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ポテトチップスさん

35歳の中年オヤジです。小説を、また書きたくなりました。

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本当の兄弟になった日

19/03/15 コンテスト(テーマ):第166回 時空モノガタリ文学賞 【 おくりもの 】 ※時空作者による選考回 コメント:4件 ポテトチップス 閲覧数:170

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 新幹線の車窓からは、田園にまばらに建つ民家の明かりが時々見えた。
 車内で乗客の誰かが酒でも飲んでいるのか、酒臭い匂いが漂ってくる。剛志はなるべく車窓に顔を向け、隣に座る母から顔を背けていた。
「お腹空いてない?」
 母が言った。
 母といっても、剛志が生まれてすぐに男と駆け落ちした女である。父は生前、母のことを男好きな情婦だと、酒によっては剛志に言い聞かせていた。その時の父の顔は、悔しさと未練が入り混じった顔で、剛志はその顔を見るのが大嫌いだった。
 母とは、二度と会うことはないと思ったのに。まさか、父が急死してしまうとは……。
「大丈夫です」
 剛志は、車窓に顔を向けたまま答えた。新幹線はトンネルに入り、窓に母の横顔がモノクロ写真のように映る。剛志はうろたえて下を向く。
「剛志君には、1歳年下の弟がいるの。今は2人で暮らしてるの」
「そうですか」
「東京の家に着いたら、紹介するね」
 なかなか通り抜けないトンネルに嫌気がさし、目を瞑った。目を覚ましたら、これが夢であればいいのに……。
 午後11時過ぎに、東京駅に到着した。初めて降り立つ東京の街は、岡山とは比べ物にならないほど賑やか。タクシーに乗りながら、剛志はその景色に目を見開く。街灯に照らされ歩道を歩く人々が、皆エリートに見えた。
 タクシーで走ること40分、住宅街に建つ古びた木造アパートの前で止まった。母が料金を精算した後、アパートの一室に入る。
 玄関の小さな靴脱ぎ場に、とても大きなアディダスの白いスニーカーが乱雑に脱ぎ置かれていた。母はそのスニーカーを整頓した後、靴を脱いで部屋に上がる。
「さあ、上がって。遠慮することないわよ。これから剛志君の家なんだから」
「おじゃまします」
 剛志はボソボソした声で言うと、靴を脱いで部屋に上がる。部屋は2部屋しか無かった。
「正太郎、お兄ちゃんが来たわよ」
 肌が黒褐色で、天然パーマ。一目見ただけで、ハーフだと分かった。母は、自分が生まれてすぐに、黒人と駆け落ちしたのか。そして捨てられたのだろう。正太郎は剛志を瞥見すると、すぐにバスケット雑誌に顔を戻した。

 東京に移り住んで、3ヵ月が経った。剛志は都内の高校に通い、学校が終わるとセルフのガソリンスタンドで毎日バイトをしていた。
「弟と仲良くしろよ」
 バイト先の奥平先輩が、ウエスを洗濯機に放り込み、洗剤を入れながら言う。
 剛志は回転するウエスを上から覗きこみながら、「弟だと思ってないんで」
「まったく会話しないんだろ?」
「はい」
「でも身長2メートル近くある弟って、すごいな。喧嘩したら負けるんじゃね」
「会話も無いから喧嘩しません。それより先輩、俺、SR400買うことにしました!」
「マジで! オレもバイク欲しいよ。新車?」
「中古ですよ。高校の同級生が、安く売ってくれるんです」
 この日、バイトが終わり自宅に帰り着いたのは午後9時。部屋では、正太郎がタバコを吸いながらバスケット雑誌を読んでいた。剛志は舌打ちすると、部屋の窓を開け網戸にする。
「なんだよ! タバコ吸っちゃ迷惑か!」
 正太郎が、凄むように言う。
「話しかけんなよ!」
「なんだと! テメー!」
 正太郎は立ち上がると、読んでいた雑誌を投げつけた。天井に頭がつきそうなほどの体格が、向かって来る。
「近寄ってくんなよ!」
 そう剛志が言った時、正太郎の右ストレートが左頬を直撃し、剛志の体は膝から崩れ落ちた。
「クソ野郎!」
 正太郎は玄関ドアを乱暴に開け、夜の街に飛び出して行った。

 正太郎との喧嘩から、10日が過ぎた。剛志は同級生の真鍋に、10万円を手渡してSR400を売ってもらった。ナンバープレートの手続きは既に済んでいる。
「ヘルメット、お古だけど2個やるよ」
「ありがとう! じゃあ、行くよ」
 ヘルメットを被った剛志は、走りだす。まだ運転に慣れていないのでぎこちないが、なんとか自宅に帰りつくことができた。バイクをアパートの壁際にとめると、ヘルメットを脱いで部屋に入る。
 正太郎が、タバコを吸っていた。相変わらずバスケット雑誌を読みながら。
「これからバイクで、ツーリングに行かないか?」
 剛志は、ぶっきらぼうに話しかけた。
「バイクあるの?」
「うん」
「いいよ」
 正太郎は、素っ気なく言う。
 SR400を運転する剛志は、夕方の道路を走る。後部に正太郎を乗せて。
「お兄ちゃん、海に行こうよ」
 正太郎が耳元で言う。緊張しながら言ったのが、伝わってくる。初めて『お兄ちゃん』と呼ばれ、言葉のおくりものを貰ったようで、鼻の奥が痛くなる。
「よし、海に行くか! 正太郎、スピード出すからちゃんと掴まってろよ!」
「うん!」
夕日に照らされながら、SR400のスピードを加速させた。

(おわり)





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このストーリーに関するコメント

19/03/18 雪野 降太

拝読しました。
『まだ運転に慣れていない』バイクであったとしても、それが異父兄弟との間を取り持てると確信しているかのような主人公のバイク愛を感じる作品でした。
読ませていただいてありがとうございました。

19/03/19 ポテトチップス

雪野 降太様へ

コメント、ありがとうございます。
宣伝になりますが、現在、今作品をリメイクして1万字〜2万字程度の短編作品を制作しております。
3月末に完成しましたら、アルファポリス主催の【第2回ライト文芸大賞】に応募する予定です。
リメイク版も読んで頂けたら、嬉しいです。
私の作家名は、赤文吉(せき ぶんきち)です。

19/04/09 滝沢朱音

突然あらわれた、異国の血をひく異父弟にとまどい、ぶつかり合いながらも、彼からの言葉のおくりもので心が一気にほぐれる瞬間が、疾走感とともに描かれていて素敵でした。ラストの一文がいいですね。

19/04/09 ポテトチップス

滝沢朱音様へ

ご感想、ありがとうございます。
バイクが、兄弟の仲をつなぎ合わせてくれたのかもしれませんね。

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