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田辺 ふみさん

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最後の贈り物

19/03/17 コンテスト(テーマ):第166回 時空モノガタリ文学賞 【 おくりもの 】 ※時空作者による選考回 コメント:2件 田辺 ふみ 閲覧数:223

時空モノガタリからの選評

(審査員A)
起承転結、それぞれの段落で視点が変わっており、よく考えられた仕掛けに感心しました。とくに「転」の展開は、いったいどちらが生き残ったのかと手に汗握り、面白かったです。懸念材料としては、この短い文字数での視点の移動が、読者によっては伝わりにくい場合があるかもしれないと思いました。また「おくりもの」というテーマとの関連性で、尚也とのエピソードか、花言葉の意味などを花の種類にからめると、ラストに深みが出るのではないでしょうか。

(審査員B)
良かった点:ステータスとしての若い女がおっさんのプライドの拠り所。おっさんを見下しながらも依存している若い女。若い女におっさんの臭いを感じている(社会的に)非力な尚也。この三人のバランスが絶妙だと感じた。
気になる点:男が人生で躓いた詳細より、女の我儘を満たす包容力(財力)の描写を増やす方が凋落ぶりが際立つと感じました。4段落目の主人公がユナに変わってしまった事で「最後の贈り物」を渡したおっさんの思いがぼけてしまったと思う。

(審査員C)
美女が一人に、男が二人。もつれた関係にサスペンスの要素が上手く織り込まれ、誰が破滅するのか分からない緊迫感が、ラストまで物語を牽引しているのは見事だと思いました。掌編であることを生かした終わらせ方が、登場人物の個性を際立たせています。見方によっては純愛にみえる小道具が、テーマに沿って効果的に使われているのもいいですね。登場人物は退廃的な印象を受けるのに、恋愛という軸がぶれないため、読後感も良かったです。
二人の男性に、こんなに愛されるユナの素性や容貌が気になります。何を書くかを迷う時、読者の期待を予想して描写を選んでいくのも、一つの手であると思います。

(審査員D)
良かった点:物語として、面白かったです。ユナの冷めた部分が話を引き立たせていると感じました。喧嘩のシーンも良かったです。どちらが助かったのか、ハラハラしました。
こうすると良くなると思う点:視点が変わる部分が少し気になりました。とても良い構成だと思います。視点が変わるのは全く悪くないと思うのですが、注意して読まないと誰の視点なのか、すぐに分からないところです。そこにもう少し配慮があればさらに分かりやすく読めたかなと思いました。

(審査員E)
短いなかに二人の男と一人の女に起きたドラマが描かれている作品である。男二人が縺れるシーンは緊張感が読者に伝わってくる。ラストの描き方と序盤の伏線の置き方も上手いと感じた。全体的に淡々とした語り口で読みやすくもあるものの、単調にも感じられる。メリハリをつけるなど、もう少し工夫ができたのではないかと思う。また、何故これから女性に会いに行く男がナイフを持ち歩いていたのかなど、不自然な記述が散見されるのが気になるところである。

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「今から行ってもいいか?」
 んー、どうしよう。男二人がかち合ったりしたら、面倒くさいなあ。
「長い時間はいられないんだけど」
 それなら、大丈夫かな。
「ちょっと、プレゼントがあるんだ」
 お金、苦しいんじゃないの? まあ、いっか。
「うん、じゃあ、ユナ、楽しみに待ってるね」


「ユナはお金がかかるの。わかってる?」
 そう、わかっていて、好きになった。
 だから、どんなに贅沢されても平気だった。それだけの稼ぎがあったし、ユナを連れているだけで、自慢になった。
 金のかかる女が悪いわけじゃない。
 金がないのに惚れる男が悪いのだ。
 マンション、家具。グルメにエステ。ブランドバッグにジュエリー。リゾート旅行。
 破産状態になったのはユナのせいじゃない。
 客のせいだ。談合していたことがばれ、しばらくは身を慎しむらしい。約束していた契約が全てパアだ。接待に使ったお金も全てパア。
 余裕があるときに銀行に勧められた投資も元本割れ。解約しても手数料を取られるだけだ。
 お金が苦しくなっても、頑張った。古い不動産を整理し、会社の人員を整理し、そして、整理するものがなくなった。
 最後の贈り物は私の生命保険しかないのだろうか。
 そうしたら、その後、ユナはどうなる?
 私が守らなければ、変な男たちが群がってくるだろう。そんな怖い思いをさせたくない。
 いつもより早く会社を出て、ユナのところへ向かった。
 高いプレゼントは買えない。どうしようか。
 ため息をついて、まわりを眺めると、ピンクの花束を持った若い男がいる。
 男は店のショーウインドーを鏡に髪をなでつけた。
 ホストのような顔がニヤけている。女のところに行く途中なのだろう。
 行こうとする方向は同じようだ。どんな女のところに行くのだろうか。
 スキップでも始めそうな足取りが憎たらしい。
 男はすっと、細い路地に入り込んだ。
 その後について、路地に入ると、男は立ち止まって、こちらを睨んでいた。
「おっさん、キモいんだけど、俺の後をついてくるの、やめてくんないかな?」
 誰がおっさんだ。
「君、自意識過剰じゃないかね。私は近道をしようとしただけだ」
「何だよ。俺の勘違いっていうのかよ」
 男は顔を近づけてきた。
「いいかげんにしたまえ。警察を呼ぶぞ」
 警察を呼ばなくても、こんな痩せた男、私でも負けない。
「はあ? 警察?」
 男がポケットから何かを取り出すと、パチンという音とともにそれはナイフとなった。
 薄暗い中でそのナイフだけが光って見える。
 ゆっくりと後ずさりしようとすると、ネクタイを捕まえられた。
「放せっ」
 必死で手を振り払い、もみ合った。
「ウッ」
 くぐもった声が上がり、辺りは静かになった。


 男が二人倒れていた。
 しばらくして、一人は立ち上がると、きょろきょろとまわりを見た。
 薄暗い路地の先、大通りは明るく見える。
 路地に入ってくる者も覗きこむ者もいない。
 倒れた男の胸にはナイフが刺さっていた。
 息をしていない。
 まるで、死体に供えているかのように花束が落ちていた。
 生き残った男は花束を拾い上げて、自分の手がどうしようもなく、震えているのに気づいた。
 大丈夫、誰も見ていない。
 死体のズボンのポケットから長財布を引き抜いた。
 十万円ほど入っているのを自分の財布に移した。
 そうか、こうすれば、まだ、ユナに贈り物をすることができる。
 男はゆっくりとその場を離れた。離れるのにつれ、自分の足取りが軽くなるのに気づいた。


 ピンポン。
 インターホンのカメラに映っているのは花束だ。
 ドアを開けると、「これを君に」と花束を渡された。
 なーんだ、プレゼントって花か。やっぱり、お金ないのかな。
「ありがとう」
 ユナはピンクのチューリップを受け取った。
 大好きなアンジェリカだ。この種類が好きだって、おっさんに言ったこと、あったっけ?
 尚也が選ぶようなプレゼントだなと思った。


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このストーリーに関するコメント

19/03/22 クナリ

立ち上がった1人が、どちらなのだろう……と思わせる演出がよかったです。
ラストシーンでのヒロインの、主人公への冷めた感じがまたいいですね。

19/03/23 田辺 ふみ

クナリさん、読んでいただき、ありがとうございます。争いの部分はどちらかわからないようにしようと苦労したので、よかったと言われると、すごくうれしいです。

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