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kanzaさん

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赤に舞う白い鈴

19/03/18 コンテスト(テーマ):第166回 時空モノガタリ文学賞 【 おくりもの 】 ※時空作者による選考回 コメント:1件 kanza 閲覧数:112

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「この度は紅白(歌合戦)初出場決定おめでとうございます」
 こんな言葉で始まった雑誌のインタビューは終始和やかに進んだ。そして、話しも一段落した頃、突然記者が声を潜めた。
「話しは変わるんですが、ある噂のことってご存じですか?」
 今までとは違う卑しさを含んだ笑みを浮かべ、視線を私の手首に向けている。きっと週刊誌の見出しにあったあのことだろう。
――バンダナで隠された筧すずの心と手首の傷
 高校を卒業後、路上ライブを始めて8年。ここ2,3年でテレビなどにもでられるようになった。右手首にはいつもこのバンダナが巻いてある――赤地に散りばめられた白い鈴。
 筧というのは私が育った養護施設の園長の姓で、名のすずはその園長が付けてくれたものだ。

 バンダナを見つめていると、気まずそうな声が聞こえてきた。
「いや、噂ですよ。今回のこととは全然関係ない話しですし」
 別に話しくれなくてもいいですよ。途切れた声の後にはそんな言葉が続くのだろう。だけど、彼の視線が訴えかけてくる――でも、話してくださいよ。そこに隠された傷と経緯、つまりは生まれてすぐに置き去りにされた子の半生を。
 私はバンダナへと手をかけた。何重か巻いた中に押しこんだ布の端を取りだし、手首の周りをくるりとまわした。記者も、横のカメラマンも身を乗りだすようにしている。

 24年前、あの人は園長の家のインターホンだけ押して、その場を後にしたという。籠の中で眠る赤ちゃんを置き去りにしたままで。
 もともと家庭なんて知らない私にとったら、園での暮らしは辛くなんてなかったし、むしろ楽しかった。でも……。運動会や発表会、参観日……そこでありもしない視線をさがす私がいた。
 いつからだろう。きっと、思春期ってやつだったんだろう。
 園外での視線が気になり、直接耳にしていない声にまで苦しめられていた。反発することでしか自分を保つことができなくなっていた。
 そんな時、園長から黄ばんだ白い封筒を渡された。取りだした紙には、たった三行の言葉――どうか助けてください 生きてほしい いつか
 その少ない言葉の中から必死に意味を見いだそうとした。手紙を見つめ続ける私に園長は、
「きっと、お母さんも辛かったんんだと思う。そのまま一緒にいたら生きてはいけないと思うほど苦しんでいたのかもしれない。でも、きっといつかは迎えに――」
 園長がかけくれた言葉は胸に留まることなく、ただ通り過ぎていくだけだった。私は手紙を床に叩きつけ、逃げ去るようにその場を後にしていた。

 今でもあの人に対する思いの全てが消化できたわけじゃない。でも、詩を書き、歌うことで何かが変わってこれたんだと思う。
 この真っ赤なバンダナは18歳で園を去る時、園長が渡してくれたものだ。一度は投げ捨てた手紙とともに。
 ふと、園長の声が蘇ってくる。
「あなたの名、すずにして間違いなかったわ」

 結局、あの人が迎えにくることはなかった。現れることも名乗りでることもなかった。ただ、毎年同じ月の同じ日に宛名のないオクリモノが届き続けていた。おもちゃから始まり、文房具セットやアクセサリー、ちょっとしたメイクセットまで。私の成長に合わせるよう……。そして、いつもメッセージのないポストカードが添えられていた。
 カードにはいつも鈴の絵だけが描かれていた。

 私は緩みかけたバンダナをほどくことなく、強く巻き直した。
 記者の(えっ?)という顔を前に、にっこり微笑んでみせた。
     
   ※
 スポットライトの下、ギターの絃を弾き、マイクに向かう。ホールから遠く離れたところにも届くように精一杯の思いを込める。そして――最後に右手で絃を弾き、天に向かって突き上げた。

 拍手が鳴り響いている。
 その音が胸にしみてくる。拍手の向こうに応援してくれた人たちの顔が次々と浮かんでくる。園長、園のみんな、路上で足を止めてくれた人たち、コンサートに足を運んでくれた人たち、いろいろなところで声をかけてくれた人たち、そして、あなた――下ろした拳に視線を落した。今日もしっかりとバンダナが巻いてある。
 そこへと左手を近づけた。

 拍手の中に広がり始めたざわめきが伝わってくる。
 バンダナをほどいていく。そして、観客席へと手首を向けて、再び拳を突き上げた。
 傷ひとつない手首にがっかりしているだろうか。傍から見れば、私の人生は死にたいほど辛いものなのだろうか。事実そんな時もあったのかな。でも、本気でそうしようと思ったことはない。

 白い鈴が舞う真っ赤なバンダナを両手でつかんだ。
 籠の中の私の首をそっと包んでいたバンダナ。あなたならわかるよね。私がわたしであることを。
 両手で持ったバンダナを思いっきり広げた。

 わたしの名は筧すず。今ここに生きています。


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このストーリーに関するコメント

19/04/09 滝沢朱音

ドラマティックで、とてもあざやかな展開ですね。
赤いバンダナの下には、いったいどんな傷が隠されているのだろう――そう思わせておきながら、天に向かって突き上げた正体と、母にむけたラストの宣言に、胸が熱くなりました。面白かったです。

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