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夏日 純希さん

名前は「なつのひ じゅんき」と読みます。誰かに届くなら、それはとても嬉しいことだから、何かを書こうと思います。 イメージ画像は豆 千代様に描いていただきました(私自身より数億倍、さわやかで、かっこよく仕上げていただきました。感謝感激) Twitter(https://twitter.com/NatsunohiJunki) 豆 千代様 HP:MAME CAGE(http://mamechiyo555.tumblr.com/?pagill )

性別 男性
将来の夢 みんなが好きなことをできる優しい世界を作ること。 でもまずは、自分の周りの人を幸せにすること。
座右の銘 良くも悪くも、世界は僕に興味がない。(人の目を気にし過ぎてるなってときに唱えると、一歩踏み出せる不思議な言葉)

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虹の麓

19/03/17 コンテスト(テーマ):第166回 時空モノガタリ文学賞 【 おくりもの 】 ※時空作者による選考回 コメント:4件 夏日 純希 閲覧数:202

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「死は俺にとって一番の贈り物だったよ」

シュンは俺にそう言った。
たいていのことなら意気投合してきた俺たちだったが、
今回ばかりは難しかった。
俺たちの関係も、死がふたりを分かつまで
ということなのかなと寂しさがこみ上げる。

シュンは命を落とす前に、あるプロジェクトへの参加を表明していた。
それは彼にとってメリット、デメリットがあるわけではなく、
ただ参加の機会があったに過ぎない。
そのプロジェクトとは、人間の脳を特殊な方法で切り離し、
医学的に体が死んだ後で、脳だけ再活性化するものだ。
将来的には、半永久的な活性化を目指すが、
現在はうまくいっても数分程度会話ができるに過ぎないし、
会話といっても脳波を人工知能で音声化するに過ぎない。
協力を表明し成功すれば、予め指定した人と死後に電話で会話ができる。
研究の一環として、録音はされているみたいだけれど、それはまぁいい。

「肉体があるせいでみんなは不幸だったんだな」

シュンは昔から哲学っぽいことが好きで、幸福と宗教の関係とかそういう思考に時間を費やす奴だった。

「そんなことよりさ……」
「そんなことより、虹の麓のことか?」

俺は面を食らったが、すぐに何のことかを悟る。
人工知能はうまく翻訳したなと思った。

シュンは本気で世の中から貧困を無くそうと努力する馬鹿だった。
富の再分配をするために自分が大金持ちになるとか、政治家になって世の中の仕組みをかえるとか、本気で考えて実行に移しては何度も失敗する大馬鹿野郎だった。

そして俺はと言えば、それをどこか眩しく思いながらも、サラリーマンをやるただの馬鹿だった。
若いころは、たまに困窮したシュンに飯を食わせてやって、説教をして、優越感に浸っていたことがあったくらいの、ただの大馬鹿野郎だった。

「お前が死んで、世の中はまた少し悪くなりそうだよ」



生前のシュンは酒に酔った帰り道、オズの魔法使いにでてくる「Over the Rainbow」をよく口ずさんでいた。
あまりによく歌うから、なぜか尋ねたことがあった。

「虹ってのはよ、太陽との位置関係で見えるもんだから、追い越そうとしても逃げられるだけで、ましてや越えることなんてできないんだよ。だからいいんだよな」
「だから、それの何がいいんだ?」
「お前馬鹿か? オズの魔法使い読んだことあるか?」
「勇気のないライオンとか出てくるやつだろ?」
「合ってるけどさ、お前わかってないだろ? 勇気はそこにあったんだからな。
 虹の彼方じゃなくてさ、最初からそこにあったんだからな。

 だから俺もさ、ここで頑張ろうと思うわけだ」

その「ここ」というものが、ありのままのこの腐った世の中だってことはなんとなくわかったから、なんか負けた気分になって悔しかった。不平不満だけを並べ立てて、日々を過ごしていたあの時の俺なんて、そもそも負け組だったのだろうけど。



人工知能がシュンの言葉を虹の麓と訳したのはそういうことだ。
シュンはこの世を、虹の彼方と対比して、虹の麓と考えていた。
そんなシュンの口から、死は贈り物だと聞かされ、俺はとても悲しかった。

「肉体があるから飢えが生じる、奪い合う、憎しみが生じる。

 肉体の死は俺に教えてくれたよ。

 思考だけが決して侵されることのない平等な絶対領域だったんだ。
 不平等な肉体を前提に、平等な世界なんて所詮無理な話だったとな」

電話口からそんな言葉を聞かされて、俺は思わず泣きたくなった。
それは完全に虹の彼方にいる奴の言葉だと思ったから。

シュンは道半ばで倒れた。
失敗を繰り返しながらも、それなりの富を築き上げては分け与えながら、
それなりに政界との関係も築きかけたのに、50歳の若さで事故により急逝した。

残りを全部俺にをほおり投げて逝った後に、
向こう側からあきらめにも似た言葉を投げられるとは思ってもみなかった。
本当なら後を継ぐ勇気が出ない俺への励ましの言葉が欲しかった。
だけど今は、とにかくこの限られた時間の中で、
最後にシュンをこちら側へと引き戻したかった。

「俺はお前の生き方が好きだった。
 だから俺がこっちで証明してやる! 見てろよ大馬鹿野郎!!」

「おう。弱音は俺が持って行く。あとは頼んだぞ。
 その勇気が、俺からの最後の贈り物だ」

そしてプツリとあっけなく電話が切れた。
俺は思わず笑ってしまっていた。
いや、違うだろ。勇気は最初からここにあった。
そうだろ? 贈り物とか恩着せがましいにもほどがあるし、
だますなんてひどいじゃないか。

そういえば、最初からあいつの脳は正直に語っていた。
ここは、どうしようもない腐った世の中ではなく、
虹を見上げられる場所、虹の麓だと。

俺は涙を絞り出しては袖で強くぬぐいとった。


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このストーリーに関するコメント

19/04/09 滝沢朱音

この世は虹を見上げられる場所、虹の麓ですか……。
もし肉体という枷がなければ、人は夢をあきらめてしまうのかもしれません。
どうしようもない肉体を持って生きているからこそ、私たちは勇気を持って立ち向かうことができるのかも。
深く考えさせられました。面白かったです。

19/04/09 夏日 純希

あれ、コメント投稿が…できない。長いからかな…。少しテストをばさせて下さい…。

19/04/09 夏日 純希

滝沢さん

え、あれ、これ、よくよく考えると、最終選考残らないと滝沢さん読んでくれないんじゃね!?
虚空にチョップしてるくらいじゃちょっと無理じゃね?と思って急いで書きましたが、
こっちも最終選考には残らないという惨敗ぶり(笑)
まぁそんなに甘くないよね。
でも、滝沢さんのやさしさにより、例によって目的だけは達したので、
大満足の極みとだけ申し上げておきましょう。
コメントありがとうございました。

19/04/09 夏日 純希

肉体的な欲求をすべて超低コストで満たせる時代がくれば、
優しい世界になるのかもなぁ、なるといいなぁ、
とか日々考えつつ仕事してるので、そんなところから着想した作品でした。

多分私は小説書くよりソフト書く方が世界の人の幸せにつながるのだろうな、
とか考えつつ、いいじゃんたまにはさ!と言ってみる。

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