊切りで良いの?」
「うん。おねが〜い」
 えっ? 今この人のことお母さんって言った?
 眼の前にいる女性は、長い黒髪を後ろで束ねていて、顔にシミもなくて肌は透き通るように白くて、なによりスリムで着物が似合いそうな女性だった。元の肝っ玉母ちゃん具合がまるでなく、なんだか上品になっていた。ていうか別人だ。

 あー、わかったぞ。これは最近流行りの、素人にドッキリを仕掛ける番組の一種なのだろう。家族の一人が別人に変わっていたら、娘の旦那はどういう反応をするかという検証の最中なのではないか。
 ……でも、お義父さんはそういう番組が嫌いだし、協力するとはとても思えない。
 それなら俺の頭がおかしくなっているのだろうか。だけど納得できない。

 午後六時過ぎにテーブルの上に料理が並び、夕食の時間が始まる。
 嫁もお義父さんも偽物のお義母さんを普通にお義母さん扱いするし、会話に違和感も躓きも一切ないもんだから、どうすればいいかわからない。
 俺はトイレに立った嫁に着いて行き、それとなくお義母さんがおかしくないか聞いてみるけど、彼女は首を傾げるばかりだ。できるだけ気を遣って「お義母さん、すごい痩せてない?」なんて聞けば、そんな変わってないと思うけどなぁと返され、俺はそれ以上詳しいところまで追求できない。

 昔話が盛り上がってアルバムを見せてもらうけど、写真に映るお義母さんは眼の前のお義母さんの若かりし頃で、やっぱり今見ている現実が正常なのだろうか。

 他の観点から見れば、もしかして俺はパラレルワールドにでも迷い込んでしまったのか。
 お義母さんだけが別人の、そんなヘンテコな世界にーー。

 ……でも俺はお酒が入ったこともあって、その不思議な現状をすんなり受け入れてしまう。
 さすがに嫁がある日突然、別人に変わったら心の整理がつかないけど、たまにしか会わない親戚なら、一緒にいて気持ちの良い人だと嬉しい。喋り方も穏やかで、嫌みも言わないこの人がお義母さんなら、嫁の実家に帰るのも苦ではないとまで思い始めていた。

 そんな風に考えていたら、お義母さんはなにか思いついたように手を叩いた。
「そういえば和真さん、孫はいつ見れるのかしらね〜」
「今は仕事も忙しいですし。落ち着いてからですかね」
「毎日帰りは遅いみたいだし、休みは釣りにばっか出掛けてるんでしょ。それじゃあ、いつまで経っても無理なんじゃないかしら」

 ーーマズい、直感的にそう思った。
 俺はその場の空気が冷気を帯びたものに変わるのを感じ、酔いも吹っ飛んでしまう。

「ふふ。それに和真さん、忙しいって言ってるわりにあんな給料なのぉ〜?」
 そう言ってお義母さんは笑う。忘れていた。いつもこうだった。最初は通常運転で緩やかに会話が進むけど、お義母さんはなんの脈絡もなく急ハンドルを切って事故るんだ。お義母さんは無傷で、助手席の俺だけ重傷。ちょっと失礼でしょ〜と嫁がなだめるけど、基本的に嫁もお義父さんもお義母さんの作り出す雰囲気の奴隷だ。俺だけ部外者だ。だからどうしたって居心地が悪い。

 ……お義母さんの本質は変わらない。いくら見た目が別人になろうと、所作に気品があろうと、根本が元のお義母さんと同じな時点で、俺は本能的にお義母さんが苦手だ。

 俺は屈託なく笑うお義母さんに言いたい。
 純粋ゆえに核心をズバズバ突いて、笑って許されるのは子どもまでですよ、って。
 
 ーーだけどそんなこと言えるはずもないし、あんた偽物だろう!って言葉は、もっと言えない。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン