1. トップページ
  2. 吸血鬼の僕ら

hayakawaさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

1

吸血鬼の僕ら

19/03/12 コンテスト(テーマ):第166回 時空モノガタリ文学賞 【 おくりもの 】 ※時空作者による選考回 コメント:2件 hayakawa 閲覧数:172

この作品を評価する

 吸血鬼。僕は西洋の物語に出てくる存在を想像していたが、まさか自分が吸血鬼になるとは思っていなかった。
 高校の授業の始まり、僕は登校する。
「おはよー」
「おはよー」
 僕は友達が声をかけてきたので返事をする。
「宿題やった?」
「やってない」
 僕が座った前の席の同級生たちはそんな話をしている。
 僕は後ろを振り向き、親友でしかも女の玲奈に話しかける。
「なぁ、玲奈。なんで俺たちは生きてるんだろう?」
「さぁ、知らない」
 玲奈はそっぽを向いたまま、窓の外の景色を眺めている。
「最近、何をしても楽しくない」
「そんな時もあるわよー」
 玲奈と僕。互いに吸血鬼だった。
 クラスの連中は僕らが付き合っているとか、あいつらは二人だけでつるんでいるとかそんなことを言っている。
 うっとうしいなと思いつつ、僕は彼らのことを眺めていた。容易くコミュニケーションをとっている彼らを眺め、ああ、今は彼らの視界に僕はいないと思った。
 帰り道、二人で帰った。
「私、小さい時から一人だったの」
「僕もそんなものだよ」
「なんでクラスの人たちは私の悪口なんて言うんだろう?」
「僕にもよくわからない。僕らは十七歳だけどね」
「そうね」
 なんだか変な気分だった。吸血鬼であるという優越感と苦しみ、クラスの友達とどうしてか馴染めない強迫観念を抱えていた。
 家に帰り、僕は母親の首筋に牙をむける。
「本当にごめん」
 そう言って血を吸わせてもらう。
 母親は僕が吸血鬼になったことを受け入れてくれた。血を吸うたびに脳内に快感が走る。僕は自分の惨めさ、と優越感に浸っていた。
 変わりゆく日々の中でそんな生活を送りながら生きていた。なんだか体は疲れている。ベッドの中で吸血鬼になった現実に震えていた。いつも夜はそうだ。

 高校を、卒業をする頃、急に玲奈に呼び出された。
「もうそろそろ卒業ね」
「そうだね」
「進路は決った?」
「うん。東京の大学に行く」
「血はどうするの?」と玲奈は僕に聞いた。
「彼女でも作って吸わせて貰うさ」
「楽観的ね」
 玲奈はそう言って空を見上げた。
「ねえ」と彼女は言った。
「何?」
「海に行かない?」
「別にいいよ」
 僕らは電車に乗って放課後、海を見に行った。冬の海はどこか懐かしい潮風が吹いていた。昔、僕が吸血鬼になる前、家族で海に行った時を思い出す。
「綺麗な海ね」
「そうだね」
 玲奈は海岸を一人歩いていた。僕はその後を追った。お互い何も話さなかった。
 夜が来るまで僕らは海岸にいた。帰り際に玲奈は僕に綺麗な貝殻を渡した。
「大事にしてね」
「うん」
 僕らは電車に乗って家まで帰った。帰りの車内はやけに空いていて、僕らは並んで座っていた。隣に座る玲奈はじっと空の景色を、家々の明かりを眺めていた。
 僕は手遊びに玲奈から貰った貝殻を手の中で転がしていた。光沢のある貝殻だった。
「じゃあまたね」
 玲奈は家から最寄りの駅で降りた。
「ばいばい」
 僕は玲奈に軽く手を振った。

 次の日、玲奈の机の上には花瓶と花が置いてあった。僕は玲奈が自殺したことを知った。
 家に帰り、玲奈から貰った貝殻を眺める。
 薄い光沢を放つ貝殻はまるで玲奈の魅力のようだった。
 僕はベッドの中に潜り込み、激しく泣いた。ぼろぼろと涙が目から零れ落ちてくる。
 吸血鬼になり、感情を失いかけた僕が泣くなんて自分でも思わなかった。
 なんだかんだ玲奈のことを僕は思っていたのだ。

 次の日、封筒が僕宛に届いていた。僕が中身を開けると一枚の花柄の便せんが入っていた。
 その便せんに書いてある文字を僕は読んだ。

 さよなら圭介。
 書きたいことは君のことだけだった。
 きっと私が死んだのを知っているでしょ。
 本当に書きたいことは君のことだった。
 今、死ぬ間際になって君のこれからの人生に思いを馳せているの。
 君と見た海の景色は限りなく美しいものだった。
 貝殻を私からの贈り物だと思って、これからも頑張って生きてね。
 私は先にこの世界から消えることにしたわ。
 不思議ね。
 自分が死ぬ理由より君のことを心配してるの。
 そんなに君のために生きていたのかな。
 とにかく書きたいことなんて君のことしかないのよ。
 さようなら。君に恋してたわけでもないけど、私にとって大切な存在だった。
 三年間ありがとう。

 僕は便せんをそっと封筒に戻し、机の中に貝殻と一緒に閉まった。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

19/03/16 雪野 降太

拝読しました。
本作の玲奈さんは御作の『ヴァンパイア』に登場する方とは別人なんですね。登校直後に『なんで俺たちは生きてるんだろう?』という疑問を口に出さずにはいられない主人公の曖昧な不安が漂ってくる作品でした。
読ませていただいてありがとうございました。

19/04/09 滝沢朱音

もしもこの世界で、僕と彼女だけが吸血鬼で、僕は彼女を親友のように思っていたら――という設定は、まるで何かの比喩なのでしょうか。
いくら母親から血をもらっても、母親は吸血鬼にはなれないという事実が悲しい。
一人で東京に行こうとする僕に届いた、「君のために生きていた」という彼女の遺言と貝殻も、たまらなくせつなく感じました。

ログイン