1. トップページ
  2. 等しいおくりもの

naokitiさん

童話と詩を書いています。 書くことが好きです。

性別 女性
将来の夢 文章で稼ぐこと
座右の銘

投稿済みの作品

1

等しいおくりもの

19/03/10 コンテスト(テーマ):第166回 時空モノガタリ文学賞 【 おくりもの 】 ※時空作者による選考回 コメント:4件 naokiti 閲覧数:192

この作品を評価する

「本日から昼夜ずっと留守番電話にしています。電話に出ないとお父さんと決めました。用事の時は名前を言って下さい」
 母からのメールを見てどきりとした。振り込め詐欺やらオレオレ詐欺やら、それ以外でも様々な勧誘の電話が、かかってくることは聞いていた。ついに騙されたのか?
 私が両親の元へ帰るのがいいのかもしれない。兄妹で結婚していないのは私だけで、その上去年会社もやめてしまった。アラフォーからアラフィフに入ったのに、定職なし、夫なし、子供なし、彼氏なし、将来の展望もなんにもない。バイト代は家賃と保険料に消え、あとは貯金を切り崩す生活。いつまでもこのままではいられない。実家に戻れば家賃分は浮く。金銭的にもその方がいい。
 でも一人暮らしは気楽だ。田舎に帰省したらご近所のうわさになり、両親は肩身が狭いだろう。なんにもないまま帰れない。今回はとりあえず様子を見に帰ろう。実家にメールし、アルバイトは休みをもらった。
「アポ電のニュースをテレビで見てね、怖くなったんよ。留守電にして、必要な電話はかけ直すのがいいって聞いたから」
 のんきな母の言い分にほっとした。ボケてはいないし、体も元気そうだ。まだ夫婦二人で大丈夫だろう。
「おととい病院に行ってね、混んでたから薬だけもらってきたんよ。いつもは空いている時間に行くんだけど、出かけに秋野さんが来てね…」
 秋野さんはご近所に住むおばさんだ。母と合うようで、たまに話し込むらしい。父はテレビの前に座って動かない。昔から寡黙で何を考えているかわからず、ここ数年は挨拶程度の話しかしていない。母とは私よりしゃべるようだが、必要最低限に毛が生えたくらいの会話に思える。そのせいか母は私に向かって機関銃のようにしゃべる。病院に行ったとか、買い物にいって服を買ったとか、店員さんがしつこく勧めてきたとか、内容は他愛ないことで、過去に聞いたことのある話もちょくちょく入る。前に聞いた話にまた相槌をうつのはめんどうだが、いちいち指摘するのはもっとめんどうくさい。
「秋野さんがねえ、お宅のお孫さんは美人だってほめてくれるんよ。お母さん似だって」
 お孫さんとは妹の娘のことだ。妹は母に似ているから、つまり自分が美人だと言いたいのか。
「私はお父さん似だって言われるけどね」
 何気なく言ったら、随分な勢いで返してきた。
「そうそう! のりこが大学生の時、お父さんが寮に行ったら、友達にそう言われたって言っとったじゃない」
「そんなことあったっけ?」
「そうよ。ねえお父さん、のりこが大学生の時、寮に行ったら、友達に言われたって言っとったよねえ」
 いきなり声を大きくして父に話しかけている。思いがけず、父が振り向いた。
「うん。寮の玄関を入ったら、名前も言わないのに『のりちゃんのお父さんですね』って言われて、呼びにいってくれた」
 父は私の目を見てきっぱりと言う。その勢いに気圧され、返事に困っていると、父はまたテレビの方を向いた。
「ほら、確かお父さんそう言っとったし」
 母は勝ち誇っている。私が父に似ていることが、重要事項であるかのようだ。
 三十年近く前に似ていると言われたことを覚えていて、思わず真剣に語ってしまうくらいに、なんにもない娘であっても、親には特別なんだろうか。
 子供にとって、親は特別な存在だ。子供の頃、親は世界の全てで、大人になってからは、めんどうくさくても気にかかってしまう。そして親にとっても子供は特別らしい。それは全ての子供に、神さまが等しく与えたプレゼントなのかもしれない。何の肩書のない娘でも。現実がどんな関りであろうとも。
「お父さん、行ってきます」
「うん。気を付けて」
 次の日、声をかけた私に、父はテレビの方を見たまま、瞬きをしてそう返した。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

19/03/11 雪野 降太

拝読しました。
主人公を取り巻く状況の説明に生々しいものが感じられる作品でした。自分には何もないかのように感じていた主人公が、親の子ではあり続けるのだなあ、と実感する展開も自然な描写に思えました。
読ませていただいてありがとうございます。

19/03/11 naokiti

雪野 隆太 様

読んで頂いてありがとうございます。私にはない視点で感想を頂けるので勉強になります。

19/04/09 滝沢朱音

親から「似てる」と言われることは、親に自分が「承認」されている、そんなふうに思うときがあります。
親子の愛情って、他の何にも変えられない、特別な贈り物かもしれませんね…。素敵なお話でした。

19/04/09 naokiti

滝沢朱音さま
コメントありがとうございます。書きたかったことを承認頂いてうれしいです。

ログイン